5勝5敗1分け
数えてみたら11回あった。これまでの引っ越しの数です。引っ越し先の部屋の面積が広くなったのが5回、狭くなったのが5回、ほぼ同じだったのが1回。5勝5敗1分け。ずっと、数冊の本がお供をしてくれました。
荷造りをして、またそれを開く。いらないものはこの際だから捨ててと思いながらも捨てきれず、新しい引っ越し先には開かずの段ボールが溜まる。これが、部屋が広くなるときのパターン。逆は思い切って処分するしかない。
1回目は、高校を卒業して大学にはいったとき。4畳半の間借り。田舎から送ったのは、ふとんと身の回りのもの、それに何冊かの本。狭い部屋はがらんとして、殺風景でもの哀しい。人恋しくて、4月の東京は寒かった。
机とこたつ、テレビやミニコンポセット、本棚がそろった。お下がりのベッドが部屋に来た時には、とうとう足の踏み場が固定するほどになった。卒業するときに、本と身の回りのもの以外は、新入生にひきついだ。
社員寮はもっと狭かった。畳2枚に押し入れ半畳分。持ち物は1回目の引っ越しと同じ分量にもどった。
転勤で、3回目は広くなって勝ち。4回目は狭くなって負けて、5回目は勝った。独身のうちは、その都度荷物を処分して部屋にあわせた。結婚して子供ができるとそうもいかなくなり、増える一方、自由に処分できなくなった。
えいっとばかりに、借金をして家を買った。都内はとても手に届かず、周辺の県、それも端っこのほうだった。そこそこ広い家に子どもがふたり。20数年住むと、ひとりひとりの持ち物をあわせればそれなりの量になる。
時がたって、子どもが家を出てふたりになった。狭くてもいいからもっと便利なところにと引っ越して、5敗目。家具、ベッドはいうにおよばず、ピアノや家電品も。まだ十分つかえそうだけれど、入らない。処分は業者に頼み、焼却場へ何回も車で運んだ。段ボール10箱以上にもなった本は、ほとんどブックオフに持ち込んだ。
ずっと一緒だったのは数冊の本だけ。いちばん最初に買った岩波新書「知的生産の技術」、これが歴史小説かと目にウロコだった文庫本「国盗り物語」、それに、読み返すことがなかった「流星とその観測」もなぜかはいっている。
5勝5敗1分け。勝負つかずの結果になったわたしの引っ越し歴。いや、そうじゃないかもしれません。もう1回、次があるとすれば多分負け。そう、老人ホームです。また振り出しに戻って、数冊の本がお供になることでしょう。