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『中卒歓迎』第11話

では、柳沢チーム2名。柳沢愛理。そして、みなさんご存じ、無田理亜でプレゼンを始めます!よろしくお願いします!では、さっそく、こちらの画面をご覧ください。



画面に収支表が投影される。



ご覧のように、私たちの売上は80万円。経費は20万円。
差引き60万円。2人分ギリギリセーフ!!



愛理が両手を横に広げ「セーフ」のポーズ。



笑いが起こる。



では、中身の説明に入らせていただきます。
私たち柳沢チームの商売は、結婚式の営業代行です。
私、柳沢は以前ブライダル会社で働いていました。その会社の元上司にお願いして、結婚式場の予約獲得1件につき10万円の成果報酬をいただく契約をしました。完全成果報酬ですから、契約が取れなければ、報酬はゼロです




聴衆を引き付ける愛理。

表情を変えないブルート。




結果的に、私たちは8件、結婚式の予約を獲得し、80万円の報酬を得ました。平均200万円以上の契約であるにも関わらず、なぜ1週間で8件も獲得できたのか?その理由は2点あります。
 まず1点目、確度の高いカップルを選別したこと。2点目、仏滅などの六曜を組み合わせた割引プランを提案したこと。この2点です



小気味良いテンポで、スライドが進んでいく。

スライドチェンジをする理亜と愛理のプレゼンが絶妙に噛みあっている。



まず1つ目の理由です。どのように確度の高いカップルを見分けたのか?
それは無田さんの観察力です。彼女の観察力の鋭さはご存じのとおり。彼女が確度の高い見学カップルを見分け、私に教えてくれました。




頷きながら聞くブルート。



2点目の理由は、ユニークなプランニング。私たちは、結婚式が入りにくい仏滅の日を逆利用しました。仏滅などの六曜が悪い日は、貸しウエディングドレスの選択肢も広く、お色直しもゆっくりと行うことができるというメリットがあります。これに割引を加えることでさらなるお得感を出し、契約へと結びつけることが出来ました




(なんかいいね、この2人)



(外ヅラだけは、いいんだよなアイツ)




愛理のプレゼンに、どんどん引き込まれていく聴衆。

会場のボルテージが上がっていく。




では、少し時間より早めですが、柳沢チームのプレゼンは以上になります!
ご清聴ありがとうございました!





愛理と理亜が、深くお辞儀をする。

角度もタイミングもピッタリ。




大きな拍手が起こっている。





(天性だよね。この子)




(うまいなぁ。プレゼン)




(萩山くん。次はこのチームと組もう!)




柳沢チーム。お疲れさまでした。では私から質問です




はい!お願いします!





大変聴きやすいプレゼンでした。安定していました




ありがとうございます!



気になったのは2点。





緊張して肩を強張らせる愛理と理亜。




二つ目の理由の部分。ここが解せません。




どのような点でしょうか?



仏滅割引なんて、よくありますよね?いくらでも目にしますが



そ、そうですね



目にする?結婚式場のパンフレットなんか見るの?この人?
ってか、この人、結婚してるんだっけ? 
ま、いっか。プレゼンに集中!



仏滅割引ぐらいで、高単価の契約が8件も取れるとは思えません



なので、他にも仕掛けをしました




ほう。それは?



バツ1割引です。カップルのどちらかにバツがついていたら10%割引。
2人ともバツがついていたら20%割引です




たしかに。それはあまり見たことはありませんね



バツ1割引もあるにはあります。ただ、仏滅割引と相性がいいので、組み合わせてみたんです




組み合わせ?




初婚の場合、やはり六曜は気にします。普通は、結婚式には大安吉日を選びたくなるし、実際に選ぶ人も多い。なにより六曜が悪いと、カップルのご両親が気にされます。(昭和世代だし)




そうでしょうね



他方で離婚です。日本の離婚率は、統計の仕方にもよりますが、5組に1組と言われています



それが?




大安吉日に結婚したとしても、そのうち2割は離婚します




具体的に




大安に結婚したけど離婚したわよ。意味なかったわ。そう思ってくれるバツ1さんは、六曜にこだわりませんから、仏滅割引を選んでくれます。加えて、バツ1割引も併用OKとなれば、格安で2回目の結婚式が挙げられる




ターゲットは、バツ1がいるカップルだと



はい。短期決戦ですから、そこに絞りました。資料もすべてバツ1専用に。会社の営業さんと役割分担して、バツ1カップルが来たら、どんどんウチに回してくださいと




会社と役割分担をしたわけですね



はい。それに加え無田さんが、どのカップルがバツ1カップルかを見分け、私に教えてくれるんです。




そのからくりは?





営業をするときに、2人ともウエディングドレスを着ました



営業の邪魔じゃないですか?


たしかに、邪魔です



貸衣装代もかかるのでは?



はい。でも営業のきっかけになりますから



ミッキーマウス効果ですか?


あ、はい?



気にしないでください


そんなんしらないよぉ



ドレス目当てに寄ってきてもらえたら、話すきっかけになりますね



それもありますが、無田さんが・・



無田さんが、なにか?



ね?理亜?話して




理亜が、愛理からマイクを受け取る。




ウエディングドレス姿の女性を見た時のお客様の表情や反応で、そのカップルが、バツ1かどうかわかるんです




ほぉ。それはすごい




感覚なんですけど・・・



実際、当たってました?




6割ぐらいは




それはすごい




理亜がマイクを愛理に返す。




無田さんのおかげでバツ1っぽいカップルはウチら。それ以外のカップルは会社の人が担当する。ターゲット層を絞り、役割分担をすることで、効率よく営業することができました



いい営業戦略です



ありがとうございます!




もう一点ですが、このパワポはお二人が作成を?




いえ。外注です




内容が素晴らしいですね


知り合いの方に委託して作ってもらいました(みーくん、褒められてるよ)




構成、動画、ギミック、すべてイイ。ちなみに営業に使った資料もこの方が作成を?



はい



会社で決められた営業ツールがあるはずですが?よく会社が外部の資料を使わせてくれましたね



短期間のキャンペーンですので、むしろ自前で用意して欲しいと。もちろんチェックはされましたが、優秀なデザイナーに作ってもらったので即採用でした




この資料なら納得です




では、最後に一つ、お聞きします。経費の内訳を教えてもらえますか?




スライドの委託料、ウエディングドレスの貸衣装代、交通費、競合視察、粗品、カラープリント。以上が、経費の内訳です



他には?



ありません。これで全部です




そうですか・・・




(これは通過だな)



(いくいく)



(落ちんやろ)



個人的には・・・


え?なになに? 難しい顔して



プレゼンは非常に良かった。演者もスライドも。二人の息も合っていてた。
商売の目の付け所もよい。それぞれの特性、特技を生かしている。
しかし、本音を言うと、私は、柳沢チームを通過させたくありません




え!ウソ!



ど、どうしてですか!?




(褒めといて、ここで落とす?)



(そんなことある?)



(法令違反やったんじゃね?)




(債権債務が残ったか?)




あの!私たちルール違反やってないですよ




わかってます。ルール違反があるなら、迷わず失格にしています




どうして私たちを通過させたくないのですか?評価してもらってるのに




正直、迷います




迷う? 萩山くんと真逆のこの人が?さっきまで即断即決してたじゃん



迷う理由を教えてください。ちゃんと説明しますので





わかりました・・・これは、私の知人の話ですが




知人の話?



って言うときは、たいてい自分のことなんだよね



起業した知人の話です。彼は、スタートアップで1億円を調達し、なりふり構わず働いた。仲間に信頼され、リーダシップにも長け、会社は赤字だが順調に伸びていた。しかし、ある日、彼は倒れ、病院に運ばれた。
なぜだか、わかりますか?



いいえ



彼は、食べてなかったんです



働きすぎて?



いえ。お金がなくて、です



スタートアップで1億円調達していたのに?



自分に給料を払ってなかったのです。従業員に払うために



一円も?



一円もです。柳沢チームと同じです




え?



日本には。経営者は成功するまで無休で働け。仕事が給料などという考え方が未だにあります。起業するなら、それぐらいの意気込みと覚悟が必要とでもいいたいのでしょうが、私にはまったく理解不能です



そうなんだ・・・



その知人には奥さんと子供がいました。それなのに、彼は無給で会社のために働いたんです。従業員に給料を支払うために



あの・・・




もう私の言いたいことはわかりますね?




はい



経営者は黒字になるまで無給で働く。従業員のために、自分の生活は犠牲にしてすべて事業に費やす。日本では、なぜかこれが美学のように語られる。私に言わせれば、ただのブラック。こんな考え方が残っているから、日本には起業家が少ない。




ごめん理亜。私よくわかんない・・




私たち。自分のお給料、もらってなかったでしょ



あ。そっか




本日のプレゼンの中で、自分の給料をもらっていない人はお二人だけです。金額の大小はありますが全員、人件費として計上しておられました。当たり前です。働いたのですから。働いた人が無給などありえない。言ってる意味、わかりますか?



すみません。私たち、60万円稼ぐことだけで必死で・・



(そうだよな)


(わかるよ わかるって)


(無給じゃダメってルールもねぇしな)


(通してあげて)



柳沢チームは、80万円の売上で経費が20万円。差引ギリギリ60万円。しかし、本来であれば、売上金の中から自分たちの給料を払うべきだったのに払っていない。もし払っていたら経費は20万円を超え、結果、60万円を返すことはできない。したがって、失格、もありですが・・・



そんな・・・




いいでしょう。柳沢チーム。第1ステージ通過で…




(キレ悪いな)



(なんか重い)



(お情けって感じ・・)




愛理と理亜が、トボトボと席に戻ろうとする。
二人とも、下を向きながら歩いている。





ねぇ理亜。私、一つも嬉しくない


でも。通ったんだから。ね。



愛理と理亜が、幸次郎の横を通り過ぎるようとする。
愛理と幸次郎の目が一瞬合う。



幸次郎が足を組んで椅子の背に持たれている。
幸次郎がにやにやしながら、二人を冷やかすような声を掛ける。




ハイ! お情け通過、いただきましたぁ!




は!?



立ち止まる愛理と理亜。




よかったねぇ。お情けで通してもらえて!底辺割引ってやつ?




うるさいわね!次あんたでしょ!落ちればいいのよ!バカ!




落ち方を教えてくれ。あ!落ち方、知ってたわ、タダ働きすりゃいいんだ! はははは!ウケる!




ちょっと幸次郎!あんたさ!




もういいよ。ほっとこ。愛理



だって! 理亜!



いいから、行こ!



くそ!アイツ!



では、ラストは鷺宮さんですね。プレゼンお願いします



はい!




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