見出し画像

【注目】高収入、バリバリ犯罪、実刑食らうバイトあります(窃盗) 傍聴小景#40

窃盗の裁判って、なんか人として一番浅い部分の欲が顕在化しているようで、ついつい気になって見てしまいます。何を盗ったかに、その人の今まさに必要としているものが見え、人それぞれの環境の違いに気付かされたりとか。
その窃盗事案の中でここ数年、大きな主流となっている罪状が、カードのすり替え詐欺というもの。

詳しくは、この動画の02:05~をご覧ください。

警察などになりすまして、家まで行ってカードを持っていっちゃうというものですね。

この事件、ものすごく多いんですよね。んで、個人的な意見としては、単純に金銭目当てでほぼ同情ポイントが少ないのと、狙われるのがご高齢ということで正直見たくないと思う事例ではあります。
とは言え、たくさん見ていたらそれなりにここで扱ってもいいやと思うものに出会う訳で。

はじめに

罪名 :窃盗
被告人:30代の男性
傍聴席:平均15人(2回)

被告人は30代の男性。この時点で、すり替え詐欺の匂いがプンプンします。
というのも、あんまりこの犯罪って年配の人が裁判にかけられない(やってないっぽい)んです。なんでだろ?ある程度、年齢いった人の方が、役になりきる演技とか、会話とかもスムーズにいきそうな気がするんですけどね。

事件の概要(起訴状の要約) ~窃盗と詐欺のお勉強~

被告人は、全国銀行協会の職員となりすまして、氏名不詳者らと共謀。当時90歳の方が住む家に「キャッシュカードが不正利用されている恐れがある」と電話し家に訪問し、目を離したスキに別のカードとすり替えて、ATMで100万円を引き出したという疑い。

この事件内容を聞いて「これって窃盗なの?詐欺じゃないの?」と思った方もいるかと思います。え、僕だけじゃないよね?
いくつか調べてみると、人を騙して財物を交付させるという行為の中で、交付した側の意識が大事のようです。

相手にカードが渡っていると認識している上での引き出し行為は、その引き出しをする用途などを伝えずに騙してそのカードを交付しているから詐欺罪
すり替えの場合は、あくまで被害者は相手に渡しているという認識がなく、それをすり取った形となるので窃盗罪ということのようです。どうやら。

難しい法律の話はさておき、被害額100万円ですよ。金額の大きさもですけど、90歳という年齢で、お金をどう使っていくかといろいろ思案していたであろう中で、このような目にあって、かける言葉も見つかりません。今回、1円も被害弁償はなされていません。

検察官が証拠として提出した資料や供述など

・被告人は高校中退後、職を転々とし、今は交際相手と同居している
同種の前科1犯で服役経験があり、出所後4ヶ月での再犯
・金銭に窮し、SNSで「闇バイト」と検索し犯行にいたった

・被告人は引き出した100万円をそのまま自身のものとして持ち去った

今回の件、何が珍しいって、この100万円を持ち去った行為なんですよね。

この手の犯罪ってものすごく役割が細分化されていて、誰が捕まっても親玉まで辿り着けないようにするもんなんですね。指示役、電話役、お金の受け取り役、引き出し役、運搬役、入金口座作り役などなど。そして、見張り役ってのもいるものなのですが、今回はそれをケチっちゃったのか、被告人がある意味信頼を得ていたのかわかりませんが、お金を持って逃げれてしまったと。
この手の裁判はいくつも傍聴していますが、いわゆる親玉みたいな人のは見たことないんですよね。覚醒剤の売上は反社へ行くのはなんとなく想像できますが、こういう特殊詐欺の売上はどこへ行くんですかね。何も考えずに逃げたのか、そう大した組織ではないから逃げられると思ったのか気になるところです。

被告人質問 ~文字にすると際立つ曲がった倫理観~

さて、同種前科もある被告人。どうして同じことをしてしまったのか、そして今の反省の度合いなどが気になるところです。

弁「刑務所を出たあとどうしましたか」
被「心機一転、真面目に働こうとしました」

弁「そして、どうなりましたか」
被「建設会社に就職することになりました」

弁「そのとき、今同居している彼女と出会う訳ですね。
  結婚の予定は?
被「今年の6月の予定でした」

弁「5月に逮捕されたから、結婚できていないですよね
被「…はい、そうです」

そりゃあな。
沈黙たっぷりで、後悔している感じで言う被告人。細かい時間軸まではわからないけど、結婚相手がいて、そんな行為に手を染めて、後悔しているなんて虫がいいというか、当たり前だろとしか思えないです。

弁「今回、なんで、やってしまったのですか」
被「10万円が入った財布を落としてしまって」

弁「それでどう繋がるんですか」
被「彼女に生活費を借りていて、返さなきゃと思って」

弁「ほかに誰かから借りられなかったんですか」
被「教習所などのローンで他の人にも借りていて」

弁「この行為が特殊詐欺だとは思わなかったんですか」
被「思いました」

弁「それなのに、何故?」
被「それは、自分の心の弱さです」

もうさ、「心の弱さ」って証言は全面的に禁止にしてくれないかなって思うんですよね。
悪いことだとわかってて、ダメな方へダメな方へズルズルいってしまうのはなんとなくわからなくもないですが、「心の弱さ」っていうと手を差し伸べる必要があるみたいじゃん。「ひん曲がった自分の倫理観」とかに言い換えてもらえないでしょうか。

弁「盗ったお金はどうしたんですか」
被「借金返したり、遊びに使ってしまいました」

弁「本来、そのお金はどうするものだったのですか」
被「かけ子(詐欺グループの役割の一つ)に
  渡さなきゃいけませんでした」
俺(本来は、返すというのが正解だと思うけど

弁「どうして、自分で使っちゃったんですか」
被「これだけあれば、余裕があるなって」

そりゃあな(本日二回目)。こんな人にお金を持っていかれた被害者が不憫でなりません。
あとノーギャラになってしまった詐欺グループの電話役の人も。
冗談はさておき、こういう詐欺グループって、お金を持ち逃げされないようリスクマネジメントってちゃんとしてるんですかね。言ってしまえば、こういう短絡思考の人を束ねなければならないわけで、普通の会社よりも二重三重の手を考えなきゃいけないのかな、なんていらない心配をしてみたり。まぁだからこそ、こういう末端の人はいつでも切り捨てられちゃうんでしょうけど。

論告・求刑 ~落とした財布と事件はどこまで関係ある~

検察官の論告
・多発している特殊詐欺の事案であり、計画的な犯行で悪質
・被害額は100万円と多額で、なんの弁償もされていない
・前刑終了後4ヶ月後の犯行で規範意識の鈍麻は相当
求刑 懲役四年

弁護人の弁論
・最もリスクがあり使い捨ての立場だった
・結婚を約束していた身で、財布を落としたから起きた犯行
・困窮することがなければ犯罪はしない

申し訳ないけど、結婚を約束する相手がいて、財布に10万を入れられる生活であれば、困窮のためやむなしという理由はどうなんでしょうかね。ダメはダメだけど、被害額が10万円だったら、まだ言い訳も聞けたかもだけど、かなり私利私欲のためだから心情は悪いですよね。


判決 ~避けられない実刑~

主文 懲役三年 未決勾留数30日参入
・周到に用意されたシナリオに則っており組織的
・従属的立場だが、なくてはならない存在
・前科があり、生活困窮を理由に
 犯罪をしてはいけないと認識する機会があったはずの
 再犯は規範意識が相当に弱い

このnoteで、初犯などが理由で執行猶予付きの判決を多数紹介しています。まぁ今回は前科ありという人でしたけど、この事件は初犯でも普通に実刑くらいますよ。

今回、被告人はSNSで「闇バイト」で検索して見つけたらしいです。私も試しにTwitterで「闇バイト」と検索すると出るわ出るわ。1日10万円とかいうのもありましたよ。ゴクリ。
警察もいちいち相手にしてられないでし、撲滅なんて出来るとは思っていませんけど、少なくともこれをお読みいただいている方は周りの人にも気を配っていただきたいと思います。マジで初犯で実刑ありますし、なにより社会的に超問題行為ですので。

今回の人の場合、奥さんが待っていてくれるそうなので、なんとか救いの手になることを心から願います。
ちなみに、闇バイト落ちしていない私も、いつでも奥さん募集しています。

ここから先は

0字
毎週2本の記事を投稿します。有料記事は完全書下ろしで、珍しい裁判や、特に関心をお持ちいただけると思っているものを選んでいます。 記事単体でもご購入いただけますが、定額の方がお得です。初月は無料ですので、是非お試しください。

傍聴小景 会員限定ページ

¥500 / 月 初月無料

毎月約100件の裁判を傍聴している中から、特に印象深かったもの、読者の方に有意義と思われるもの、面白かったものを紹介します。 裁判のことを…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?