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「君って違法薬物っていくつ知ってるの?」から始まる会話術(大麻、向精神薬、麻薬特例法) 傍聴小景 #27

営業って聞くと、「なんかいらない商品を押し付けるみたいで嫌だ」
そう思っている方いらっしゃいませんか。
たった3分でいいです。僕の話を聞いてみてくれませんか?

みたいな、胡散臭い始まりとかどうよ?
もちろんここで、営業ノウハウなんて語る気はないですし、むしろ教えて欲しいくらいですが、社会に出て15年も経つのですから、自分なりの考えの一つや二つくらいあります。

新卒で入って、最初の半年くらいは頭をペコペコ下げる営業でした。営業商材がよかったのでしょう、これでもまぁ売れました。
そこから、妙に馴れ馴れしく仲いい感じにして売るような営業になったと思います。「い~じゃ~ん、契約してよ~」って。
そんで、結局行きついたのは、相手自身にちゃんと決断させる方法。相手の話を聞いた上での提案をして、「はい、ウチはお宅の話を聞きまして、ここまで叶えています。さて、どうしますか」と。

結局、口だけ適当にうまくしても、そんなのすぐボロが出るし、信頼構築にはならないんですよね。で、かつ、あなた自身も自主的に納得した上で締結すれば、その後のケアや改善についても話がしやすくなるでしょと。
今日は、そんなことを思った話。

はじめに

罪名:
・大麻取締法違反
・麻薬及び向精神薬取締法違反
・国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を
 図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律
被告人:10代男性
傍聴席:6人

まず目につくのがこの長い罪名ですよね。長い罪名でも意外と分割して読めば意味がわかるなんてこともあるけど、この罪名は難しい単語こそないものの、なんか同じような言葉が並んでる気がして、なんでこんな長くなってるのがよくわかんない。ついでに言うと、どういう罪状かもいまいちわからない。

そしてさらに目が留まるのが、被告人が10代ということ。
正確には、被告人の氏名や生年月日等は裁判官の判断により秘匿にされたまま裁判は進行したので、恐らく10代ってだけなんですけどね。わざわざ秘匿にしている点、風貌、検察官が読み上げる犯罪歴の年齢などから推測して。
罪名と年齢から、興味はあるんだけど、あんまり重そうなのは記事にするの気を遣うしなぁと正直あまり気乗りしないまま事件の内容を聞いてみます。

事件の概要(起訴状の要約)

・自身で使用する目的で、大麻、コカインなどを所持していた
・覚醒剤成分が含まれる錠剤をMDMAと誤信させられ、飲み込む
・海外から送られた、覚醒剤など違法薬物が入った荷物の受け渡しに加担
などなど。

ここで、などなどといったのが、ほかにも色々言ってたのですが、どこで何を何グラム所持していたかみたいなのが何件もあって、メモを取るのをやめてしまいました。
とにかく犯罪の規模が大きい。というか、規模自体は大きいんだけど、今回は被告人が顔出している範囲が広いって方がいいかもな。使用はともかく彼自体がなにか主導となってたものでもないので。
それでも、検察官が提出する証拠に何が書いてあるかはわかりませんが、広辞苑よりも余裕で分厚い、それどうやって綴じてるのと思う証拠書類が提出されていました。軽微な犯罪だと証拠書類は10~20枚程度に収まるので、これは本当に多かった。

さて、そんな大変なことをした被告人なのですが、坊主で野球部みたいな風貌。擦れてないとは言わないけど、辺りを睨み散らすとかでもなく、やる気がなさそうにだらけるでもなく、真面目に聞いているっぽい。模範囚っぽいといえば、そうかも。

検察官による証拠提示

・被告人は高校を中退しており、土木作業員などの仕事をしていた
・遅くとも17歳ごろから大麻を使用していた
テレグラムを用いて、大麻やMDMAを密売しており、
 200万円くらいの売上は上げていた
知人からMDMAと言われた錠剤を摂取した翌日に職務質問を受け、
 その後の尿検査で覚醒剤成分が含まれていることが判明した

テレグラムって、僕知らなかったんですけど、世界的にはLINEの倍くらいの人数が使ってるコミュニケーションツールなんですね。メッセージが暗号化され、運営者にも内容が伝わらないから、いい意味でも悪い意味でも流行っているのだとか。いいのか、それで。
ふ~ん、と思って自分のスマホを見たら、テレグラムが入っていてびっくり。確かになんかのセミナーで入れろと言われてほぼ放置だったけど、なんか危ないセミナーだったのかなぁ。

それはさておき被告人なんですけど、違法薬物を使ったのは先輩に誘われたからで、使用の目的は仕事のストレスを和らげたり、クラブで遊ぶときに気持ちを上げるためなどが理由とのこと。証言自体はよくある感じ。
ただ、どの供述調書、そして裁判での証言でも「覚醒剤については依存症が恐いと思っていたので、自ら使ったんじゃなく、騙された」という主張を通してます。この証言自体は覚醒剤の使用について争うということでなく、依存度はまだ高くなく更生の可能性ありという意味で言いたいのだとは思うけど、なにか釈然とはしません。

弁護士や検察官からの被告人質問に対しても、終始、積極的に答える被告人。
いい風に捉えたら、悪い先輩に誘われてから、調子乗っていろんなことをしてしまったけど、悪いことだとは思っていた。捕まって、警察からの指導なども受けて立ち直るために頑張るっす!という意欲みたいなのは見せようとしている。

これが演技か本心かはわからないけど、なんというか軽いんですよ。
軽いってのは、ここではチャラいとは違って、僕はこの被告人は悪いことして素直に反省の態度を示していると思っているんです。ただ、それはそういう矯正的な環境にいるから、それに看過されてるだけなんだろうなと。
でも、もし外に出てしばらくして、悪い人に言葉巧みに誘われたら、割とすぐにまた騙されそうな気がしている。罪の意識が薄いってことでなく、物事の判断しているポイントが浅いというか、なんというか。

だからなのか、検察官も罪を立証するというより、本当に罪の意識があって、二度としちゃだめだよってのを必死に諭している感じ。でも、なんだか不安なんだよなぁ。
「反省しています。なので、もう大丈夫です。なぜなら反省をしているから」みたいなのを目をキラキラさせて言われても、今はきっと何を言っても通じないしなと思いつつ、あんま言い過ぎて反省の意思を損なわないかが難しいところ。

検察官の質問が終わり、最後に裁判官より。今回、裁判官は3人いて、裁判長の両脇は40前後か、それよりも若い人が担当。その若い裁判官は、なんとか被告人に声を届かせようと、

「今回の件、ちゃんと親に話したかな?」
「最初は、ちょっと言いにくくて」

「でも、その後はどうしたの?」
「その後はちゃんと言いました」

「そうだね。今後は一緒に生活していくんだから、
  辛いことでも言っていかないとダメだよ、約束できる?」
「はい!」

って優しく語って、被告人も警戒心を解くんだけど、ただ目線を下げて話してあげただけ。
これでは、仲良くなってなぁなぁな感じで、その場だけの契約を取っていた入社半年の私の営業スタイルと一緒です。ここで「はい!」って言ったところで、相手は自分に都合のいいことがあればそんなのすぐ忘れます。

では、真ん中に座っているベテランの裁判長はいかがでしょうか?

君さぁ、違法薬物の種類ってどれくらい知ってるの?
「え~っと、3~4種類です」

いきなりの変な質問に戸惑う被告人。
ちなみにこの裁判長はタメ語で被告人の警戒を解いてるんじゃなくて、だいたいの人にこんな喋り方なのです。

「ちょっと言ってみて」
「コカイン、大麻、MDMA、覚醒剤..」

「覚醒剤って自分でわかってて使ったことはあるの?」
「いえ、ないです」

「じゃあさ、なんで手元のが覚醒剤じゃないって思ってたの?
「もらった人に覚醒剤じゃないって言われたんで」

「そういう風に言われて、それを信じて使っちゃってたってことはさ、
  今までも知らないうちに使ってた可能性あるよね?
  そうしたら、君が恐れていた依存の症状が出てもおかしくないのって
  わかるかい?」
「…」

言葉を失う、被告人。
そうなんです。覚醒剤使用については、恐らく本当に騙されていたのでしょう。でも、違法薬物自体は、自発的に摂取していたわけですから、自分は大丈夫と思っていながら実は、自分が恐れていた覚醒剤の薬物依存に近い形になっていたのかもしれないのです。

「覚醒剤使用については騙されてのことなんだろうけどさ、
  ダメージを受けているのは自分の体っていうのは理解しているかい?」
「…はい」

「いいかい、反省するのは当たり前だけど、それだけじゃなく、
  君自身が学んで自分自身を守ったり、周りに迷惑をかけないよう、
  頼る人を間違えてはいけないというのは今回の件でわかったかな?
「はい」

どうも他人事感がなくもなかった、被告人の反省の弁。
刑罰という形だけでなく、自身の健康にまで害が及んでることをわからせ、自分の意思で正しく道を誤らない、そしてその正しい協力者を得る必要性をわかりやすく説いていました。

まだまだ未熟な年齢なのに、やたら「はい、はい」言っているなと思っていたんです。本当にわかってるんかいなと。
今回の裁判官の説諭がどこまで効果があるかは、ここからは被告人の自発的な頑張りによるものですが、被告人にはこのときの言葉を忘れずにいてほしいなと思います。

判決

主文
懲役二年以上三年以下 未決勾留日数40日を参入 罰金三十万円

10代だしどうなるかなと思ったのですが、実刑判決が下りました。もちろんやったことは許されない行為ですが、厳重な処罰だなと感じました。

ただ、これは第三者だから言える、超勝手な考えですが、
この被告人には外で考えさせるより、一度中でしっかり教育を受けた方がいい結果になるのではと思いました。普通この言い方って、どうしようもない人に対しての言葉なんですけど、彼の場合は彼のことを思うと自然とそう思いました。

裁判官の説諭ってどうやって鍛えるのでしょうね。
だって大半の人が、裁判官が言ったら、実際はどう思ってても「はいはい」言うしかないと思うんですよね。そんなのが続くと、裁判官も人の子、その説諭に酔ってしまったり、正しさの基準がぐらつく人もいるんじゃないかなと思うんですよね。
それが揺るがないから、裁判官の仕事ができるのかな。働くものとして、あの確固たる姿勢ってのは学ぶところ多いと思いますよ。

今回の裁判は動画でも紹介しています。もしよろしければ、こちらもどうぞ。


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