【濁点の歴史】天皇は「人間宣言」から濁点を使うようになった
弥生時代に中国から漢字が伝来し、奈良時代に平仮名の元となる万葉仮名が発明され、平安時代には平仮名ができました。その頃には、濁点も半濁点も、句読点もありませんでした。
ひらがな成立の歴史はこちらをご覧ください↓↓
○著者作品集 [タケウチInstagram]
今回は、「濁点」についてお届けします!
この話のYouTube動画はこちら↓↓
濁点とは
濁点は特定のひらがなにつく点々のこと。普通のことですね^^;「濁音符」とも呼びます。
濁音、基本的にはこの20個↓↓
がぎぐげご
ざじずぜぞ
だぢづでど
ばびぶべぼ
これに拗音(小さい文字)が付く「ぎゃ」「びょ」などの表記もあります。また、vの音を表す「ヴ」は、日本語の音にはありませんが、外来語を示す際には使われます。漫画などでは「あ‟」などの表記もよく見かけますね。
濁点の歴史
濁点の歴史を簡単にさかのぼってみたいと思います。
平仮名が成熟した平安時代に濁点はなかった
平仮名ができる前の奈良時代に生まれた万葉仮名では、清音と濁音を書き分けていました。
例えば、
ということ。万葉仮名は文字としては漢字なので、濁点を使わずとも濁音を表すことができていたということです。
しかしながら、平安時代に入り、平仮名が成熟した頃には濁音の表記や区別はありませんでした。(参考論文:「濁音の問題」阿久津智)
一方で当時の辞書のようなものには、発音に関するアクセント記号の表記があり、濁点のような表記もあるため、平安時代に濁音が消えた、ということではないようです。しかし基本的には濁点表記はなく、文脈で清濁を推測して読まれていました。
一方で、その後の室町時代の浄瑠璃など、発音が大切な台本などには濁点のような表記が記されていることが多かったようです。
濁点表記「 ゛」が一般化したのは江戸時代
現在濁点と言えば「2個の点」ですが、昔は点が3つだったり4つだったり、なんと丸を2つ書く記号も使われていました。(→これは次回以降テーマの「半濁音」への布石⁈)
後に、1590年の豊臣秀吉の天下統一によって、濁点の表記も統一されたと考えられています。江戸時代になると、濁点記号は現行の「 ゛」に一般化されました。
明治/昭和、濁点は付いたり付かなかったり。特に公文書が遅かった
ですが、その後も濁点は付いたり付かなかったり、曖昧な状況が続きましたが、明治初期頃には教科書や小説等にも見られるようになります。
一方で、最も濁点が付けられるのが遅かったのが国から出される公文書です。明治16年刊行の教科書には濁点があるにもかかわらず、明治19年の文部省からの「小学校令」については濁点がありません。
これは、公文書が明治以前から受け継がれる書き方、漢文訓読文(書き下し文)の体裁をとっているからと考えられます。
公文書の濁点ターニングポイントは1926年(大正15年)
大正が終わりの年、1926年6月1日に「法令形式の改善に関する件」において、濁点を付けて記述しましょうというような旨の文書が出ます。
左ページ後半4行を抜き出して、現代語訳してみます。
濁点だけではなく、句読点やカギカッコなども用いて、一般の人にも分かりやすく書くべきであるという通達です。この法令が徐々に各省庁に徐々に浸透していきます。
今回、筆者が国立国会図書館デジタルコレクションにて目を皿にして官報を見ていたところ、官報においては、1927年10月にはほぼ濁点が無く、11月以降にはおよそ見られるようになります。濁点法令から1年半ほど、という感じでしょうか。
「終戦の詔書」は濁点なし、翌年の「人間宣言」には濁点あり
しかしながら、1945年(昭和20年)の「終戦の詔書」には濁点を見つけることができません。(詔書:天皇の意思を明示した公文書)
終戦翌年の1946年1月1日の詔書で、昭和天皇は、俗にいう「人間宣言」をされます。この詔書から濁点が付くようになりました。
まとめると、濁点は公文書において、1926年の法令以降徐々に付くことが増え、およそ終戦後から安定的に付くようになったと考えて良いのかなと思います。
濁点まとめ
書道においての濁点は、一文字ごとに打ってない
最後に、筆者は書道家なので、書道の濁点について小話をひとつ。
書道において、現在でも濁点は付けないことがあります。古典的な和歌を書くときはほとんど付けませんし、現代文を書くときにも付けないこともあります。これは昔の慣習を受けついでいるからでしょう。
一方で現代文を書くときには現代の表記に則って濁点を付けることももちろんあります。その場合は、濁音一文字ごとに付けることはあまりありません。
例えばこんな文章を書くとき、
「およみいたたき」と書いて、戻って「だ」の部分に濁点を付け、
「ありかとう」と書いて、戻って「か」に濁点を付け、
「こさいます」と書いて、戻って「こ」「さ」に濁点を付けます。
※どの地点で戻るかは時と場合によります。
こうするのは、書道はほとんど縦書きで、下へ下へと流れていく動きを途切れさせたくないからです。このためたまに濁点を付ける場所を間違えたりするのですが(苦笑)。
また、上の画像はフォントなので濁点は一定的に書かれていますが、実際に手書きの場合には、濁点も文字の一部なので、付ける場所や大きさや長さなどニュアンスを調整しながら書きます。文字の左上45度の場所にお行儀よく書かなければいけないということはないのです。
いやはや、濁点について簡単に歴史をさかのぼりたかったのですが、意外に手ごわい内容でした^^; 本当は半濁点と句読点についてもまとめてやろうと思っていたのだけれど・・・。それはまた今後。
次回は、濁点いろいろ!おもしろ濁点フォントを集めてみたいと思います!
よろしければサポートお願いします!いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!