見出し画像

水【連載インタビュー】『本の話をしよう。#2』by稲村有香さん


みなさん、お久しぶりです。「水」です。
2024年、新年あけましておめでとうございます。

2022年11月のインタビューぶりの更新ですが、お元気でしたか。
今年はゆっくりと更新していくので、どうぞよろしくお願いします。

さて、新年はじめは
『本の話をしよう。』第二回目。
ゲストは、稲村 有香(いなむら あるか) さん。

会社の同期で柔らかい空気を纏う人。
あるかさんは4冊の本と来てくれました。
どんなエピソードが聞けるのでしょうか。

それでは、さっそく会いに行こう!

_______________________________________


_____今回の4冊はどういったセレクトでしょうか?

あるか:これまでに印象的だった本です。絵にも興味があるので美術に関連する本もあったり。


_____本を読むようになったきっかけはありますか?

あるか:私が本にハマったきっかけは、吉本ばななさんの『キッチン』でした。短編集なんですけど、それがすごく読みやすくて。語り方も柔らかくて入りやすかったんです。

高校生のときはヘミングウェイとか海外の本はよく読んでいたんですけど、どうしてか『キッチン』が本を読み出すスイッチになって。そこからいろんな本を読み漁るようになりました。


_____あるかさんはお母さんの本棚からよく本を借りて読んでいたとお聞きしました。小さな頃から本が身近にあったのでしょうか。

あるか:そうですね。お母さんがすごく本が好きでずっと読んでいるんです。あまり携帯を見ない人で、電車の移動中も寝る前にも読んでいて。子どもの頃も絵本の読み聞かせをしてくれたり、いつも自分の周りに本がありました。それが今の自分に影響しているのかもしれません。

なので、お母さんの本棚から適当に読んだり、『これ読んだ方がいいよ』っておすすめを渡されて読んでいました。それでちょうど今朝、『もうおすすめする本なくなってきた』って言われて(笑)。

あるかさんのお母さんの本棚

_____完走してしまった?

あるか:完走しちゃって(笑)。だから、これからは自分で発掘しないといけない。そういうフェーズに入りました。

_____ちなみに今回の4冊もお母さんの本棚から?

あるか:はい、全部おすすめされた本です。どれも最近に読んだ本ではあるけど、特に面白かった本たちで。


_____親子で本の話ができるなんて素敵ですね。

あるか:『もうすぐ読み終わるから次の貸して〜』って言うと毎回2〜3冊を渡してくれて、それを読んでは返してみたいな。


_____近くの図書館みたいな。

あるか:そう、本当にそう(笑)。


_____本の感想は伝えたりしますか?中にはピンとこない本もあるかなと。

あるか:感想は言うかな、結構。ピンとこないのもある。でもお母さんは私のことをよくわかっていてそれに合わせた感じで選んでくれてる気がします。お母さんはいろんなジャンルを読むんですけど、怖い系とかグロい系は選択から外れていて。でも”おすすめ”って言われると、最初は気にならない本もやっぱり一応はちょっと読んでみたくなりますね(笑)。


_____これから本屋さんで自分で選ぶのも楽しみですね。

あるか:でも、新規開拓がなんでも苦手で。音楽もシャッフルしてこれ好きだなって気になった人を調べて聴いていくので、本もある一冊をおすすめしてもらってからいいなって思ったらその人ばかり。「本で選ぶ」というよりも、「人で選ぶ」のかもしれません。この作品が良かったからこれも読んでみようって。


_____あるかさんの「この作家さん良いな」とは、どんな感覚ですか?

あるか:文章的に読みやすくてしっくりくるなっていう感じですね。村上春樹さんとかは好き嫌いが分かれると思うんですけど、私は結構好き。なので村上春樹さんの作品は結構読み漁りました。


_____村上春樹さんはどんなところが好きなんですか?

あるか:最後が腑に落ちないような、どうなったんだろうって読者に委ねるものが多い印象で。現実的じゃない、猫が喋ったりする不思議な世界が広がっていたりしてそれが面白い。私は作品について深く解読するというよりかは全体像をさらっと掴むくらいでスルスル読み進めていく方なんです。だから、意味がわからない状況でも受け入れて進んでいっちゃう(笑)。「世界観を楽しむ」感覚で読んでいます。


_____本の世界観ですか。後ほどまたお聞きできればと思います。それでは早速、持ってきていただいた本についてお聞きしたいです。

あるか:
はい。一冊目は、山本文緒さんの『ブルーもしくはブルー』。この本は、蒼子(そうこ)という女性の主人公が、ある日自分の顔に激似の蒼子Bとすれ違うところから始まるお話です。数年前に気の合う彼氏と別れた蒼子Aは、自分と同じ顔の蒼子Bがその彼と結婚していることを知るんです。自分の選択が間違っていたんじゃないかって、見た目以外の性格も生活も全然違う蒼子Aと蒼子Bは人生を入れ替えてみたくなって。

山本文緒『ブルーもしくはブルー』

でもいざ入れ替わると、蒼子Aの中でやっぱり相手のここが嫌だったんだよなって部分がわかってきて、ないものねだりですよね。一方で、蒼子Bは次第に好き勝手に暴れはじめていくんです。それが次第にヒートアップしていっちゃって、それが面白いです(笑)。


_____もう一つの選択をしていたらって、一度は思ったことがありますよね。

あるか:そうそう。あのときこうしていたら、を実際にやっちゃうお話。人と別れると一年くらいは頭の片隅にどうしても考えてしまうことですよね。今は全く考えてないですけど、「過去」として良い出会いだったなって思います。出会いと別れって不思議で面白い。恋愛小説はキラキラしているお話よりもしんみりする方が好きです。


_____うまくいかない過程が面白いですよね。自分の人生には起きなかったことを他人の選択を通して見ることができるのも本の面白さだなと思います。では、次にご紹介してくれる本はなんでしょう。

あるか:
二冊目も山本文緒さんで『自転しながら公転する』です。この話は、最後の結末が最初にわかっているんです。なのに面白くて。初めにベトナム人との結婚式の場面が出てくるので、その間に出会う人がいても将来はベトナム人と結婚するはずなんですよ。主人公ははじめ寿司職人の彼氏との私生活に悩んでいるんですけど、頭の片隅では「ベトナム人と結婚するんだよなぁ」って気にしながら読み進めるのも面白くて。

山本文緒『自転しながら公転する』

寿司職人の相手はすごく良い人だけど将来の現実的な部分で不安があって、彼の生活と自分の生活とを比べちゃったりしてちょっとずつすれ違いが生まれていくんです。視点が変わって彼の目線でも話が描かれていたり、それも面白かった。それに、寿司職人と付き合っているときにもちょくちょくベトナム人が良い友達として登場してきて「あ、この人が」って(笑)。でも本当のラストは、またガラッと視点が変わる面白い仕掛けがあってすごく良かった。

_____ソワソワしながら読む体験が面白そう!タイトルも印象的です。

あるか:『自転しながら公転してるみたいだよね』みたいなセリフがあって。寿司職人が主人公に言うんですけど、空回りみたいな性格や生き方を表現した言葉だった気がします。話の中でサービスエリアの場面が出てくるんですけど、それがすごく印象的だったの覚えています。一瞬だったのに。分厚い本ですけどスラスラ読めちゃいました。

_____ありますよね。読み終えた後にある場面が印象的で離れない。それがサービスエリアの場面ってなんだか良いですね!では、次の本を教えてください。

あるか:
次は原田マハさんの『楽園のカンヴァス』です。舞台は日本とNYで、有名な絵の分析家であるトムブラウンとその弟子のティムブラウンという人物が出てきます。ある日、トムブラウン宛の招待状が間違ってティムブラウンのもとに届くんです。

原田マハ『楽園のカンヴァス』

その招待状にはある絵画の作者が誰なのかを解明してほしいという内容が書かれていて、ティムブラウンが勝手にこの依頼をやり始めちゃうんです。制限は7日間で、日本人の分析家と勝負することになって。

この物語で面白いのは、謎解きの鍵となる本が登場するところ。作中でその本を1章ずつ読み進めていきながら展開していく構成がとても面白いんです。ティムブラウンが読んでいる本を一緒に読み進める過程で、自分も分析家になった気持ちで絵画の謎の解明に近づいていく。

他にも、ライバルの過去を知ることで徐々に関係が変化していったり。ちょっとした恋愛まではいかない…お互いの気持ちとか、それと同時に解明されていく謎とか、色々なことが入り込まれていて面白いんです。


_____謎解きと人間模様どちらも楽しめちゃう。

あるか:そうそう。絵について解明されていくのがまず面白いのに、この本の中に出てくる本を読むっていう、物語が2つあるのがまた面白くて。


_____本の中にある本の物語。どんな体験ができるのか気になりました。では、最後の本を教えてください。

あるか:最後は昨日読み終えた本でまだホヤホヤなんですけど、辻仁成さんの『冷静と情熱のあいだ』です。この本も、海外が舞台に出てくるお話でした。

辻仁成『冷静と情熱のあいだ』


_____海外が舞台のお話が多いですね。


あるか:元々海外が好きなので、そういう海外での暮らしや風景が描かれている物語は好きです。主人公の男性は絵の修復士で海外に暮らしているんですけど、昔日本で付き合っていた彼女をずっと引きずっているんです。もう10年くらい。忘れられない、みたいな。別れ方もあまりよくなくて、自分の知らないところで行き違いをしてしまった感じだったんです。


_____10年はすごい。相当の心残りですよね。

あるか:
でも、イタリアでの新しい彼女がいて。昔の彼女は静かで少し不思議な感じで、今の彼女はすごくハツラツとしてる感じ。二人の印象が結構違っていて。「冷静と情熱のあいだ」っていうのが、昔の彼女の性格なんです。冷静であり情熱的な彼女。このタイトルに関しては、最後それだけじゃない意味がわかるんですけど。

二人は、30歳の誕生日にフランスの塔のところで待ち合わせようねって約束をしているんです。それを彼はずっと覚えていて。相手は覚えてないだろうってそこへ行くと、いたんです、彼女が。そこで二人はまた結ばれるのかと思いきやそうではなくて。二人は出会えたけれどまた別れてしまう。でも最後は、彼はまた戻るための電車に乗り込むっていう。なので、結末はわかりません。

_____決断をしたっていう終わり方なんですかね。

あるか:待ちこがれていた時間がいざ来ると実際は普通に受け入れてしまって特別感がないっていう、こんなに待ったのにこんな感情なのかって。そこに、ほぉ…ってなりました。終わり方はどっちでも好きでしたね。そのまま別れていても現実的なのかなと思うし、作品のようにまた向かっていくのも好きです。どうなったんだろうって。この作品もやっぱり恋愛だけじゃなくて、絵の修復士としての話もあるのでそこも含め面白かったです。


_____4冊のご紹介ありがとうございました。先ほど「本の持つ世界観」についてお話してくれましたが、紹介してくれた4冊にもあるかさんが感じたそれぞれの作品が持つ「イメージ」などはありますか?

あるか:うわぁ……あると思います。『楽園のカンヴァス』はちょっと薄暗い美術館で、舞台もローマなので曇った空に雨が降っているイメージかな。『自転しながら公転する』は、サービスエリアの駐車場のイメージ(笑)。さっき話したように物語のシーンでもあるけど、そこがすごく印象的なんです。天気は曇り、これはめっちゃそう(笑)。

『ブルーもしくはブルー』は明るい公園のイメージ…なんでかはわからないけど。『冷静と情熱のあいだ』は室内の窓から街並みを見ているイメージ。…確かに、言われてみればそういうイメージはあるかもしれないです。

だから、もしかしたら本が持つ雰囲気みたいなものが自分に合う合わないが関係しているのかも。学校とかはちょっと苦手です。私が好きなのは、情景的に自然な感じだと思います。

_____面白いです。本の描写からだけではなく、明るいや暗いなど、あるかさんの過去の記憶や感情と照らし合わせて作品のイメージが出来ていくのかなと思いました。

あるか:それはあると思います。それこそ今回持ってきた本の中に寿司職人が出てくるお話がありましたけど、私が前に付き合っていた人が寿司職人だったんです。お母さんは私が付き合っていたことも知っていたので、本をおすすめされたときは内心「寿司職人じゃん…」と疑いました(笑)。

読んでいるときは考えてはなくても、きっと無意識に自分の過去と照らし合わせて読んでいた部分もあるかもしれないです。他の人がこの本を読んだらまた違うだろうし、どんな情景が残るのかすごく気になります。

_____これまでのお話を聞いて、あるかさんは恋愛だけを描いた作品よりも、あくまで日常生活の中でそうした要素も含めれた作品が好きなのかなと思いました。これまでお母さんの本棚からたくさんのジャンルの本と出会ってきたかと思いますが、好きな本の特徴やジャンルは何かありますか?

あるか:人生の物語かな。まさに恋愛の要素も入っていたりしながら、その人ひとりの人生を描いている作品が好きですね。そのときの気分でミステリー読みたい!ってなるときもあるんですけど、絶対的に好きなのは、人生の物語。”もう一つの物語”が自分の中に出来る感じが好きなんです。


_____”自分の中に出来るもう一つの物語”とは、あるかさんにとってどのようなものなのでしょうか。

あるか:本を読んでいるときはそこの住民なんです。自分が物語の主人公ということではなくて、そこに入り込んで第三者として見ている。その人の人生が気になってしょうがない人みたいな(笑)。自分の人生では体験し得ないことがそこにあるので、自分の見方を広げてくれたりこんな人生も良いなって思ったりします。借金取りに追われてて海外に逃亡する、とか。おもろ〜って(笑)。自分の小っちゃい悩み事なんてなんでも良いじゃんって、いけるわって。

_____今後、挑戦したいジャンルはありますか?

あるか:詩とかを読んでみたいですね。新規開拓できていない分野です。


_____今回はあるかさんの本との出会いや楽しみ方、おすすめの本をお聞きしました。普段、本を読んだあとは誰かに話をしますか?

あるか:する人があまりいないですね。同じ本を読んでいる人が周りにいなくて。しなくても良いかも。…でもしたら楽しそう。同じ本が好きって言われたら嬉しいですよね。合うのかなって、仲良くなりたいって思います。だから友達に本をよく勧めたり貸したりするのかもしれません。確かに。話したいのかもしれないです。


_____ぜひこれからも本の話をしてください!今回はお話いただきありがとうございました!


____________________________________________

【今回、あるかさんがご紹介してくださった本】

・山本文緒『ブルーもしくはブルー』(角川文庫)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322101000891/

・山本文緒『自転しながら公転する』(新潮文庫)
https://www.shinchosha.co.jp/jiten-kouten/

・原田マハ『楽園のカンヴァス』(新潮文庫)
https://www.shinchosha.co.jp/book/125961/

・辻仁成『冷静と情熱のあいだ』 (角川文庫)
https://www.kadokawa.co.jp/product/200103000568/

____________________________________________


水【連載インタビュー「本の話をしよう。」vol.2】
取材協力・タイトル文字:稲村有香さん
企画・取材・撮影・編集:岡本彩江


次回もお楽しみに!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?