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バラエティ制作現場で学んだ大事なこと

テレビの制作現場について

どのようなイメージをお持ちでしょうか。


ツラい、ブラック、臭い。

これは一昔前までのことで、

今のADさんはしっかり

人間らしい生活ができているかもしれません。


私が働いていた当時は

「家に帰れないからマンション借りなくていいよね」

と言われる時代でした。


でも私はこの現場が好きでした。

なぜでしょうか。


テレビ制作の裏側は

別の機会でお話します。

まずは、この現場で学んだこと

この仕事を始めて感化を受けたモノを

お話できたらと思います。



ますはじめに

テレビ制作現場って大変なの?


大変です。
上司が帰っていいよと言うまでは基本的に帰れません。
何日も帰れなかったり、帰れても深夜になるので
近くのサウナにシャワーだけでも浴びに行こうと
こっそり抜け出すとすぐに
「あいつはどこに行った」となります。
電話が鳴りやみません。

会社で寝るときは
“AD”と聞いて想像されるような
「椅子をくっ付けて寝る」はあまりやりませんでした。
落ち着いて寝たいので、
ドン・キホーテで買った安いマットを自分のデスクの下に敷き
椅子をデスクの中にできる限り押し込み、
さも「ここにはいませんよ」と存在を消していました。
または、会議室の隅でこっそり寝ていました。
元々、木の上で寝る習性がないので
椅子のように安定しない高所は不安で仕方ありません。

自宅に戻れたある日、翌日寝坊をしました。
ベッドで寝ると気持ちが良かったのです。
会議に間に合わないと慌て、
チーフADに「胃腸の調子が悪いので遅刻します」
と連絡しました。
チーフADも仲間も、寝坊だと気付いていたと思います。
申し訳なさそうな顔で出社すると
「胃腸、大丈夫?」
と声を掛けられました。
これからは寝坊しません、と心に誓いました。

普段このような状態なので
担当ネタが被っておらず
奇跡の20時帰宅を迎えられたとしましょう。
………なにもできません。
何をしたらいいか分からないのです。
気持ちはとてもハッピーです。
うしろの時間がたんまりあるのだから。
やりたいことは沢山あったはずですし、
それを想像して頑張れるときもありました。
でも、いざというとき何をしたらいいのかが分からない。
ひとまず近所のスーパーでローストビーフを購入し、
発泡酒で流し込みました。


①求められるものは何か

テレビ制作の現場は初心者で入っても
何も教えてもらえません。
基本スタンスは「見て覚えろ」です。

それでも良いのです。
なぜなら、これまで
「見て覚えて、創れる人が育ってきたから」

AD1年目で、同期・2年目のADたちと
番組の告知VTRを5秒、15秒、30秒の3種類作り
1番良かったものを採用してもらえるという機会を与えられました。

私は音に合わせて、今までと全く違うテイストで素材を繋ぎました。
選ばれませんでした。
選ばれたのは、今までのアーカイブを見て研究し
「何秒ごとにこのシーンを入れる」など
細かく計算した作品でした。

その結果は極めて適切です。
当時の私は「新しい風吹かせてやるよ!」
というマインドで、自分が好きなように作成し、
自信満々で提出しましたが、
本当に求められているのはそこじゃない。

なぜこの番組が人気で
なぜこんなに長く続いていて
なにを求められているか。

自分は、そこまでの思考に至らなかった。
今あるものは、
今まで携わってきたプロフェッショナルたちが
考え抜いて行きついた結果なのです。

このことに気付いたのは何年も経ってからなので
当時採用されたADは本当に凄いと思います。

新しいものを取り入れようと発案するのは
とても良いことですが、
元からあるものを軽視してはならないのです。


②本当にやりたいことは何か

ADはディレクターが帰るまで帰れません。
そこにいろ、と言われれば夜中までそばで待機します。

あるときは自分の作業が終わり、
次のネタの仕込みも終わり、
何もすることがありませんでした。
時刻は深夜1時。帰りたくて仕方ありません。
なぜなら、それまで数日会社に泊まり込みだったのですから。

意を決してディレクターに言いました。
「帰ってもいいですか?」
小声で震えていたかもしれません。
もしくは、わざとらしく明るく振る舞ったかもしれません。

「俺がオフライン(素材を繋ぐ作業)してるのに?」

社内は一部しか電気が点いておらず、
暗闇の中でデスクトップのあかりがポツポツ灯っています。
その静けさの中だったので余計に「怒られた」と思いました。
辺りには、私のようなADが黒子のように待機しています。

「すみません。ここにいます。」

数時間後、オフラインの終わったディレクターは
「おい、終わったぞ。」
と言い残し、帰っていきました。

また、ある時は
社外で作業をしているディレクターに
映像素材の入ったHDDを渡しに行きました。
ディレクターに物を配達するバイク便的な作業は
ADの重要な仕事のひとつです。

無事にHDDを渡し、
「では、お疲れ様です。」
と会社に戻ろうとしました。
まだ自分のやるべき作業がたんまり残っているからです。

「ここにいろ」
「すみません、素材を渡したらすぐ帰社するよう
先輩から言われています。」

ここでディレクターはブチ切れです。
「何で先輩に言われたからってすぐに会社に戻るんだ。」

先輩に言われたからじゃん…
と思いました。正直泣きたくなりました。
遅く戻って注意されるのは私です。

「先輩に言われたから会社に戻るの?
それとも自分が戻りたいから戻るの?
お前は、俺のやってる作業、見なくていいの?」

ああ、なるほど
と思いました。
このディレクターは私にチャンスを与えてくれているんだ、と。

新人ADにとって、
「ディレクターが何を考えながら素材を繋いでいるか」
「ディレクターが求めている素材はなにか」
それを学ぶことは、願ってもないチャンスです。

思えばバラエティの企画会議では、
どんなに偉いプロデューサーでも
沢山の番組を世に出すディレクターでも
下っ端ADの意見をしっかり聞き
「どこをどのように調理すれば面白いか」
真剣に考えアドバイスをくれます。

面白いことが好き。
その為には、色んな意見を聞く。
面白いものがあればそれを世に出すために工夫する。

そんな、天性の
"ヒト楽しませ病"にかかった人間たちなのです。

「見て覚えろ」の真意は
なによりも丁寧に
「明らかに教えてくれている」ものでした。


おまけ

楽しんで仕事をしていても
「ああ、しんどい」
と思うときがありました。

向いてないなと思ったことも多々あります。
そんなとき、あるディレクターが言いました。

「向き、不向きより、前向きが一番だよ。」

そのディレクターはとても忙しく
業務連絡の返事もなかなか返ってこない人でしたが
ロケ終わりで悩んでいた私に掛けてくれたこの一言が
ずっと心に残っています。


いま、とても悩んでいる人がいるかもしれません。
仕事であったり、家族であったり、
はたまた恋人、友人関係、勉強………。

私も悩み事が尽きません。
そういうときはこの言葉を思い出します。

「前向きが一番!」



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