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法廷では男らしさも重要?(公然わいせつ) 傍聴小景#45

普段生活をしていて、皆さんどこまで意識しているかわかりませんが、結構町中に防犯カメラってあるんです。ほとんどの裁判で防犯カメラが証拠として採用されているのを見ていると、そのカバー率の高さに驚かされます。
たまに傍聴席にも分かる形で証拠の防犯カメラ映像が流れる時があります。鮮明度はそのカメラによりけりですが、アップに出来るものがあったり、性能も日に日に進化しているのでしょう。

スマホの普及などによって、手軽に写真や動画を撮るというのも一般化していますので、良からぬことを考えている人は、まず逃げ切れるのなんて無理だと考え、悪いことなんてしないで、ちゃんと考え直してくださいね。

はじめに

罪名 :公然わいせつ
被告人:30代の男性
傍聴席:7人(1回)

あらゆる犯罪行為の中で、「何故、バレないと思った?」と思う犯罪の一位かもしれません、この「公然わいせつ罪」
明らかに見せたいタイプと、バレないと思ったタイプといるようですが、例えば窃盗なら物を盗んである程度充足されたら止めることもあるでしょうが、この公然わいせつは何かで満たされる瞬間はあるのでしょうか?そうでなきゃ、本当に捕まるまで続けてしまうのでは?と思ってしまいます。

事件の概要 ~バレないはずがない犯行~

被告人は、午後1時に渋谷区の路上にて陰茎(男性器)を露出し、自慰行為などを行っているところを不特定多数の人物に目撃させた。

ただでさえ人が多い渋谷で、かつ人が途切れるはずのない午後1時にそんな行為を行い、案の定不特定多数の人物に目撃され、逮捕される。一体、この人は何がしたかったのでしょうか。

被告人は背中に「トーキョー2020」と書かれたシャツを着ている30代前半の男性。
裁判の手続き中、ずっと声も小さくオドオドとしているので、そんな大それたことをできるタイプにも思えないのですが、人というのはわからないものです。

検察官が証拠として提出した資料や供述など


・被告人は器物損壊で前科1犯、ほか逮捕歴6件などある
・一昨年前から生活保護を受給しており、簡易宿泊所に住んでいたが今年トラブルで出た

・通行人がタワレコ付近での被告人の行動を見て交番へ行き発覚
・警察が到着した際も、ズボンから出して触ったり、叩いたりしていた
・いけないこととはわかっていた
・渋谷へは女性の胸や尻を見るために行っているが、早く収まって欲しい思いがあるため自慰行為ではないと供述している

渋谷への目的が、女性を見に行くためという斬新な理由。まぁイメージとして、新宿よりは多いんですかね。
今回に関しては、「ばぁっ」って見せる、見られることが目的だったわけじゃなくて、見つかっちゃったパターンってことでいいんですかね?タワレコ付近で20分もしていたんで、見つかるはずもないんで、自暴自棄だったのかもしれませんね。
それら、細かい動機は被告人質問でも語られなかったんで謎のままではあるのですが。

被告人質問 〜響き渡る「男だろ!」の声〜

とにかく裁判の開始からこの被告人質問まで、ぼーっとしている被告人。どんな思いが聞けるのか不安なところです。

弁「じゃあ、まずやったことを総括的に聞こうか!どう思ってる?
被「・・・・・・」

弁「あなたね、打ち合わせから全然話さないけどね、
  法廷ではそうはいかないよ!
被「・・・・・・」

まさか不安にさせられるのが、被告人だけでなく弁護人に対してもだとは。寡黙な被告人に対して「そうはいかないよ!」と公開説教のような形。ますます、殻に閉じこもってしまいました。
弁護人は60代と見られる男性。法廷の立ち振る舞いなどは、裁判に慣れ親しんだ方の雰囲気で、なんとかこの被告人もどうにかしてあげたいという思いなのでしょうが、いかんせんキャラが強い…。

弁「自分でおかしなことしたとは思わないの?」
被「した後は、おかしなことをしてしまったなと…」

弁「じゃあ、している最中は!最中!」
被「…いやぁ、そのぉ、最中は…」

弁「ちゃんとしなよ!男だろ!公式の法廷の場だぞ!」

気持ちはわからなくもないけど、コンプラ的にがっつりアウトな「男だろ」発言。
僕も元々古いタイプの体育会出身なので、パワハラか否かみたいな問題って、世間の認識より遅めだと思っていたのですが、自分でなく他者が行っているの見ると、その際どさを痛感します。

弁「あなたね、悪いことはほとんどやってないけど、細かなことをちょろちょろとやってるから、恐いんだよ。わかる?」
被「・・・・・・」

弁「住んでた簡易宿泊所を出たようだけど、トラブルは?」
被「いろいろと考えちゃうことがあって」

弁「何を考えたの?」
被「何をというか、そのぉ…」

弁「考えることは人だから、いろいろあるんだよ!嫌になったの?」
被「嫌というか、考えちゃったんですよね」

結局、何を考えちゃっていたのかわからずじまい。
こういうとき、生放送のtwitterの声を拾う番組みたいに、こんな聞き方してはいかがでしょう?とリアルタイムで投げかけられる仕組みとかあればいいのにとか思っちゃう。そんな制度できるはずもないと思いつつ。

弁「これからどうしていきたいの?頼むから私を安心させてくださいよー」
被「・・・・・・」

弁「はい、結論!やってはいけないことはやらない!これ、約束できる?」
被「もう少し自分の行動を考える時間が欲しいと思います」

自分でもいろいろわかってはいるし、どうにかしたいけど周りのスピードについていけない感じなのかな?こういうときに、ちゃんと腰を据えて話が聞ける方は、どういう聞き出し方をするのか見てみたいです。

まぁとにかく、新しく得られる情報などは特になく終了。
これから検察官の質問ですが、これ以上問い詰めないであげて~と不安に思ってしまいます。

検「今後も生活している中で、ムラムラしちゃう気持ちになることもあると思います。そのときは我慢できますか?」
被「そうですね、我慢できるよう心がけます」

検「どうやって我慢しますか?」
被「・・・・・・・」

検「わからない?わからないときはクリニックなど行って相談してくださいね
被「はい」

検「一人で抱え込まないで、生活保護の担当の人などにも相談してくださいね
被「はい」

なんて、やさしい人なのだ。生活保護担当の人が、この悩みに答えてくれるかは別として、なんてやさしい答弁だったことか。
検察官としては、正しく罪を認識させ、二度と罪を犯さないようにする目的もありますから、その再犯の可能性を提示できたということで成果なのでしょうね。この人にこれ以上「なんでやったの?」って聞いても、ロクな答え出なかったでしょうし。

求刑としては罰金十万円でした。
罪状としては、これくらいなのでしょうが、果たして再犯しないようにするにはどうするのが最適なのか、それは誰の仕事なのか、こういう裁判を傍聴するたびに考えさせられます。

裁判の最後に被告人が意見を述べられる機会があります。

告「えーっと、これから、ひとつひとつの行動を考えていかないといけないと思います」

この人の考えたい気持ちに誰か寄り添ってあげられるのか。いるとしたら、その人はどういうトレーニングを受けている方なのか。

裁判を傍聴してて見方が変わったのは、こういった方を見捨てることは簡単です。でも、この人が次に何をしでかすかわからないことを考えると他人事にはできません。しかし、私自身がその任につけるかという話は別です。

ここ数年、SDGsという言葉が溢れかえり、個人的にはいろんな思いがありますが、「他人事でなく自分ごととして捉える」という考え方は、思わず唸るところがあります。
自分は方向性は違えど、裁判に関する発信を行うことで、少しでも自分ごととして刺さる方が増えてくれれば嬉しく思います。

この裁判は動画でも投稿しています。よろしければこちらも御覧ください。


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