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〇マカンマラン/古内一絵

作るのはラズベリーとオレンジを練り込んだ甘酸っぱい蒸しケーキと、
コーンとハーブを混ぜ込んだレモンソルト味のケーク・サレ。
ケーク・サレは野菜やハーブや豆をたっぷり入れて作る、
甘くないお惣菜のケーキのことだ。
作り方は蒸しケーキとほぼ同じ。
ジャダがオレガノやタイムを刻んでいる間に、
真奈は薄力粉をボウルに振るい、
全粒粉と混ぜ合わせてから、
水を張った蒸し器をガスレンジにかけた。
無調整豆乳にレモンソルトとメープルシロップと
オリーブオイルを入れ、
乳化するまでよくかき混ぜ、そこに粉と具材を投入。
粉っぽさがなくなるまで木べらでさっくり混ぜる。
ケーク・サレを入れた蒸し器から、
コーンとハーブの香ばしい匂いが漂い始めた。

マカンマラン

崩れた蒸しケーキの間に忍ばされた
凍ったブルーベリーと胡桃が、
絶妙なアクセントになっている。
「オレンジジュースに浸しただけよ。
あとは冷凍庫にあったブルーベリーと胡桃を
ぱらぱら散らして、
最後に豆乳に盛っただけ。」
「これはね、イギリスの家庭料理でトライフルっていうの」

マカンマラン

さやいんげんと絹ごし豆腐の味噌汁に、五分搗きの玄米ご飯。
ミョウガと若芽の甘酢和え、
生姜がたっぷり載った冷ややっこ、
莢付きのソラマメとアスパラガスとピーマンソテー。
それから、からりと揚げられた飴色の竜田揚げが
お皿一杯に綺麗に盛り付けられていた。
ミョウガと若芽を二くち、
それから裕紀は赤だし味噌汁を啜った。
ミョウガは歯ごたえが良く、若芽はやわらかくて爽やか。
味噌汁からはふわりと丁寧な出汁が香った。

マカンマラン

同じように見えた緑の夏野菜のソテーは、
ひとつひとつ微妙に形と味が違う。
「これ全部ピーマンじゃないんですね」
「そう。ピーマンと獅子唐と万願寺唐辛子よ。
辛みが少しずつ違うでしょう。
独特の苦みと辛みの中に、
それぞれの個性と微かな甘みが兆していた。」
「焼いたソラマメも絶品ですね」
「全部、鉄鍋の上に並べてオリーブオイルをかけて
焼いただけよ。調味料は塩コショウのみ。
旬のお野菜を使えば、
調理は手抜きでもなんとかなっちゃうのよ。」
ひとくち頬張ると、サクッとした衣の下から
噛み応えのある旨味が広がった。
醤油と大蒜が効いてて、すぐにご飯が食べたくなった。

マカンマラン

カウンターの上に、置かれた皿の上には、
ピラフとナポリタンと揚げたてのトンカツが載っていた。
トンカツを口の中に入れると、サクッとした衣の下から、
豚肉の甘みがじんわりと口いっぱいに広がった。
下味が良いのか、なにもつけなくても
充分に美味しかった。

マカンマラン

「ハト麦粉とモチキビで作ったチヂミよ。
タレは黒酢と、葛醤油ソースをお好みでね。」
パリッと焼けた黄金色のチヂミには、
ニラやニンジンや長葱やキクラゲが
緑、赤、白、黒と鮮やかな色を添えている。
自家製辣油を垂らした、
二種類のタレも美味しそうだ。
そこに、ジャダが得意げに運んできた、
モチアワソースをベースにした冬野菜の和風スープが加わった。
とろりとした葛醤油を絡め、ひとくち頬張る。
途端に、昆布と椎茸の出汁でしっかりと味付けされた
チヂミの旨味が口いっぱいに広がり、柳田は唸った。
黄金色の生地は、外はパリパリ、内はもっちり。
ニラと長葱のシャキシャキとした食感、
キクラゲのコリコリとした歯ごたえも絶妙だ。

マカンマラン

フランスパン、全粒粉のクルミパン、
クロワッサン、ライ麦パン、ドイツ風の黒パン・・・
とても素人が焼いたとは思えない本格的なパンが、
木目の入った大皿に盛られていた。
パンの隣には、オリーブオイル、ハーブソルト、
レモンソルトなどの小皿が添えられている。

マカンマラン

茹でたカリフラワーと松の実とアンチョビのディップ、
アボカドのアイオリソース、
赤玉葱とじゃが芋のサラダ等、
パンによく合う付け合わせは、
奥さま風の女性が作った物らしい。
シャールから手渡された小皿に載っていたのは、
とろとろになるまで蒸し焼きにした大蒜だった。
それを豆乳バターと混ぜて、
熱いパンの上に載せて一口齧る。

マカンマラン


このシリーズも大好きなシリーズ!
ストーリーにも集中したいけど、
これだけ美味しそうな料理が出てくると
どうしてもそちらに意識がいってしまう・・・



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