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車に掴まっている人がいるのに急発進!煮え切れない態度の被告人に、裁判長がまさかの決断 傍聴小景 #127(傷害)

ちゃんとしている裁判官ってどんな方だと思いますか?ふわっとした聞き方ですし、答えなんていろいろあるので難しいとは思いますが。

裁判官って堅物だ、融通が効かないだとか言われがちですが、やはり人によって違いはあります。そんな中、今回紹介する裁判の裁判官は、よく怒る方なんです。

ただ、怒るといっても、被告人にただ怒りをぶつけるタイプではなく(そういう日もあるのですが)、その怒るポイントがいいんですよね。裁判とはなんぞやって考えさせてくれる方なので、僕の中では「ちゃんとしている裁判官」なのです。


はじめに ~ホスト+傷害事件=????~

罪名 :傷害
被告人:20代の男性
傍聴席:平均13人(全3回)

被告人はホストのお兄ちゃん。見た目で判断もどうかと思いますが、そのスーツの着こなしから漂うホスト感。ただ、法廷では申し訳なさそうにしていたり、ナメてる感じはしなかった。謙虚さすら感じる。それがプロのホストたるところかもしれませんが。

しかし、罪名を見ると凶暴さを感じさせる傷害。
パッと浮かぶのは殴る蹴るという暴行。ホストの後輩に手を出したのか、交際女性に手を出したのか、いろいろと浮かぶものではありますが、どうやっても事前に予想のつかない酷い態様でした。


事件の概要(起訴状の要約)

事件は午前10時頃。
被告人は車を運転し路上に停車中に、被害者(55歳男性)が路上側から運転席側の窓枠付近を掴んでいることを知りながら、あえて発進させた。被害者が車に掴まったまま平均速度48km/hほどで64mほど走行し、被害者を路上に転倒させ全治21日間の打撲等を負わせた。

被告人は事実を認めました。

なんつう危ない事件。過失運転というのとも違うし、確かに傷害罪になるんですね。
というか、この内容ならむしろ20日間ほどの打撲が済んだこと自体がラッキーとも思えるレベル。詳しい内容が気になります。


採用された証拠類 ~後続車のドラレコにばっちりと~

検察官証拠

事件の経緯
被告人は知人等と飲酒をしており、その後助手席に知人を乗せレンタカーで帰るところだった。その際、被害者の乗った自転車に衝突するが、被告人車両は逃走する。
被害者は自転車で先回りして、赤信号で声をかけようとしたが、酒の臭いがしたのでそれを指摘し、警察に通報するなどし、被告人とやり取りする中で急発進させケガをさせる事件となる。

被害者の供述調書
追突された後、会釈だけされて車両はバックして逃走してしまった。追いかけて捕まえたが、助手席の窓が開き「おっちゃん、勘弁してや」などと言ってきた。運転席の被告人にも降りるよう促すも「ごめんね」などと言いながら急発進した。
窓の内側を持っていたため引きずられ、倒れた衝撃で歯が欠けて、左目が見えにくい症状が出ている。

被告人が借りていたレンタカーのドラレコ
狭い商店街みたいなところの出口で、信号待ちをしている被害者自転車後部にちょこんと衝突している影像。その後、声をかけようとする被害者を尻目にバックで逃走する様子が法廷に流れる。
事件のときの直接の映像はなし。

引きずりの際に、被告人車両の後ろで停車していた車のドラレコ
被告人車両脇に人がいる状態で、青信号になった途端に急発進し、一気に見えなくなる様子。画面ではよく見えなかったが、確かに最初ひきずられた人物がいるように見えた様子が法廷に流れる。

先ほど、法廷で申し訳なさそうにしていると書きましたが、そらこんなことしておいて堂々とされてても困ります。
後続車のドラレコ影像の精度はわかりませんが、まさしく急発進という言葉が最適な速度で、すぐに車両が見えなくなってしまいました。例え数十メートルでもあの速度で引きずられたのなら恐怖です。

被告人に前科前歴はないようです。最初の衝突時に素直に謝っておけば(そもそも飲酒運転しなけりゃいいんですが)、こんな大きな事件にならなかったはず。
やはり、こういう有事の際の気の迷いというのはさらなる悲劇を生むものです。逃げたいという選択肢が浮かぶこと自体を否定する気はありませんが。

ちなみに今回とは別件ですが、警察官に停車を求められたけど、急発進させた事件にも遭遇したことがあります。これは車内に置いていた大麻の発覚を恐れたものでした。その事件もいずれ、何かしらの形で発信したいと思っています。


弁護側書証
・示談書 治療費等を支払い、被害者は被告人を宥恕(許すの意味)する
・振込明細 示談書に基づく振込が完了している

100万円の示談金が支払われたようです。治療費の額がどんなものかわかりませんが、それなりにしっかり支払った印象です。

ちなみに、被告人は店舗No.2のホストさんだそうで、月給は100万を超えるくらいだとか。そんなもらえるなら、飲酒運転などせんとタクシー移動でよかろうに。


被告人質問 ~裁判官が割り込んでまさかの展開に~

初犯でありがちな情状証人などは特になし。確かに、よっぽどでないと、あまり意味ないのではと思うので、なくてもそんな変わらない気はするのですが、やはり無いと寂しいものですね。

何か事情があるのかもですが、質問の中で家族関係の話題も一切なかったです。単純に量刑に左右しないと思い、触れなかっただけなのか。
弁護士さんは、よくお見かけする私も好感を抱いている方。要点をまとめてサクサクと進めてくれる進行は、傍聴してて心地よいものですが、この裁判官との相性はどうかなと少し不安があったり。

事件の日は午前5時~10時くらいまで飲んでいたとのこと。
ホストさんは飲み始めの時間も遅いというか、早くて大変ですね。被告人は焼酎のお茶割を5杯ほど飲んだとのこと。仕事中にたくさん飲むから、プライベート飲みは落ち着いたものを飲みたいのかな。

弁「飲酒運転の認識はありましたか」
被「パーキングで寝てるから大丈夫と思ってたが、レンタカーの延長が2時間までではあったので急ぎたい気はあった」

弁「最初、被害者にぶつかった認識はありましたか」
被「なかったです。同乗者とも当たってないよねなんて話をしてて、赤信号時のブレーキの沈みかと思いました」

弁「レンタカーを返したとき、キズ代の請求はありましたか」
被「ありません」

飲んでたのが5時~10時で、事件が10時なので、パーキングで寝たというのがいつのことか謎でしかないのですが、別にそんなに酔っていなかったという主張。
仮に認識はそうでも、事件にいたる諸々の判断を考えると、酔ってたと言わざるを得ないとは思うのですが。

また、ぶつかったこと自体は争ってはいないものの、車の傷にもならない程度であったと。では、なぜ逃げたかというと「恐かったから」だそうです。

確かに、車に守られているとはいえ、因縁つけられたら厄介だとは思います。しかし、ここで絡まれた様子も、レンタカーのドラレコに残っていました。物の感じ方は人次第でしょうけども、そこまでの絡まれ方なのかなぁと感じたり。

検察官がわざわざドラレコの様子を公開したのも、お上手な弁護人の言葉に惑わされないよう請求したのかなとも思ったり。

弁「その後、追いつかれましたね」
被「最初、助手席の方に来たけど、話をしている最中に逃げちゃって。その後、運転席側まで来ました」

弁「来てどうなりました」
被「窓開けて話そうと思ったんですが、『エンジン切らんかい!』と言われてパニックになってしまって、次に腕とか車内に入ってきたら走って逃げようと」

弁「いつ発進しましたか」
被「青信号になったのと、相手が腕を少し引いた気がしたので」

弁「被害者が車に掴まっているとは気づいていましたか
被「目視はしていないが、影はあったように感じます

弁「車を止めようとは」
被「パニックになって考えられませんでした」

パニックになりつつ、相手が腕を引いた印象があった気がする冷静な被告人さん。
「掴んでることを認識しながらあえて発進」という起訴状でしたが、その悪質さを薄めるためか、そのあたりの故意について、若干ぼかした印象です。

弁「自ら出頭をしたのは何故ですか」
被「同乗者から、『さっきのところに救急車いるけど』と言われて、もしかしてケガさせてしまったのかなと思い」
僕(逃げた同乗者、どこまでも他人事感w)

弁「スマホで『アルコールを早く抜く方法』など検索しているようですが」
被「初めてで恐くて」

弁「酔っている認識はさっきないということでしたが」
被「酔っている認識はなかったです」

裁判官「全く認識なかったの?」
被告人「はい」

急遽入ってきた裁判官。

弁護人は、検察官が出した証拠をポイントポイントで引用し、それにより与える悪質な印象を少しでも薄める努力をしている感じでしたが、さすがに酔っている認識はないというのに「アルコールを抜く方法」を検索するのは不自然でしょう。

ここを裁判官は見逃しませんでした。

それ以上、突っ込むことはしないのがむしろ不気味な印象を残して、検察官の質問に移りました。

今まで飲酒運転の経験はなく、抵抗はあったものの、家までならと代行を呼ぶなどの頭にはならなかったよう。
色んな酒飲みの相手をしているはずなのに、代行浮かばなかったのはは無理があるでしょうよ。No.2にのし上がるためには、いろいろなご経験をされたでしょうに。

検「最初に被害者とぶつかったところですが、そこって車が走っていい場所なんですか?
被「ダメなところです」
僕(えっ…?)

検「それに気付かないほど酔っていたんじゃ
被「酔っていません

検「ぶつかった影像を見ても酔っていないと」
被「はい」

証拠で体内のアルコール濃度が出されていないので、恐らく被告人のググりが功を奏したのか、客観的な数値などで立証ができていないのでしょう。
なので状況においては、「酔っていません」と言い続けるしかないのでしょうが、車が入ってはいけない場所に進んでいたとは…。アルコール関係なく、運転の適性なしということで免許取り上げましょう。
ドラレコで明らかに狭い商店街みたいな場所だったので気にはなっていたのです。

検「起訴状だと窓枠を掴んだとあるけども、その認識はあるの」
被「はっきりと見たかというと、それは…」

裁判官「どっちなの?認識あるの、ないの?」
被告人「いや、えーっと」

裁判官「それを認めないということは、故意がないってことだから、無罪の主張ってことだと思いますよ。でも起訴状の内容は認めましたよね⁉
被告人「・・・・・・」

裁判官「検察官、このまま続けますか?」

検察官「否認なのかわからないので、ここで打ち切るというのもいいかなと」

裁判官「犯罪が成立するか大事な話です。無罪を主張するのであれば、そのように審理しないといけませんから、弁護人とよく話しておくように!」

と、ここで裁判は打切り。

この裁判官は厳しい人と冒頭で記載しましたが、認めるとしつつ、それに反する主張などをすると、徹底的にやり直させることで厳しい方なのです。同じような理由で、途中で裁判が打切りになる場に何度も出くわしています。
曖昧にせず、やりきってくれる感じなので、僕の中では「しっかりとした裁判官」という認定なのです。

弁護人も「やっちまったー」なのか、「細かいとこ見てるなー」の顔かわかりませんが、なんとも言えない表情で、その日は法廷を出たのでした。


被告人質問2日目 ~怒涛の検察官と懐柔の裁判官~

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