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裁判も、地方都市ならではの経験があるという話(過失運転致死) 傍聴小景#37

旅行の計画においても裁判をどうにか絡めているおかげで、現在全国で22ヶ所ほどの地方裁判所またはその支部で裁判の傍聴の経験があります。いつか全国の253ヶ所での傍聴を達成したものですが、果たしてどうなることやら。

土地ごとに傍聴していると言うと、その都道府県ごとの特徴などありますか?と聞かれることがあります。
さすがに、1〜2度の傍聴くらいでその地を知った気になるような適当なことは言えませんが、いわゆる大都市とそれ以外では圧倒的に車の違反や事故の裁判が多い気がします。件数として実際多いのか、比率として多いのかわかりませんが、これはやはり車の依存度の違いなのかなと思います。

そして、その土地ならではということではありませんが、やはり人口規模の小さい都市の場合、裁判の数が少ないので、なんか初々しさを感じることがあります(謎の上から目線)。なんか張り切っているように見えたり、逆に慣れてなさが全面に出ちゃっていたり。
今日はそんな訳で、すごく小さな町にある裁判所で出会った事件の話です。

◆はじめに

罪名 :過失運転致死
被告人:30代のベトナム人男性
傍聴席:7名

今回は車の運転での死亡事故について。
交通事故は被害者関係者の傍聴が増えがち。今回も5名のご遺族が傍聴に来られていました。残りは僕と、もう一人は地元の記者の方なのかな?

この裁判は5月にあったもの。その頃はまだコロナウイルスの影響を鑑み、傍聴席も一席空ける措置が取られていました。
この地方の小さな裁判所は法廷が一つだけ。その一つの法廷も傍聴席は16席しかなく、一席飛ばしだと当然8席に。ただ、開廷前から被害者参加人が多いことを把握していたのでしょう、被害者関係者ばかりで傍聴席が埋まるのもと思ったのか、裁判官の判断で一席空ける措置が解除されていました。

開廷の前に裁判官からお願いがありました。

マスコミの方々にお伝えいたします。
当裁判所も、従来コロナウイルス感染防止のため、傍聴席を空ける措置をしていましたが、本日多くの傍聴人の方が来られると聞いておりましたため、裁判の公開という面を鑑み、その措置を解除しております。
これは裁判官の判断による対応であり、全国的なものではありません。何卒ご理解のほどお願いいたします。

お願いは承りました。しかし了承はいたしません。という、とある男のモノマネはさておき、
国の機関としてこういう説明をちゃんとしないと、色々言われちゃうのかもね。しっかり堂々した話しぶりでした。ただ、普段話慣れないアドリブの効いたセリフだったので、緊張してやや声が震えていた気がするのはご愛嬌。
それにしても「マスコミの方々」ってのは僕も含まれていることなのでしょうか。だとするならば、報道の指名を背負った記事作成に尽力しようじゃありませんか。

◇事件の概要 -死亡事故と言っても公道の話でなく―

被告人は、アルミ加工工場で勤務していた。
その工場内でホットコイルを積んだフォークリフトを、そのホットコイルで前方がよく見えていない状態で運転していた。5km/hほどの速度であったが、工場内で勤務していた男性をその運転により衝突、挟んでしまい死亡させた疑い。

罪名から、車での死亡事故だということはわかっていたのですが、こういった業務内での事故としての適用は初めて見ました。こういったものだと、「業務上過失致死」とは異なるのですね。

◆罪状認否 -被告人として譲れない点-

この起訴の内容について、被告人が認めるか否かの罪状認否を行います。ここで、ちょっとした物言いが。

裁「今読まれた起訴状について、
  被告人は言いたいことはありますか」
被「仕事をしているとき、
  今までフォークリフトを降りて確認するなど
  周りもしていません。

  被害者がそこにいるとは思わず、驚きました」

裁「あなたが挟んで死なせてしまった
  というのは間違いないですか?」
被「その事実は間違いありません」

ここの内容については、次の検察官の提出の証拠とともに説明します。

◇検察官が証拠として提出した資料や供述など

・被告人は令和元年に来日している
・ホットコイルを載せた車両は、遠くは見えるがすぐ近くはその積載量のため見にくい
・ホットコイルの重量は5,400kgだった

その他の現場従業員
「普段から被告人は手伝いをしてくれるなどして働いている。事故直後は大声を出して何か言っていたのでただごとでないのはわかった。現場は仕切られているわけではないので、注意する必要がある」

現場責任者
「安全宣言を作っており、ベトナム語でも唱和させているなどの対策は講じていた」

被害者遺族
「被害者には孫が一人いて、溺愛していた。まさか仕事に「じゃあ行ってくる」という言葉が最後になるなんて。
 被告人は、当然わざとやったわけではないと思うが、処罰を望まないとは言えない。被害者のことを忘れずに生きていってほしい」

この裁判の争いとなるのは、被告人にどれほどの過失があるかという点。
検察としては、事故は防げるはずだったのに今回は…と証明したく、弁護側としては確認不足は否定しないけど、それは現場の今までの慣習的に仕方がない部分があった、としたいんでしょうね。

そういう争点がある中、遺族としてはどういう気持ちで傍聴するのでしょうか。
被告人に大きな過失がないのはわかっていて、その大小が争われる。なんなら被害者の方も注意不足の面があったという話なんかになるやもしれません。
真実というのは必ずしも知らなくてはいけないわけではないのかもしれません。

◆被告人質問 -被告人の過失を考える―

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