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借金発覚 第14話「債権整理の専門家に相談に乗ってもらうことに」

0〜13話までのあらすじ

五十二歳で大手生保を早期退職した父は、退職金を元手に怪しい投資ビジネスを開始するが、一年も経たないうちに退職金は蒸発。一家は郊外に引っ越し貧乏生活を始め、十八年が流れる。そんなある日、実家に同居している次女が父の借金を発見し、兄弟たちで大騒ぎに。兄弟たちは証拠を持って父に詰め寄り、ついに父は借金の存在を認めるのだが、父は自己破産をすることを拒否。「もうすぐ大金が入るから時間をくれ」と主張する。しかし、入金期限は相変わらず伸びてばかり。そんなある時、数ヶ月間傍観者を決め込んでいた長男から連絡が入る。

主な登場人物

父・・・大手生保の営業マンだったが、五十二歳で早期退職。
母・・・農家出身で看護師。メンタルが弱い。
長男・・・五人兄弟の長子。既婚。地方都市に住む。
次男・・・五人兄弟の二番目。既婚。本書の主人公。
長女・・・五人兄弟の三番目。既婚。
三男・・・五人兄弟の四番目。独身の一人暮らし。
次女・・・五人兄弟の五番目。独身。父母と唯一同居。

債権整理の専門家に連絡してくれないか

ここ数ヶ月間、傍観を決め込んだかのような態度だった長男から連絡は入ったのは月曜日の夕方だった。
職場の上司に相談したら、債権整理の専門家だっていうTさんを紹介してくれた。すぐに連絡してみてくれないか
自分ですればいいじゃん。なんでまた僕が電話するの?
先日の父とのメッセンジャーでのやりとり以降、誰かに連絡を取るのが嫌になっていた僕はイライラしながら兄に反論した。

「こんな話、電話ですることじゃないだろ。東京近郊に住んでいるらしいから、三男と会う前に何とか会って助言を貰った方がいいんじゃないかと思ってね
と長男。確かにそれも一理ある。
分かった。連絡先聞いたんでしょ?LINEに送っておいて

僕がTさんに連絡を入れたのは、その日の帰宅後だった。Tさんは、数コールですぐに電話に出た。
はい、もしもし
あ、突然の電話、申し訳ありません。Tさんの携帯でよろしかったでしょうか?
はい、Tですけど
実は・・・
長男の上司のNから紹介された旨を伝えると、電話で快く相談に乗ってもらえることになった。

***

初めに断っておきますと、私は弁護士ではありません。ただ、仕事で長年、不動産関連の債権整理のお手伝いをさせていただいています
Tさんは丁寧にご自身のことを教えてくれた。僕も自分の自己紹介をして、父親の債務が発見されたことのあらましを説明した。Tさんはじっと耳を傾け、一通り説明を聞くと、はっきりと言い切った。
なるほど、分かりました。この問題の解決はそれほど難しくありません。安心してください
Tさんからの思いがけない言葉に、僕は驚いた。
えっ、どういうことですか?

現在の債権は、債権回収会社が持っているわけですね。最初に強調しておきたいことは、今回のこの債務は『無担保債権』だということです。今回の案件では、この『無担保債権』ということが非常に重要なポイントです
無担保債権、ですか
そうです。元々ローンを貸していた銀行があり、当然ですが、最初は債権はその銀行が持っていましたよね。この時の債権は、親父さんが購入したマンションが担保になった被担保債権と呼ばれています

被担保債権の場合は、支払いが滞った場合に、抵当権が行使されて、マンションは取り上げられてしまいます。銀行は取り上げたマンションを売却して、残債の支払いに当てますが、今回は売却しても、八百万円の残債が残ってしまった。

その残債は保証会社が銀行に弁済したわけですが、その段階で八百万円の債権はその保証会社に移ったわけです。その時の債権はどのようなものだと思いますか?
担保が無い債権ということですか
その通りです。元の担保だったマンションはすでに銀行によって売却されていますから、担保の裏付けがない、いわゆる『無担保債権』に変わってしまっています。で、今回はその保証会社から債権回収会社に、この無担保債権が譲渡されています
Tさんは一呼吸ついて、僕に尋ねた。
ここでクイズですが、例えば同じような一千万円の無担保債権があったとして、債権回収会社は、一体いくらでこの債権を購入していると思いますか?

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