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世界の「かわいい」トレンドファッション ロリータとの違いって?

どんなファッションなら、ロリータといえるのか?
それは時代によっても、人によっても、はたまた場所によっても変わってくるかもしれない、永遠にむずかしい問いです。
日本発のファッション・カルチャーとしてロリータを楽しんでいる人が多い印象の海外では、さらに多様な解釈が加わり、さまざまな国の文化や風土と混ざり合って、新たなロリータファッションが生まれているようにも思います。
最近はSHEINなどでも、ロリータファッションに似ていてかわいいな、と思うようなファッションアイテムをよく見かけるようになりました。
リボンやレースやチュール、花柄やパステルピンクなど、甘くてかわいいものが世界的に流行っているのだろうか?
そう思いつつも、それをはっきり「ロリータファッション」と定義できるかといえば、そうではなさそう。
ただ、そんな海外発のファッションのうち、日本のロリータファッションから影響を受けて生まれたものがいくつもあることは、確かなようです。
そういうファッションを分析してみると、ロリータファッションにしかない特徴も浮かび上がってくるのではないか。
また、ロリータっぽいものが好きな人にとって、もっと幅広くファッションを楽しみたいときにも、ヒントになるのではないか。
そう考え、今の私の観測を記録しておきます。


浮かんでは消える「◯◯コア」

日本でも最近よく聞くようになった「◯◯コア」というファッション用語は、日本語でいうと「◯◯系」に近いニュアンス。
ですが「◯◯ファッション」「◯◯スタイル」よりも広くてゆるいのが特徴で、常に「私は何系」というふうにいつも同じような服装を貫いていなくても、ライフスタイルや写真1枚でも「◯◯コア」と呼ぶこともあり、「こんな気分の写真をポストしてみる」くらいの気楽さで使われているようです。
2013年ごろにトレンドとなった「ノームコア」(みんなと調和するようなシンプルな服装)にはじまり、その後さまざまな「コア」が浮かんでは消え、とくに2022年の「バービーコア」以降、そのスピード感は増しているように思えます。

その中でも、「かわいい」というキーワードに引っかかる、日本のファッション・カルチャーと相互的に関連が深そうなトレンドをピックアップしてみます。

balletcore(バレエコア)

balletcore(バレエコア)

まずわかりやすいのが、「バレエコア」。
バレエシューズ、細いリボン、チュールなど、バレリーナの衣装だったり、バレエのレッスンをしている少女を彷彿とさせるようなモチーフをちりばめたファッションのことです。
MIU MIUが2022年の秋冬コレクションでバレエシューズ×ハイソックスのコーディネートを発表したり、BLACKPINKのJENNIEがチュチュスカートや細いリボンをコーディネートを取り入れたことから、世界中でブームに火がついたようです。
バレリーナのレオタードのイメージで、ランジェリーアイテムも積極的に取り入れ、ボディラインや肌の一部が強調されるようなシルエットになるのも特徴的。
そして、淡いピンクをメインカラーに、白、グレー、少しの差し色として黒といった配色が取り入れられるのがバレエコアらしさです。
ビビッドなカラーや、何色も使うようなコーディネートはあまり見られません。
バレエは女の子の習い事の憧れとされてきたからか、Laura Ashleyなど海外ブランドのキッズアイテムではバレエシューズやバレリーナモチーフは定番でした。そしてロリータファッションでもバレエシューズやバレリーナ的モチーフは長年好まれてきましたが、このデザインもどちらかというと、子ども服のようなかわいさを大人サイズで着られる、という感じでした。
でも今のバレエコアには配色や柄などに子どもっぽい要素はあまりなく、あくまでも大人のスタイルであるところもポイント。
「ダンス&リハーサル(練習風景)」をテーマにしたこのようなファッションは、もしかしたら韓国アイドルのオーディション番組やレッスン風景を見る文化などによって憧れを集めたのかも、と私は推測しています。
そしてバレエコアで多用される細いリボンは、2023年〜2024年にかけてはさまざまなブランドでトレンドになっています。
たくさんのリボンといえばロリータファッションに欠かせない要素でもありますが、ロリータのリボンはふんわりとした形だったり、はしごレースと組み合わせられていたりするデザインで、もともと甘いお洋服にこれでもかと甘さを追加するために使われてきました。
一方でバレエコアのリボンはあくまでも細く、シンプルなニットやキャップなどといったカジュアルなアイテムにあしらわることで、遊び心あるガーリー要素をプラスしているのです。
「ダンス&リハーサル」を彷彿とさせるのがバレエコアなので、動きやすい服装であることもロリータファッションとの大きな違い。
ロリータにスポーツは、ミスマッチな感じがしますものね……。
でも、これからの時代は「運動できるロリータファッション」があっても楽しいかも、なんて思ったりもしました。

fairycore(フェアリーコア) 

fairycore(フェアリーコア)

覚えている人はいるでしょうか、2000年代後半、原宿や高円寺のストリートを彩ったふわふわパステルカラーの女の子たちが、「フェアリー系」と呼ばれていたことを……。
当時の「フェアリー系」はパステルカラーのTシャツやチュールたっぷりのパニエ、リメイクした服、古着のランジェリー、ファンシーなおもちゃなどを組み合わせたスタイルで、敢えてとことん子どもっぽく仕上げ、おもちゃ箱をひっくり返したようなコーディネートにしているのが特徴的でした。
それに対して、2020年代に出てきた「フェアリーコア」はもう少し大人っぽく、年齢も性別も不詳で、神秘的・幻想的な雰囲気。
自然の中に溶け込むようなアースカラーも使い、身体と一体化しているようなランジェリーライクな服を、露出もいとわず着こなします。
「フェアリーグランジ」と呼ばれるスタイルもあり、ローゲージのニットや切りっぱなしの素材などを使って、「グランジ」の名の通り汚れや破れを取り入れたようなデザインなのも特徴。
子ども部屋にある妖精のお人形というよりは、自然の中で奔放に遊ぶ野生の妖精、といったイメージなのです。
そう考えると、2009年頃から数年流行した「森ガール」ファッションを思い出します。
「森にいそうだね」がコンセプトの女子ファッション・森ガールは、アースカラーのレースやニットなどをゆったりとしたシルエットで重ね着し、童話や動物のモチーフのアクセサリーもたくさんつけて、ナチュラルでありながらデコラティブなスタイルでした。
2010年前後には、森ガール的な重ね着スタイルに、十字架や天使などゴスに近いダークファンタジー要素、漫画やアニメといったサブカルチャーの要素が強まった「カルトパーティー系」が、高円寺を中心にストリートスナップで目立った時期もありました。
これらのファッションは、当時は「ガーリー」の代表格といった扱われ方でしたが、今その森ガール的なスタイルが、年齢も性別も問わない形に進化しているのかもしれません。

今、ヨーロッパの童話のような田園暮らしに憧れるスタイルは「cottagecore(コテージコア)」とも呼ばれ、コロナ禍のステイホームの風潮によって世界的にトレンドとなったようです。
これはライフスタイル全般にわたり、森の中や山奥の小さなおうちで暮らしているような牧歌的なムードのことで、とくにファッションの側面においては、日本の森ガールからの影響も指摘されています。
フェアリーコアのファッションは、このコテージコアの世界観の一部から生まれたともいえそうです。

疫病や自然災害といった大きな力を前にして無力感を抱かざるを得ず、インターネットで常に誰かと繋がり監視され良し悪しを判断される今の時代、私たちは現実離れしたコテージや、空想上のフェアリーに憧れるのでしょう。
異世界への逃避行という点では、ロリータの世界観とも通じ合っていると思います。
ただ、ロリータパンクは別としても、基本的にロリータファッションに「汚れ」や「破れ」の要素はない。
ロリータが憧れるお姫様やお嬢様やお人形は、いつもお淑やかに振る舞うものだし、たとえ汚れたとしてもすぐに何度でも着替えさせてもらえるかのような──その優雅さが魅力ともいえます。

一方の妖精は、お花や木の葉でできたお洋服を纏い、時には魔法で服装を変え、時間も空間も自由に飛び超えることができるのでしょう。
その存在を信じてくれる人が、どこかにいる限り。

coquette(コケット) 

coquette(コケット)

そして最後に、私が今個人的にいちばん気になっているのが、「コケット」や「コケットコア」と呼ばれるファッション、ムード。
2021年の秋ごろにTikTokやPinterestなどからトレンドに浮上したといわれているキーワードですが、時間差で日本でも流行しそうです。
"coquette"という単語には、「コケティッシュさ」つまり「性的魅力がある」「蠱惑的」といった意味がありますが、いまのコケットファッションはそういう性的な側面というよりも、この言葉のもつ「奔放さ」「ロマンティックさ」といったニュアンスを前面に出すスタイル。
ひとことで言うなら「女の子のかわいいベッドルーム」のイメージです。
デザインとしては、淡いピンクに白、レースのブラウスやフリルのスカート、フラットなバレエシューズ、花柄、リボン、薔薇やハートモチーフ……。
そして、さまざまな時代のファッションと今っぽさが組み合わせられ、少女の頃に憧れたようなノスタルジックなムードが漂っているのも特徴です。

こういったスタイルを長年一貫して提案してきた日本のブランド──そう考えてふと思い浮かぶのは、LIZ LISAです。
LIZ LISAはロリータなのか問題。ロリータを長年続けてきた人たちの中には、NOと言う人が多いでしょう。ギャルといえばギャルだ。でも、それにしてはデザインにロリータとの共通点が多い。
そう、あれがコケットなのではないでしょうか。
小中学生にとっては背伸びしたお姉さんっぽく、大人にとっては無敵の少女を思わせるような、あの甘美さと危うさ。

そんなコケットのイメージソースとしては、ソフィア・コッポラ監督の映画『マリー・アントワネット』が代表的だそう。
そもそも、コケットファッションのルーツは18世紀の王妃マリー・アントワネットにあるともいわれているのです。
コケットは、ロココ時代やヴィクトリア時代の文化を現代のストリートファッションと融合させているという点でも、日本のロリータファッションに影響を受けたという指摘があります。
でもディテールをみてみると、ロリータファッションよりも軽くやわらかい素材を多用し、時に古着やランジェリーも着回す自由さという点では、むしろ2010年代前半の「ゆめかわいい」の概念に近いのではないでしょうか。
雑誌『LARME』で人気モデルだった頃のAMOさんが提案した「ゆめかわいい」ファッションは、まさにソフィア・コッポラの『マリー・アントワネット』や『ヴァージン・スーサイズ』を彷彿とさせるような、ガーリー、ドリーミーでありながらどこかハズしの効いたファッションでした。
「ゆめかわいい」も「コケット」も、頭ものから靴までフルコーディネートするのが基本のロリータファッションに比べて、髪型は敢えてセットしすぎず、抜け感を出すのもポイント。
「ゆめかわいい」と「コケット」はほとんど重なると思うのですが、強いて違いを挙げるなら、「ゆめかわいい」はその後「病みかわいい」との境界が曖昧になり、薬、包帯、絆創膏、ナイフなど「病み・痛み」をモチーフにした日本独自のファッションやサブカルの要素が入ってきたことだと思います。

また、古着をメイン使いにすることも多いという点も、コケットとロリータとの大きな違いとして特筆に値するでしょう。
近年コケットファッションが人気になった背景としては、アメリカやヨーロッパではサステナブル志向と相まって、古着やヴィンテージで買い物をするZ世代が増えていることも一因だそうです。
一方、日本ではまだまだZ世代の間で古着がブームになっているとはまだ言えない状況なのではないかと思います。
もちろん、トレンドに乗って、コケットなアイテムを新作として発売している日本のブランドや、日本から買えるルートのある海外ブランドも増えたし、ファストファッションでは1000円もしない価格でTシャツやキャミソールなどが買えたりします。
でも、古着との一期一会の出逢いから自分の琴線に触れるかわいいアイテムを集めるのも、コケットファッションの醍醐味だと思うのです。

ワードローブという辞書に加えて

「◯◯コア」と称してライトにファッションを楽しむ海外トレンドから、逆輸入的に過去の日本のファッション・カルチャーが注目されているのを感じる今日この頃。
だけどこの「かわいい」、私たち、ずっと前から知ってたよね?
そんな記憶を手繰り寄せ、歴史を紐解いて、懐かしいところと新鮮なところを敏感に味わっていたい。
そして、今だけのトレンドとして消費するより、ワードローブという自分の辞書に追加して、自分の好きなものを表現する自由度をもっともっと上げたい……そんな思いで、移ろいゆくファッションを見つめています。



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