【前編】100点満点を目指す必要なんてない。ツレヅレハナコさんが考える「食事との楽しい付き合い方」
オイシックス・ラ・大地の広報室が運営する、いま伝えたい情報を発信するnote「The News Room」。
「簡単にできるのに、ちゃんと美味しい」。手軽な時短レシピで、Oisix愛用者にもファンが多いツレヅレハナコさん。
今回は、ミールキット「Kit Oisix」など、共働きのご家庭に寄り添うオイシックス・ラ・大地の広報室が、ライターの佐藤友美さんと一緒に、ツレヅレハナコさんに、さまざまなお手軽レシピが生まれた、その背景について伺いました。
【ツレヅレハナコさんプロフィール】
料理編集者。出版社の料理雑誌編集部勤務を経て独立。自他共に認めるお酒好き。国内外を食べ歩きし、その経験から生まれた独自の簡単レシピにファンが多い。
著作に、料理レシピ本大賞のママ賞を受賞した『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)など。近著は『ツレヅレハナコの2素材で私つまみ』(KADOKAWA)
「できれば料理をしたくない人」にも、届くレシピを
___ツレヅレハナコさん(以下ハナコさん)のレシピ本は、処女作から一貫して「時短」「気軽に」「手軽に」がキーワードになっていますよね。
ツレヅレハナコ(以下、ハナコ):
もともと料理本の編集者をしていたので、日常的に料理を楽しむ人たちが身近にいる環境だったんですよね。私自身も、食べることと作ることが大好きで。
プロの料理家や料理研究家の方のレシピは、本当に考え抜かれていて、栄養バランスもいいしいろどりもカンペキ。間違いなく美味しい料理のレシピを提供できているということに誇りをもって仕事をしてきました。
でもその一方で、「誰もが、自分のように料理が好きなわけじゃないよなあ」とも思っていたんです。
読者の方々の中には、できれば料理をしたくないという人たちもいっぱいいるし、やらなきゃいけないから仕方なくやっているという人もいる。そういう人たちにとっては、私たちが作っている料理記事は、ある種のファンタジーのように見えるかもしれない。
読者の方々のリアルに接するたびに、「そういう人たちに、料理の負担を減らせるような提案ができないかな」と思うようになってきたんです。
___読者の方々のリアル、ですか。
ハナコ:
クックパッド的なウェブサイトのレシピが、リアルな家庭の料理を可視化した側面がありますよね。「つくれぽ」ってあるじゃないですか。
___はい。真似して作ってみましたという投稿ですよね。
ハナコ:
あれを見ていると、みんな、全然レシピ通りに作ってないんですよね。「白菜がなかったので、キャベツで代用しました」「使ったことがない調味料だったので入れませんでした」って、堂々と書いちゃう。
仮に元のレシピが考え抜いて作られていたとしても、実際に料理されるときには、こんな感じで料理されるんだということが、まざまざと見えたんですよね。
これは、決して下に見ているわけではなく、「だったら、そのリアルに届くレシピを作りたい」という気持ちがありました。
ただ、媒体にはそれぞれのポリシーがあるし、簡素化したレシピを載せるというのにも、ハードルがあった。
いろいろ葛藤していた時期に、ブログやウェブサイトで、自分で作った料理を紹介しはじめたら、多くの人が見てくださるようになったんです。
100点満点を目指すから苦しくなる
普段、自分が作っている料理なんて、栄養バランスも適当だし、ただ焼くだけ、混ぜるだけ、なんなら切ってのせるだけといったそういうものばかりだったんですけれど、それでも十分晩酌のお供になる。自分では、それで十分満足なんですね。
そういうレシピを紹介していったら、それを多くの人に見てもらえて、結果的に1冊目の本になったという感じです。
___処女作の『女ひとりの夜つまみ』(幻冬舎)は、衝撃作でした。料理って、こんなに簡単でいいの? って。
もともと料理の紹介をする仕事をしていたので、この食材とこの食材と調味料を入れて……と、凝った作り方をすれば、もっと美味しいものになることはわかっているんです。
でも、実際には、毎日自分も忙しいし、100点満点のものを作ることができない日も多いんですよ。だったら、無理に100点を目指さなくていいんじゃないかな、って。
周りの人たちを見ていると、100点満点を目指すあまりに、料理をすることが嫌いになっちゃったり、ストレスになったりしている人が、あまりにも多いなと。100点の料理が作れないから、今日はもうスナック菓子でいいやとか、惣菜だけでいいやとか。
だったら、60点でも70点でもいいから、毎日台所に立つことができた方が、私は毎日が豊かになると思うんです。
若いうちは毎日外食やコンビニ弁当でもいいけれど、だんだん年齢を重ねていくと、外の食事って胃にも財布にも負担になっていく。
だったら、自分で豆腐だけ買って、何かの具材をのせるだけでもいいから、自分でご飯を作ることに慣れていったほうがいいんじゃないかな、と。
___『女ひとりの夜つまみ』は、「料理」ではなく「おつまみ」という手軽な感じが、気負わずに作れる気がして良かったです。
ハナコ:
私自身が、毎日必ず飲むので、一汁三菜みたいなものは基本的に作らないんです。早く飲みたいですしね(笑)。
___どれくらい飲まれるんですか?
ハナコ:
めちゃくちゃ飲みますよ。晩酌無くして、一日は終わらないから(笑)。
規則正しく仕事をしているので、夕方17時くらいに仕事を終えたら、もう何を飲もうかなって考えている(笑)。冷蔵庫をあけて食材を見ながら、だいたい缶ビール1本飲むという感じですかね。1本飲む間に1品作れるのが理想だと思っていて。
だから、飲みながら作ることも多いし、台所で飲むことも多いので、全然きちんとしていないですね。
今日は肉だけ食べたいと思ったら、野菜は明日食べればいいし。2品作るとしたら、片方和食で片方洋食でも全然いいと思う。いろどりよく作るなんて、まったく気にしていないです。
ママだって楽したいし、飲みたいし
___その気楽さが、私たちがハナコさんのレシピを好きな理由だと思います。あの処女作は、レシピ本大賞で、ママ賞を受賞されたんですよね。
ハナコ:
そうなんです。ママ賞をいただいたとき、私も担当編集者さんも、ものすごく意外だったんです。もともと、30代~40代の働く独身の女性が、仕事から帰ったあとに一人で飲むシーンをイメージして作っていたので。だから、「ママ賞?」という感じでした。
あの賞は、お母さんたちが何百人と集まるイベントで投票して決まったそうです。何冊か候補がある中で、レシピと試食をいっぱい出して、それをママたちが食べて選んでくださったのだとか。
感想の中に、「子どもができて、飲みに行けなくなって、寂しい。子どもができたら飲みたくなくなると思っていたら、そんなこと無かったから、こういう料理本は嬉しい」というものがありました。
___きっと、ママも一人家飲みしたかったんでしょうね。あの本のおかげで、いろんな人が、「きちんとした料理を作らねば」や「家族のために作らねば」の呪いから解かれたと思います。
ハナコ:
そうだったら嬉しいですね。
___新刊の『2素材で私つまみ』にいたっては、もう、簡単さが異次元になっていますよね。
ハナコ:
主婦の方が読む料理雑誌って、食材の数がいくつもあるものが多いんですよね。でも、毎日子どものお世話や家事で忙しいじゃないですか。そんな方たちが、自分のためだけに作れるおつまみをイメージしたんです。
自分のために作るとなると、長時間かけて作れない。冷蔵庫の中にあるもので作れたほうがいい。だから、撮影の時も、いろどり用のパセリとかも、一切なし。
___失礼ながら、こんなに「ばえない」料理本もなかなかないですよね。表紙からして、地味さの潔さが半端ないです。
ハナコ:
でしょ(笑)。2品だと、いろどり野菜の入る余地がないんです。入る余地ないし、それが家ごはんのリアルだったりしますよね。
___「それがリアルだ」と言われると、すごく救われる人もいると思います。Oisixでは「ミールキット」という食材とレシピのセットがあって人気なのですが、このミールキットでも、最初は「既にそろっている食材を使って料理するのは、手抜きをしている気がする」とためらいを感じる人がいるんだそうです。
ハナコ:
えええ、そうなの? 味付けが苦手な人とか、ミールキットはすごくいいと思うなー。最初から調味料が配合されているから。
それで、美味しいなと思う成功体験ができたら、レシピカードを見て、次は自分でやってみようと思ってもいいし。料理をするときに「おいしくできた」という成功体験は、とても大事なんですよね。
なんでもかんでも、自分で抱え込まないで、人の助けを借りるといいですよね。
___ハナコさんのレシピや、そこに書かれるコラムは、いつも「こうあらねば」を軽やかに飛び越えてくれるような気がします。
ハナコ:
これまで10冊以上本を出させてもらっていますが、私自身はレシピ本を作っているという意識はないんです。
ちょっと考え方を変えたら、食べることはもっと楽しくなるし、自分で作れるようになったら、食が豊かになる。食が豊かになると、人生も豊かになる。
そのメッセージを、いろんなテーマに沿って書いているという感じなんですよね。だから、自分で料理研究家と名乗ったことは一度もありません。
たまたま、「食の楽しさ」を伝える流れとして、レシピも出しているだけという感じです。
だから、嫌いだった料理が好きになったとか、一日一度は台所に立つようになったとか言われると、なにより嬉しいですね。
(後編に続く)
聞き手/佐藤友美(さとゆみ)
ライター・コラムニスト。1976年北海道知床半島生まれ。テレビ制作会社のADを経てライターに転向。現在は、様々な媒体にエッセイやコラムを執筆する。著書に8万部を突破した『女の運命は髪で変わる』など。
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