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ケガを負わせた子どもが「嘘をついている」と供述。裁判官も割り込む被告人の無茶な言い分(傷害) 傍聴小景#89

「疑わしきは罰せず」は法の大前提なのですが、それでも心情的にどうかね?と思ってしまうことがあるのは、私がまだまだ未熟なのでしょう。

でも、たまにいるんですよ。「疑わしきは罰せず」に、胡坐をかいて偉そうにしている人が。それは権利として尊重しますので、頼むから僕の前には表れないでくれと思う気持ちにはどうにも抗えないわけで。


はじめに ~傷害罪に感じやすい嫌な感じ~

罪名 :傷害
被告人:30代の男性
傍聴席:平均5人(傍聴した2回)

外見は例えるならば、ウーマンラッシュアワーの村本(村本さんごめんなさい)。彼をもうちょい目つき悪くしたような被告人。ヤンキー的なやんちゃ感はないけども、なんか機嫌悪そうというか、内々で怒りを貯めていそうな雰囲気が漂っています。

傷害って、そのまんまですが人にケガを負わせた罪です。なので、やっぱ恐いというか嫌な雰囲気をまとっていると感じる人が多いので、傍聴後になんだか嫌な気持ちになることも多々あります。


事件の概要(起訴状の要約)

被告人は、当時7歳の被害者に対して左耳付近を殴ることで、全治3週間の鼓膜穿孔(穴が開く)を負わせた

悲しいことに一定の割合で子どもが被害者の事件というのは、やはりあるものでして。当然、傍聴していて怒りの感情になります。それは行ってしまったという行為にはもちろんのこと、もう一つとして、「子どもが嘘をついている」という供述に触れてしまった場合ですね。
もちろん、子どもが嘘をついたという場合もあるのでしょうから一概には言えないのですが、どうせそれで逃げられるだろうという雰囲気を感じることがあります。


採用された証拠類 ~交わされた示談の内容に「?」~

検察官の請求証拠
被告人は妻子がいるが、別の女性(以後、交際女性)と交際しており、同居していた。
被害児童はその交際女性の子。出会った当初は被告人と被害児童の仲はよかったが、同居を機に徐々に暴力を奮うように。被害児童と交際女性が風呂に入った時にアザを見つけて聞いたところ、被害児童は「被告人にやられた」というが、被告人は否認する。

事件の日は交際女性が仕事で、被告人と被害児童が2人のときだった。犯行後、被告人が交際女性に「被害児童が転んで耳が痛いと言っている」と連絡。
その日はそのまま学校に行ったが、被害児童が学校で先生に「被告人にやられた。耳、背中を叩かれた。耳は平手で、背中はグーで」などと言ったことから、児童相談所に保護してもらい、そのまま相談所が通報した。

医師は、瞬間的に強い風圧が当たることが起こることもあり、平手で叩かれた衝撃であることに矛盾はないと診断した。

当初は暴行の事実はないと被告人は否認していた。

傷害の類って難しいと思うのが、防犯カメラ映像とかがないと、確固たる証拠を判断しにくいと思うんですよね。1回殴ったのか、10回殴ったのか、強さはどうだったのか、きっかけはなんだったのか、などなど。
この件でも、被告人は当初否認をしていたようですし。

交際女性はこの事件の前からケガの認識はしていたようですが、どうやら被告人がやったとは完全に信じてはいなかった様子。一緒に手を上げるような人でなかったことは唯一の救いではありますが、やはりもっと早く気付いて欲しかったと思う気持ちが強いです。


なお弁護人からは、被告人が交際女性と交わした示談書が証拠採用されました。

被告人が深く謝罪を示すとともに、今後家族に接触しないことを誓約したことで、交際女性としても、被告人に重い罪を望まないという内容で示談に至ったようです。

示談金が支払われていても「お金で解決できる問題じゃないんだよ」と思ってしまいますが、支払われていないならいないで、「誠意が足りないんじゃ?」「これで許しちゃうのってどうなの?」と思うなど、やはり人の感情というのはワガママなものだと感じます。


被告人質問 ~手をあげたのは1回?2回?それ以上?~

情状証人は特にいないので被告人質問。

交際女性とは、交際を初めて半年強で半同棲生活を始めたとのこと。裁判では特に触れられなかったけど、奥さんとはどうなったのかな。まぁさすがに別れているか。

弁「事件以前にも手をあげたことがありますか」
被「1回か2回くらいは」

弁「それは何故ですか」
被「悪いことをしても謝らなかったので。強い力ではなく、しつけの範囲内として」

弁「言うことを聞かないことが多かったのですか」
被「頻繁にありました」

弁「手をあげることは悪いことと思っていましたか」
被「当時は思っていませんでした」

悪いことをしても謝らなかったので、叩くのを許容しろというのであれば、この裁判中一度も謝らなかったあなたもしつけで叩かれても仕方ないですね。

それにしても、この「しつけ」という言葉で手をあげる人が多いです。
そりゃあ、僕も親に手をあげられたことが皆無とは言わないですが、やはり実の子でない子に出会って1年も経たずで「しつけ」と称するのは、同じ手をあげるにも意味合いが違うと感じますし、都合が良すぎるのかなと。

あと、事件と裁判までは基本的に時間が空いているので、記憶が曖昧なのは仕方ないと思うんですけど、1回かそれ以上かというのははっきり違うと思うんですよね。だから、手をあげたのは1~2回という供述は俄かに信じがたいというか、無意識下でそれなりにやってたんじゃないの?と疑いたくもなります。

弁「当日は何をしたのですか」
被「頭を1回平手で叩きました」

弁「そのとき被害者の様子はどうだったのですか」
被「その後は反省して、手を繋いで学校へ行きました」

弁「叩いたときのことは覚えていますか」
被「あまり覚えていません」

事件のあと、何か急を要する事態でもなかったと言いたげな雰囲気。あまり尋問では掘り下げられませんでしたが、母親が確認したときには耳から出血していたようです。

これをこの感じの問答で済ませるのは、テクニックといえばそうだし、調書とかで他の証拠が揃っている検察官、裁判官からは少し苛立つポイントだったのではないでしょうか。


そんなこともあってか、検察官からは最初から怒り気味です。

検「悪いことと思っていないのに、最初は否認していましたよね」
被「なんか交際女性も神経質になってたんで、言わんほうがいいかなって」

検「なんで神経質になっていたんだと思います」
被「なんか

子どもがケガして神経質になっている様子を「なんか」と理解できていないようなら、相当ネジがぶっ飛んでいるように思えます。被告人自身にも子どもがいますが、なんとも思わないのでしょうか。

検「被害児童の右耳が聞こえないのは知っていましたよね」
被「知っていました」

検「左側を叩いて、そちらも聞こえなくなったらどうしようとは思わなかったのですか」
被「思わなかったです」

検「最初は、「被害者が嘘をついている」と言っていましたよね」
被「今までも嘘をついていたんで」

ここで裁判官が割って入ります

裁「今までのことは知らないけど、今回は関係ないでしょ。なんでそんなこと言うの?」
被「捕まるかもと思ったら恐かったんで」

裁判官も我慢できなかったようです。
ここでの割り込みは個人的にはグッジョブでしたが、「場合によっては感情的に入ってきたなぁ」と思うこともありますし、やはり人の感情というのは都合のいいように捉えてしまうものだと思います。

検「示談はしているけど、被害弁償は考えないんですか」
被「相手から言われていないので」

検「謝罪は求められたからするのでなく、自らするものなのでは?」
被「まぁ、そうかもしれませんが」

検「被害児童はどう思っていると思いますか」
被「それは想像になるんでわかりません」

むしろ、明らかに嘘だろと思う反省の弁よりも、こう赤裸々に話してくれる方が、改善点がわかって良いとさえ感じてきちゃいました。今でも、悪いとは本心からは思ってないんだろうなぁ。


今回、不幸中の幸いだったのが、被害児童の鼓膜に穴が開いてしまったようですが、自然治癒できるものだったようです。

示談書の通り、今後接触はしないで欲しいものですが、その交際女性とは職場が同じとのこと。
事件のことは会社も把握しているようなので、業務以外で接点を持たないよう配慮してくれるようですが、その会社の人が情状証人として来るほどの関心はなさそうです。

求刑は懲役1年6月。判決は傍聴できていません。

被告人は前科はなく、子どもから引き離すことで再犯の恐れはないと判断されるのかもしれません。しかし、法律では対処できないモヤモヤ感を残した裁判でした。

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