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宇宙最強の物質ー中性子星

 こんにちは。国際結婚して中国移住したエンジニア→研究員、KOです。
主に3つのマガジン、コラム上海現地採用ライフ物理・科学(基本やさしく)を書いています。

本記事はMinerva lab.にて、レビューを通してより洗練され、本記事よりもかなり読みやすくなっております。

皆さん、中性子星という天体をご存知でしょうか。以前にブラックホールの影が見えたということで大変賑わいを見せましたが、実はブラックホールと同じくらい、いや、ある意味それ以上にぶっ飛んだ星として、中性子星というものがあります。皆さんにそのヤバさ魅力が伝わればと思います。

途中で疲れたり難しすぎると感じたら、特にこの引用ボックス内の注釈などは適宜飛ばして太文字を中心に読んでください。どなたでも楽しんで頂けます。逆に物足りない方は、最後のおまけにある専門的な説明までお読みください。
出てくる数字は、オーダーを理解してもらうための、だいたいの数字です(そもそも大体しかわかってないことが多い)。

大きさ、重さ

どれくらいぶっ飛んでいるかというと、まずはその密度大さじ二杯が琵琶湖と同じ(300億トン)くらいあります!というのも、質量はほとんど太陽と同じくらいで、半径がおよそ10 kmほどしかないのです。ほぼ太陽質量で半径10 kmですよ?下の図をみてください。太陽1個をぎゅ〜〜っと圧縮して、地球よりもずっと小さく、ざっと東京湾に収まるくらいです。人間を同じだけ圧縮したら0.01 mmで見えなくなります。ヤバくないですか?

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宇宙で最も極端な天体として、しばしばブラックホールが登場します。しかしブラックホールは、星として見ると少し特別枠とも言えます。なぜかというと、情報が内側に向かって一方通行にしか伝わらない事象の地平面と呼ばれる”境界”があるからです。いわゆる、光ですら逃げられないという、アレです。従ってその内側にあるブラックホールの”本体”は、私たちの宇宙と隔絶していると言えます。
残念ながら私たちは、ブラックホールの中がどうなっているのか、質量は数学的な点に集まっているのか(そんなこと可能なの??)、あるいは実は有限の大きさなのか、とにかく、中のことはさっぱりわからないのです。
一方で中性子星は、基本的には私たちが知っている粒子で構成されており、立派に実態があって、そのスベスベの表面を触ることができ、かつ確認されている最も極端な星なのです。

宇宙最強の物質...それは核物質!

しかし一体何でこんなに小さくなれるのか?それは私たちを構成する原子の構造に理由があります。地球上のあらゆる物質は、原子(水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム...)がくっつき合ったものです。
日常生活では原子をほぼ最小単位とみなしても良さそうですが、実は原子核と呼ばれる真ん中の芯と、その周りに存在する電子からなります。そして原子核は、陽子と中性子という粒子からなります。
原子の大きさは、周りの電子の分布サイズで決まります。そしてその原子と原子核の半径の比は、図にあるように1:0.00001にもなるのです!なので、原子でできてる太陽と、原子核 or 中性子でできてる中性子星の半径は、だいたい1:0.00001になります

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つまり、原子は実は中がほとんどスカスカなんです。そして中性子星では、物質がとてつもない重力で押し込められているので、電子が終いには原子核の中の陽子と呼ばれる粒子と反応して中性子になり(注)、それらががぎゅうぎゅうに詰まった状態になるのです。中性子星は、中性子どうしが重力でくっついた、いわば半径10 kmの原子核なのです(しばしば核物質と呼ばれます注)。
中性子星の核物質密度は平均して~10 億トン/ccにもなります。宇宙最強の物質はオリハルコンでもアダマンチウムでもなく、中性子星の核物質で決まりでしょう。重すぎて使い物になりませんが。。

注:逆の反応、つまり中性子が反応して陽子になる反応も存在しますが、実は強力な重力を支える仕組みである、縮退と呼ばれる状態により、逆の反応が禁止されています。
注:ネタバレ注意。三体というSF小説の中で、宇宙人が作った飛行物体が登場します。核物質でできているようなので、もしかすると中性子星からできてるのかもしれません(実際にそんなことができるかは知りません。あくまで私の予想ですが、中性子を結びつける重力が弱すぎること、原子核は原子番号が大きすぎたり中性子がアンバランスに多いと不安定になることなどから、核爆弾よりも恐ろしい勢いで爆発する気がします。専門家に聞きたい所です)。

界王拳でもムリ?中性子星の重力

さて、そんな、星にしては超絶小さく、原子核と呼ぶには超絶でかい中性子星、もちろんこんなに高密度な星ですから、重力も半端ないです。表面重力は地球の2000億倍大気はおよそ1 m程度です。孫○空が普通の物質でできている限り、界○拳を使っても、絶対に耐えられないでしょう。中性子星からボールを投げて脱出させる場合に必要な脱出速度はだいたい光速の60%ほどになります。この60%というのは、いろんなことを意味します。ここではそのうちの一つ、重力エネルギーの解放についてお話ししたいと思います。

原発の100倍すごい?ー中性子星の重力エネルギー

凄さが伝わるように、少しだけ予習しましょう。皆さん、アインシュタインの特殊相対性理論によると質量とエネルギーは等価とか、E=mc^2とか、なんとなく聞いたことがあると思います。例えば原発では、核エネルギーとして莫大なエネルギーをわずかな燃料から取り出すことができます。この時、実は核燃料の質量がだいたい0.1%だけ減少します。

つまり、質量エネルギーの0.1%程度を取り出す程度の効率で、わずかな燃料から街の電力を賄うこともできれば、あるいはたった一個の爆弾で街をまるまる破壊できてしまうのです。

さて、それでは話を戻します。まずはダムを想像してみてください。もの(水)が高いところから低い所に移動できる様にすると、重力によって絶えず加速され、落下し続けます。ダムではこの時のエネルギーを電気エネルギーに変えます。もし自然に落下に任せれば、その大量のエネルギーは轟音をたてて水を砕き、凄まじい風を巻き起こし、それらは最終的に1個1個の(水や空気の)分子の乱雑な動きである熱エネルギーになります。

同様に、中性子星でも物が落ちると、それは重力によってとてつもなく加速されます。そして中性子星表面にぶつかるころには、ざっと光速の60%ほどにまで加速されるのです。ものが落ちて中性子星の一部になるまでの間に解放されるエネルギーを計算すると、全部で質量エネルギーの数10%ほどになります。

先程の原子力エネルギーを思い出してください。解放される質量エネルギーはせいぜい0.1%程度でした。しかし中性子星の場合、10%と、まさに桁違いです!

ちなみにもし魔人○ウが中性子星に落ちてから脱出したら、そんなに代謝の効率がよくても着地と脱出それぞれで数10%、合計で半分くらい体重が減って、スリム○ウになると思われます。

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どうでしょうか?実は中性子星には様々な多様性が知られており、また、他にもいろんな顔を持っていますが、まずは入り口として、なんか中性子星ってスゲー、と思ってもらえたら、それだけでも十分、書いた甲斐があります。

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中性子星ってホントにあるの?

ここまで読んで、こう思う方がいるかも知れません。本当に中性子星ってあるの?と。実は私たちの銀河系の中でも、中性子星は何百、何千と見つかっています。以下、X線画像をyoutubeから引用します。
青白いのがX線で見た像で、真ん中あたりの小さい塊が中性子星です。実際には中性子星はあまりに小さく、このイメージの分解能よりもずっと小さいです。

https://youtu.be/pIoDD_TDsZI

最後に

以下のグループ、Minerva Lab.でも記事を書いています。こちらでは科学的をキーワードにした、より質の高い記事が(もちろんダダで)読めます。

最後に、私の大好きなyoutube channel、Kurzgesagtの中性子星についての動画を貼っておきます。説明も、アニメーションも、音楽も、全てが素晴らしいです。日本語字幕もついていますが、ぜひ英語での素晴らしいナレーションとアニメーションを同時に味わってほしいです。


おまけ(専門的に興味がある方向け)

最後に:
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