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【怖い話】呼びにきたもの

私は中学生の時、両親と三人で離島に住んでいた。その島は人口が少なく、コンビニも無いような田舎だった。

私たち家族が住んでいた家は、一階建ての戸建てで、玄関から入って左側に大部屋があり、右側にはキッチンを挟んで寝室があった。

私の父は、昼間はその大部屋で仕事をしていたのだが、夜になると必ず寝室に来て母と私と一緒に寝た。父が言うには、夜にその大部屋で寝ようとすると、天井から物音がしたり視線を感じたりして寝付けないらしい。

ある時学校で、友達のKとTとYにそのことを話すと、Kはその部屋で寝てみたいと言い出し、その週の土曜日にKとTとYの三人が私の家に泊まることになった。

当日の昼過ぎ、予定通り三人は私の家に集まった。両親にはあらかじめ友達が遊びに来ることを話していたので、父はその日寝室で仕事をしていて大部屋は空けてくれていた。

私たちは、夜になるまでその大部屋でTVゲームをして時間を潰した。そして夜中の十二時を過ぎた頃、そろそろ寝ようかという話になり、人数分の布団を横一列に敷き、電気を消してみんなで横になった。

「何か起こるだろうか」と少し緊張しながらも黙って目を閉じていたが、しばらく経っても何も変わったことは無く、静寂の中に時計の針の進む音がカチッ、カチッと響くだけだった。

あまりにも異変が無いため、Kが「何も起こらないな」と呟いたのを皮切りに、私たちは修学旅行の夜のような雰囲気で好きな人の話などの雑談を始めた。

そして夜中三時を過ぎた頃、何も起こらないし退屈なので近所の公園にでも行こうかという話になった。こんな時間に外に出るのはあまり気乗りしなかったが、友達と遊ぶのは楽しいし寝てしまうのはもったいないと思ったので私も行くことにした。

Yは既に寝てしまっていたので、KとTと私の三人で、徒歩五分ほどの所にある小さな公園に向かった。

夜中の田舎道は灯りが少なく、冷たい風が肌を触るのがなんだか少し怖かったが、とくに何事もなく公園に辿り着いた。

公園の中に入った私たちは自動販売機で飲み物を買い、すぐ近くのベンチに座って、近所迷惑にならないよう声をひそめて雑談を始めた。

しばらく話していると、ザッ、ザッという足音が公園の入り口に向かって近付いてくるのが聞こえた。公園の時計を見ると、時刻はまだ夜中の四時前だ。私たちは「こんな時間に誰が公園なんかに来るんだ?」と不審に思い、公園の入り口に視線を集めた。

公園の入り口から入ってきたのは、私の家で寝ていたYだった。

緊張がほぐれ安心した私は、Yに「起きたのか。でも、みんなが公園にいるってよく分かったな」と声をかけた。

するとYは不思議そうな顔をして、「いや、お前が呼びにきたじゃん」と言いながら私を指差した。

私はずっと公園に居たので、呼びに行ったりなどしていない。それは一緒に居たKとTが証明できる。そのことをYに伝えると、からかわれていると思ったらしく、明らかに不機嫌になった。

この様子を見ると、Yが嘘を言っているとも思えない。辻褄の合わない状況に私は少し怖くなったが、公園に来た経緯を詳しく話すようYに促した。

Yはまだからかわれていると思っているらしく、しばらく黙って私たち三人を睨んだ。だが表情を崩さない私たちを見て、からかわれていないことを理解したのか、ここに来るまでに起こったことを話し始めた。

Yの話はこうだった。

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眠りから目を覚ますと、私たちが居なくなっていることに気付いた。それと同時に、玄関側の窓の方から視線を感じた。怖くなって窓に背を向けて布団を被ると、その窓を誰かがバンッ、バンッと叩き始めた。

Yが恐る恐る窓の方を見ると、窓の外に立っていたのは私だった。安心して布団を出たYは、私が手招きするのを見て、それに従い靴を履いて外に出た。

外に出たYは、窓に向かって立っている私に「KとTは?」と聞いたが、私は黙ったままゆっくりと道路の方を向き、歩き始めた。

Yは、私が喋らないことに少し気味悪さを感じたが、もしかしたら自分だけ寝てしまっていたから怒ってるのかもしれないと思い、少し距離を空けて私の後を追った。

道中、前を歩いている私にYは、「怒ってる?」「どこに向かってるの?」「今何時なの?」と聞いてみたが、私は一切何も答えずに黙ってただ歩くだけだった。

そのまましばらく歩き続け、公園に入って行った私の後について自分も公園に入り、今に至る。

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話し終えたYは私に、「本当にずっと公園にいたのか?」と聞いてきた。私とKとTは頷き、Yが公園に来たとき足音は一人分しか聞こえなかったこと、Yの前には誰も公園に入って来ていないことを伝えた。

それを聞いたYは表情を曇らせ、頭を抱えてしゃがみ込んでしまったが、しばらくして泣きそうな顔で私を見ながらこう言った。

「何となく雰囲気でお前だと感じてたけど、俺を呼びに来た奴がどんな顔だったか思い出せない・・・。俺、なにと一緒に歩いてたんだろう・・・。」

私たちは怖くなってその場から動く気になれず、公園のベンチで身を寄せ合って夜明けを待ち、明るくなってからそれぞれ自分の家に帰った。

私は帰りの道を歩きながら、なんとなく直感的に、Yを呼びに来たのは悪いものでは無かったんじゃないかなと思った。ちゃんと私たちのところにYを連れてきたわけだし、悪さをするものでは無い気がする。

そんなことを考えながら家に着いたのは、朝六時半頃だった。もう眠かったが、一人であの大部屋で寝る気にはなれず、寝室に直行した。

寝室のドアを開けると、横になっていた母が気怠げに起き上がり、眠そうな顔を私に向けてこう言った。

「あんたたち寝てないでしょう。あんたたちの部屋がドタバタうるさくて私五時に起きたんだからね」

私はそれを聞いた瞬間、背筋が凍り一気に眠気が覚めた。

私とKとTが家を出たのが夜中の三時頃、Yが公園に来たのが四時前。

母が騒音で目を覚ました時、あの大部屋には誰もいないはずなのだ。


もしYが外に出ずにあの部屋で一人寝ていたら、Yはどうなっていたのだろうか。

母が聞いた騒音は、Yを取り逃したなにかが怒り狂って暴れる音だったんじゃないだろうか。

良くない想像が頭に浮かび、それ以来私はその大部屋に入る気にはなれなかった。

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