この店はお酒も売っている
普段晩酌用の酒は地元でもっぱら購入しているが、銘柄がマンネリ化してしまったのでオンラインで購入してみる事にした。
でもハッキリ言って、ロクな酒屋が無いんだネットには。
たとえば激レア、とまではいかなくてもわりかし美味しい通人の間で知られる銘柄、といった酒の名前を検索して上位に表示されるのは、
例のオンラインショッピングモールにある店で、堂々とバカバカしいプレミア価格設定をした上で、配送には時間はかかるわ、そもそも売り切れだわ、検索エンジン汚染甚だしい店ばかりが立ち並んでいる。
なので銘柄名で検索するのを止めて、地方名+酒屋、で検索し、かたっぱしからサイトの中身を覗いてみるようにしている。
全国には歴史ある無数の酒屋さんが存在している事がよく分かるがしかし、オンライン販売に対応している所がめったに、無い。
たとえばファックスや電話注文しか受け付けていなかったり、来店しなければ購入できなかったり(転売屋のせいだ)。
ぜひ伺ってみたい魅力ある酒屋さんが津々浦々に沢山あるが、それはまた別の機会として、今は割とチャッとゲットして晩酌に挑みたいのである。
ある地方にある、ネット販売カード決済可能の昔ながらの酒屋さんに行き当たった。
サイトの作りが素朴でいて、だからこそ現代においては魅力的に映るのであるが、酒に対する想いがビッシリ行間をとても広く取りながら太字のゴシック体で記されていて、どことなく良い店の雰囲気を醸していた。
初老の女性がひとりでネットショップの運営から商品の梱包発送までを行っているそうだ。 オレンジ色のポロシャツを着て、直立不動のカメラ目線で、おびただしい数の一升瓶を背にした画像が載っている。
商品一覧を眺めていると、ありきたりの銘柄の中に所々銘酒が普通に陳列されている、しかも定価で、完売しているでもなく。
思わず目を疑いそして心臓の鼓動が速まるのを感じたが、たぶん何かの間違いで、お一人で運営されているのでついポカしてしまったのだろう、でもホントだったらラッキーねと、目にも止まらぬキータイピングで購入手続きを終えたのである。
日時指定は1週間先を選択できるのが最短だったが、もはや気長に届くのを待ってみようではないかという心境になり、無指定のままにした。
あくる日、その店からメールが届いていたので「ごめんなさい品切れでした」という内容かなとか予想しながら開いてみれば、発送完了を知らせるものだった。
となると同じ地方内なので、今日の午後にはコチラへ酒が到着する事になる。
しかもメールの到着時刻を見れば、午前3時とある。 この時間まであなたはひとりで仕事をしていたのかと目頭が熱くなると同時に、銘酒を定価で販売しかも即日発送してくれた事を感謝した。
変に疑ってしまった事も、雀のさえずりを聞きながら謝罪した。
お昼過ぎ、丁寧に梱包された酒が届いた。 勇んで開封すると、そこには「ありがとう」と記された手書きの絵葉書のコピーがはさまっていた。
いつか教室にでも通って描いたお気に入りの一枚なのかもしれない。 素直に感謝を伝える純朴さに心打たれた。
新聞紙の山をかき分けて一升瓶を取り出すと、ついに我が家に現れた銘酒のラベル。 しかも定価購入である。
買った酒をズラリと並べ、しばし悦に入った所でゴミを片付けようと丸まった新聞紙をつかんだら、何やら触るものがある。
開いてみると、インスタントラーメンの袋がひとつ現れた。 たぶんオマケなのであろう、こちらも晩酌のシメとしていただく事にする。
購入明細書には、所々土がついている。 もしかすると農業もやられているのかもしれない。 きょうびこれほどまでにライヴ感のある明細書を同封してくれる業者があろうか、温かい気持ちに包まれ又、店長の女性と対面しているような感じがした。
これほどまでの厚遇を受けておきながら、ただ旨い酒飲んでウェイする事もできまい、早速お礼状を買いてポストに投函した。 明日の午後には酒屋さんまで届くだろう。
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