責任能力を争う裁判。法廷内で行われた前代未聞の暴行はどう影響する?(窃盗、公用文書毀棄等) 傍聴小景#92
法廷ってのは多くの人が来ますけど、やっぱ何かしら罪を犯した疑いがかけられている人が来ますので、血の気の多そうな方がどうしても多くなります。
とは言え、そういった方々でも偉いもんで、法廷の中ではそれなりに丁寧な言動を努めるものです。
しかし、時にはみんなの恐縮などなんのその、縦横無尽に振る舞う方がいらっしゃいます。病的なもので制限効かない方もいらっしゃれば、単純に止める気がない方も。
果たして、今回はどちらのケースなのか。
はじめに ~GTOのころの窪塚みたいな被告人~
ガッツリ脇を刑務官に囲まれて法廷に入ってきた被告人。通常2名のところ、4名に囲まれており、相当問題人物であることが想定されます。
しかし問題人物といっても、いわゆるソッチ系のタイプではなく、顔は整っていて、似てはいないんだけどいい頃の窪塚洋介系顔(GTOのころの)。
あぁだからヤバい感じなのかと後付けで思ったり。綺麗な黒髪を後ろで束ねています。
被告人、席に着くなり、傍聴席をジロジロと見ています。見渡すという感じでなく、一人の顔を数十秒見て、次の人に行く感じ。睨みつける感じでもなく、観察されている感じ。とても薄気味悪い。
なお、この被告人、事件が報道されるレベルの方でした。パトカーで移送される様子が映っていたのですが、ガッツリ中指を立てて、大満足な笑みを浮かべていました。興味がある人がいたら調べてみてください。
そんな被告人、裁判官からの名前や住所を聞かれる人定質問に全く答えようとしません。人ってここまで表情を変えずに無視できるんだと感心したものです。
「はい、ダウト。人定質問って証言台でやるから、傍聴席から表情見えるわけないじゃん」と思うかもしれませんが、後で推測で理由はわかるのですが、裁判を通じて被告人質問を除いてほぼ証言台は使われず、ずっと被告人席で聞いていました。
事件の概要(起訴状の要約) ~俺はやってない~
たまにいるんですよね、リサイクルショップに入る人。
言い方悪いですが、腕時計など盗むのに、どうしてリサイクルショップなのかなと思わなくもないです。
そして、供述調書を破いて、椅子をぶん投げたという事件。
恐らくなんですが、証言台に立たせなかった理由ってこれなんですよね。投げられることを恐れてか、証言台からは椅子が撤去されていました。
それにしても、調書というのはいつまで紙なんですかね。紙なんて、スペースは取るし、今回のように破かれるかもしれないし、そのうち電子文書で、電子署名にサインなんて日が来るのかななどと考えるのです。
でも、するとしても、相当大々的にだろうから、いつになることやら。
さて、これらの疑いに意見を聞かれると、被告人は小さく一言。
確かにそう聞こえました。
しかし小さな声だったので、裁判官も「今、「俺はやってない」って言ったんですか?」と聞き返す始末。
しかし、聞き返した結果は答えてくれませんでした。まるで、何かのSOSを求めるような展開に、この裁判は揉めるなと確信した訳です。
弁護人は責任能力を争うとしつつ、被告人と十分に話ができていないということで、意見は次回以降に持ち越しとなりました。法廷で見る限りでも、被告人は弁護人にも意見をロクに述べていない様子なのです。
2回目の罪状認否と証拠調べ
さて結構、日を置いての次の期日。果たして何か進展あるのかなと思い、裁判が始まるのを待っていたところ、被告人が満面の笑みで入廷して来ました。ムスッとしてても嫌だけど、満面の笑みも恐いよ。
でも、席に着いた途端、また前回のような蛇のような目で傍聴席を見つめる時間になりました。
アイドルのコンサートで演者と目が合うと喜ぶのは愚の骨頂ですが、この法廷であれば間違いなく被告人と目が合うことができるので、オススメです。
さて、改めて被告人に事件についての意見を聞くのですが、
活発な授業参観日くらい「はい!はい!」と威勢よく言ったと思いきや、またも完全黙秘。こう極端だと、これでいろいろと精神的に負担がいきそうだけど、などと余計な心配をしてしまいます。
弁護人はそれぞれの事件について、大筋は認めるものの、いずれも責任能力を争うと主張。確かに被告人の様子を見ていれば、その主張は真っ当だと思います。
などと検察官が読み上げている最中、いきなり立ち上がる被告人。
検察官を強く睨みつけ、中指をおったてています。さすがマスコミのカメラに向けたのと同じく中指立てるのは名人芸。取り囲む刑務官も立ち上がります。
ここで裁判官一喝。
ただただ命令するのでなく、こんなときでもどうして座るのか、被告人の裁判を受ける権利も含める形で伝える裁判官にマジ痺れました。
その後、検察官が請求した証人尋問が行われました。
証人は検察官で、被告人のスマホが初期化されたタイミングを検証した、デジタルなんちゃら課に属する方でした。検察官の中にもそういうデジタル班がいるんですね、かっこいいです。
初期化日時については、その屋根裏に隠れていた日程という主張のようです。
その間、被告人はというと、証人が少しもごついたら笑ったり、「お前、はっきりせぇよ」などとヤジって注意されたりしていました。
まぁ証人さん、非常に緊張されてたからそのツッコミも無理ないかなと思いつつ、でもすぐ近くにイス投げ魔がいたら緊張もするわな。
被告人質問 ~得体の知れない恐さ~
被告人質問なんてやってもちゃんと喋るのかなと不安になっていたら、弁護人は質問をしないとのこと。
被告人の中には、弁護人には話さないみたいな特異な人や、とにかくコミュニケーションが充分にとれていないケースもあるので、極まれに弁護人が質問を拒否するってことはあるんですよね。
ってことで、中指をおっ立てた相手である検察官からの質問です。
なんか恐かったねぇ。
僕が読み物として一番恐いと思っている『黒い家』という作品があるんだけど、それに通じる得体の知れない恐さがありました。
本を読む方でしたらオススメです。
警察の取調べって、何か大チョンボが起きないと注目されないけど、こういう大変な経験をたくさんした上で日々の治安が維持されているんだよねと思うと感謝感謝です。
これにて、質問は終了。言っていること、やっていることはムチャクチャなんだけど、話として全く通じていないわけでもない絶妙なライン。明らかにキャラを作ってる人にはこの感じは出せないでしょう。
裁判官も少しだけ聞きます。
そ、それは危ないおクスリの話なのではないでしょうか…?
つまり、最近は精神安定などのお薬は飲んでいないご様子。それにしてはこれまでの回に比べて落ち着いているように見えました。
精神鑑定請求とそして…
被告人質問の次の回は、精神鑑定の請求に対する裁判官の判断を述べる回でした。
それだけの予定なので見るところがないかなと思っていたのですが、
被告人の黒くて長い髪の毛がばっさりいかれ、マルコメくんになっていました。
なんでしょうね、さっぱり清潔感は出たんですが、懲罰的にさせられたのかなとか色々考えたら、なんとも複雑な気持ちになってしまいました。
そして裁判官は、精神鑑定必要なしの判断を下しました。弁護人は即刻異議を申し立てていましたが、通りませんでした。
確かに、被告人の精神不安定さは十分に伝わるのですが、善悪の判断はついているように感じます。その一方で、しっかりと追いかけている事件で、精神鑑定にかけられるものを見たことがなかったので、少し残念に思ったり。
そして次回は、検察官による論告と弁護人の弁論を行うことに。その次は判決です。なんだかんだ、もう終わりかぁと少し寂しい思いになっていたところ、
事件が起こるのです。
検察官による論告が始まりました。
ってな感じで始まったところ、検察官の読み上げる声より大きな声で
と叫ぶ声。
なんぞ?と思ってメモから目線を上にあげたら、
被告人が刑務官の肩を思いっきりグーでばこーーーーーんっと殴ったのです。
裁判官は何か下の方にボタンを押す仕草と共に即刻退廷命令。すぐさま法廷の外からも人が。そのころには、被告人は刑務官に取り押さえられ、後ろ手に手錠をかけられていました。
いやぁ、ドキドキしたぁ。
この態様で取り押さえられるのは仕方ないですが、後ろ手に手錠させられているのに、退廷命令出されているので「ほら!自分で立て!」と刑務官に言われているのは少し可哀そうでした。
被告人だけでなく、傍聴人もいったん全員外に出されました。顔馴染みの職員さんに様子を話す僕。同じく顔馴染みの新聞記者さんにも話してあげました。他の報道されてる裁判裁判員に入って、まんまとスクープを逃しおって、ケケケ。
法廷内に人が戻されました。裁判官が被告人不在のまま、この日の残りの手続きを行うと宣言します。
弁護人は「精神の不安定さによるもの」ということで、異議を出しましたが棄却されました。
裁判官からは「え、こんなことがあって異議出すの?」って驚かれていましたが、これこそが弁護人が訴えている精神異常なのだから、訴えは至極もっともだと思うのです。
検察官は犯行は合理的に行われており、証拠の隠滅も図っている。粗暴な対応などもあり、懲役5年を求刑。
弁護人は、複数の人格や幻聴が聞こえており、自宅での錯乱、精神安定剤の服用性、前刑の裁判については犯行を認めないため精神鑑定の検討もされなかったが、今回の判断は誤っている。心神喪失状態だから無罪という主張でした。
被告人が不在なことは仕方がないですが、いざ不在の人を双方があーだこーだ言うのってすごく違和感がありました。刑事の第一審は本人がいないといけないというのが、なんかすごく分かった気がします。
判決 ~納得ともあもあを残した判決~
判決の日、口笛を吹きながら入廷する被告人。
刑務官は6人に増え、すぐに対応できるようになっています。まぁ4人の時点で即対応できてたから、6人になったところで何が変わるのだろうという感じではあったのですが。
検察官の主張が基本的に通った判決でした。
精神障害は否定できないが、弁識(物事の道理を理解すること)が失われているとまでは思えない、という評価に僕も同様の思いです。そして前刑の執行猶予が取り消される見込みから、求刑からの多少の考慮をしたとのことでした。
判決内容、判断に異論はないんだけど減軽するほどではないけど、精神の不安定さは明確に出ていたのが、法廷内でも明らかだと思ったんですよね。ってか、そもそも最初から拘置所の職員を多めに配置してるんだし。
精神鑑定と裁判って、報道だとネガティブに取られがちだと思います。「どうせ嘘ついてるんだろ?」、「犯罪犯して無罪はありえない」などなど。
僕の中でも、この分野の勉強が足りていないので、明確に意見を述べられるものではないのですが、精神という曖昧なモノの中には当然カテゴライズしきれない層もいるはず。
目の前でその一部始終を見せつけられたのに、それはそれ、これはこれと明確にジャッジできる裁判官に頼もしさともあもあを感じたのでした。
今回の記事は動画にもしています。
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