借金発覚 第12話「十四年間失踪していた三男が発見された」
0〜11話までのあらすじ
五十二歳で大手生保を早期退職した父は、退職金を元手に怪しい投資ビジネスを開始するが、一年も経たないうちに退職金は蒸発。一家は郊外に引っ越し貧乏生活を始め、十八年が流れる。そんなある日、実家に同居している次女が父の借金を発見し、兄弟たちで大騒ぎに。兄弟たちは証拠を持って父に詰め寄り、ついに父は借金の存在を認めるのだが、父は自己破産をすることを拒否。「もうすぐ大金が入るから時間をくれ」と主張する。しかし、入金期限は相変わらず伸びてばかり。
主な登場人物
父・・・大手生保の営業マンだったが、五十二歳で早期退職。
母・・・農家出身で看護師。メンタルが弱い。
長男・・・五人兄弟の長子。既婚。地方都市に住む。
次男・・・五人兄弟の二番目。既婚。本書の主人公。
長女・・・五人兄弟の三番目。既婚。
三男・・・五人兄弟の四番目。独身の一人暮らし。
次女・・・五人兄弟の五番目。独身。父母と唯一同居。
十年以上行方不明だった三男が見つかった
十年以上行方不明だった三男が見つかったという連絡を受けたのは、それから数日後だった。
僕への最初の連絡は、長女からLINEに送られたメッセージだった。
「凄いビックニュース! 三男が見つかった! 次女が今会ってきたみたいだよ」
目を疑った。
次女からも着信が入っていたので、連絡を入れると、雑音と一緒に次女の声が聞こえた。
「ごめーん、今車運転してるんだけど、見つかったのよ、三男が!」
次女の説明だと、先ほど会ってきて、その帰り道だという。
「もう、最初はもう家族とは会いたくないって、言ってたんだけど、お父さんのことをちょっと説明して家族のピンチだって伝えたら、やっと会ってくれたの」
「どうやって見つけたんだよ? 凄すぎるな」
「うーん、それは秘密。というか、私も知らないのよ。知り合いの知り合いに探偵事務所で働いてた人がいて、相談したらその人が住所と電話番号を調べて教えてくれたの」
すごい。そんな事が可能なのだろうか。
「で、元気だったか?」
「うん、元気だったよ。ちゃんと正社員で働いてた。最初はもう家族とは会いたくないって言ってたんだけど、お父さんが借金でピンチだって伝えたら話を聞いてくれて。ほら、生真面目なところあるから、説明したら結構思いつめちゃって、なんか責任感じてたよ」
「はあ? 別にあいつのせいじゃないじゃん」
「私もそう思うんだけど、自分が家族をずっと放っておいたことが、ちょっと気になってるみたい。でね、自分の貯金を使ってもいいって言うのよ。全額は当然無理なんだけど、自分はお金を全く使わないからって」
これには驚いた。
「いや、それは駄目だろう。そもそも借金の全貌が見えないのに、部分的にお金を払っても問題の解決にならない。とにかく、直接会って話したいな」
「分かった。ちょっと本人と相談してみる」
次女の話しだと、家族には連絡先を教えたくない、とのことだったので、発見した次女が三男の窓口になることになった。
三男から兄弟たちと再会しても良い、と連絡が入ったのは、数日後のことだった。次女からのメッセージには、お金を払うな、という僕からのお願いについての、三男からのコメントも転送されていた。文面を読んで僕は苦笑した。
「基本的に兄たちに恭順していくが、自己破産ありきで話を進めるのはどうかな。親父を改心させるには、わずかずつでも借金を払っていく方が本人の為になるのではないかと思う。血と汗を流し返済していく過程で親父の目も覚めるのでは?
反省せずに債務から逃げていては道義にもとるし、同じ事を繰り返すだろう。まあ、回収代理会社に『返済の意思あり』と思われてしまうと厄介かもしれないが・・・兎に角、この話は兄たちと話を詰める」
内容についてはある意味筋が通っているが、恭順するって、どこの言葉だろう。ガチガチの文章だ。相変わらずの変わり者だ。僕は苦笑してしまった。しかし、とにかく三男が見つかってよかった。
(13話につづく)
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