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借金発覚 第5話「団地は買わない。来年、数千万円入る予定があるんだ」


0〜4話までのあらすじ

五十二歳で大手生保を早期退職した父は、退職金を元手に怪しい投資ビジネスを開始するが、一年も経たないうちに退職金は蒸発。一家は半夜逃げ状態で築四十年の団地に引っ越し極貧生活を始める。それから十八年の年月が流れる・・

主な登場人物

父・・・大手生保の営業マンだったが、五十二歳で早期退職。
母・・・農家出身で看護師。メンタルが弱い。
長男・・・五人兄弟の長子。既婚。地方都市に住む。
次男・・・五人兄弟の二番目。既婚。本書の主人公。
長女・・・五人兄弟の三番目。既婚。
三男・・・五人兄弟の四番目。独身の一人暮らし。
次女・・・五人兄弟の五番目。独身。父母と唯一同居。

父が早期退職してから二十年経った

それからさらに十四年の時間が流れ、父が早期退職してから二十年近い年月が過ぎた。

五人の兄弟のうち、長男、僕、長女は結婚し、家庭を築いていた。三男は相変わらず行方不明、一番次女は紆余曲折を経て、数年前から実家に戻って両親と一緒に住んでいた。

両親の希望で数年前から年に一度は一族で集まるようになったのだが、お金にまつわる過去のトラブルからの父とのギクシャクした関係はずっとそのままだった。

父は長い間定職につかずに、ずっと何をしているのか分からないような仕事をしていた。ただ、はっきり分かっていたことは、父が度々話していた大金は相変わらず入ってこなかった、ということだった。

後で僕が処分を託された母の日記を読むと、何度も大金が入る約束を母にしては裏切られ、母が落ち込む記述が何度も出てくる。

そんな父も、ようやく数年前から都内で警備員の仕事に就くようになった。シフト制で夜勤もあるが、若い頃に鍛えた体のお陰で、病気もせず元気に働くことができていた。

母は、健康診断の仕事をずっと続けていて、実家の経済的な大黒柱であり続けていた。母の話だと、母の職場では七十歳で定年とのことだった。

***

団地は買わない

両親は相変わらず郊外の賃貸物件に住んでいて、年間の家賃は百万円ほど。決して小さい額ではない。

母の定年が約一年後に迫ったある日、定年後の家賃負担を心配した僕は、母に聞いてみた。
安い団地でも購入して引っ越した方がいいんじゃない? 郊外に行けば、三百万前後でもあるよ
僕のプランは、僕か長男がローンを組んで、母に毎月の支払いを入金してもらう、というアイデアだった。三百万円くらいなら、三年くらいで完済でき、その後は毎年の固定資産税、毎月の共益費と修繕積立金だけの負担で住居が手に入る。

ところが母は自分の意見を言うことを躊躇った。
家のことは私には分からないわ。お父さんに相談してみて
家賃を払い続けている本人なのに分からないってことはないだろうと思ったが、母の言う通り、頃合いを見て父にも同じ提案をしてみた。

すると、驚いたことに父の表情がキッと変わって、僕の提案を即座に否定した。
団地は買わない
何で? このまま毎年賃貸で百万円払い続けるのもったいないよ
実はな
父の声が低くなった。
来年あたり、この近くの一戸建てを購入しようと思っているんだ
は? そんなお金どこにあるの?
来年あたり、数千万円入る予定があるんだ
ふーん
また儲け話か。狼お爺さんが始まった。僕は馬鹿らしくなって、そこで話を終えてしまった。


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