見出し画像

「生活ゴミ」をモチーフにした服がくれるもの ──鳥居みゆき×朝藤りむによる新ブランド ToriM 誕生──

お笑い芸人・女優など幅広く活躍する鳥居みゆきさんと、ファッションブランド 「ペイデフェ(pays des fées)」のデザイナー 朝藤りむさんによるブランド&文化的活動トリム(ToriM)が始動した。


鳥居みゆき×朝藤りむ「トリム(ToriM)」誕生秘話

trash track jacket / pantsを着用した鳥居みゆきさん(提供:ToriM)


「切り取る」という意味も込められているブランド名の「トリム」は、鳥居みゆき&朝藤りむという、ふたりの名前のアナグラムでもある。

ふたりがファッションを通して表現していることについて、デザイナーの朝藤りむさんに直接お話を伺い、鳥居みゆきさんにもメールインタビューを行った。

ペイデフェ / トリム デザイナー 朝藤りむさん


鳥居みゆきさんと朝藤りむさんの直接の出会いは、意外にも今年。
共通の友人のヘアメイクアップアーティストの紹介で知り合い、意気投合したという。
ふたりで初めてお茶したときには、どちらからともなく、その場でデザイン画が生まれていったそうだ。

鳥居さんもファッションに関する知識や経験が豊富で、ファッションセンスに根強いファンも多い。
ご自身の「お笑い」と「服作り」への姿勢について鳥居さんに伺った。

「面白いなと思うものやメッセージを入れ込むと言う点では似ていると思います。
好きなように作ったから気に入った人は買ってね、ってとこはお笑いというより私の信条と似てると思います」
(鳥居)

肩書きにとらわれずさまざまな活動を展開する鳥居さんにとって、ファッションも自身の世界観と地続きなものとして自然に発信されるものなのだろう。
受けてきたカルチャーや好きなものがダイレクトに表れるのがファッションの面白さだと私は思う。
鳥居さんやりむさん自身のことも、文化的背景も、もっと知りたくなった。

「ゴミって、ゴミじゃないよね」

そんなふたりが展開する今回の1st コレクションのテーマは「trash」=「ゴミ」。
中でもひときわ印象的なのが、トラックジャケットとパンツに使われているオリジナルのテキスタイルだ。

実際の生活ゴミをテキスタイルに起こしたもの。


鳥居さんのネタでもお馴染みのくまのぬいぐるみがポイントになっている、一見ポップでキュートな柄。
しかしよく見てみると、そこには卵の殻や薬のシート、煙草の吸い殻、アイスクリームの袋などの「生活ゴミ」がコラージュされている。
これは、鳥居さんの生活の中で出たゴミの写真を、一週間りむさんに毎日送るという試みによって生まれたもの。
ファッションの対極にあるように思われる「ゴミ」だが、日常的に消費され捨てられるモノからは鳥居さんのリアルな生き方が浮かび上がってくるようで面白い。

trash track jacketとtrash track pantsは、鳥居さんの「ゴミって必要なものだよね、ゴミじゃないよね」という精神と、りむさんの「90年代の悪趣味カルチャーが好き」という世界観が共鳴して作られたアイテムなのだ。

「trash track jacket」(¥26000+tax)(提供:ToriM)


「日本的なサブカルチャーを表現したい」


出会うべくして出会ったふたりの化学反応が伝わってくるトリム。

今までりむさんが続けてきたブランド・ペイデフェの世界観と比較してみると、ふと気づくのは、ペイデフェが一貫して幻想的でシュールな美意識を表現し、「生活感」を見せてこなかった一方で、トリムは紛れもなく「生活感」を感じさせるということだ。

ruffle track jacket / pants、rafflesia t-shirt を着用した鳥居みゆきさん(提供:ToriM)


海外に行っていろんなアートに触れるのが好き、というりむさんは、ペイデフェには東欧の美術やシュルレアリスム、ダダイズムなどの影響が色濃く表れていると語る。

「ペイデフェでは妄想の具現化だったり、生活から離れたものを日常で着る、という世界観を大事にしてきました。
一方で私個人としては、中野ブロードウェイでお店をやってるくらいだから(笑)、日本のスカムカルチャー、サブカルチャーも大好き。
〈トリム〉っていうのは〈鳥居とペイデフェ〉ではなく、あくまでも、〈鳥居と "りむ"〉なんです。
なのでペイデフェのほうでは敢えて取り入れてこなかった、日本のスカム的、ナード的、悪趣味的な要素や、東京のカルチャーを、トリムでは表現していきたいと思ってます」
(朝藤)

隠すべきとされるものを露出させるような悪趣味カルチャーのエッセンスを、鳥居さんとりむさんらしい少女性やかわいさで包み込んだアイテムの数々。
90年代の原宿キッズをイメージさせるようなデコラティブな色やディテールでありつつも、どこか力が抜けた素材感やシルエットの服たちは、雑多で個人主義な雰囲気漂う今の東京のストリートを歩く気分にぴったりだ。

「浮いちゃう人が自己肯定感を高めるために着られたら」

鳥居さんが着用しているのは、ブルーシート フリルハーネス。店舗受注会限定アイテム (¥18000 + tax) (提供:ToriM)


では、おふたりはトリムを通してファッションをどのように届けたいと考えているのだろうか。

「私としては、クラスにひとりいたような浮いちゃう人が、自己肯定感を高めるために着られたらいいよね、という気持ちがあるかな」(朝藤)

「こんな服があったら楽しいよね!」という新たなアイデアはふたりの間で早くも生まれているとのことで、今後どんなふうに具現化されるのか、さらに期待が高まる。
鳥居さん自身のファッション観の変化と展望も伺った。

「昔はその服を着る事によってなりたい自分に近づく演出をしていたけれど、今はなりたい自分のサポートのためにその服をつけるといった感じに変わりました。
自己肯定服を創っていきたいなという気持ちです」
(鳥居)

たしかに、生活ゴミというものも、「演出」ではないところにある鳥居さんの生き方を垣間見せるものだ。
誰かのためにスイッチを切り替えて自分のキャラクターを見せようとするファッションではなく、自分の居たいムードに寄り添うファッション。
歳を重ねるにつれて、その微妙な違いで居心地の良し悪しが変わる実感は私にもある。
まさに後者は、大人の「自己肯定服」といえるのだろうなと思った。

りむさんが言うような「クラスの中で浮く」という感覚は、大人になっても何かにつけてよみがえることがあったりするな、と私自身も思う。
そんなことを思いながらフリルのついたトラックジャケットを羽織ってみると、学校のジャージを着て居心地悪さを感じていた10代の頃の私までふんわり包みこまれて、肯定してもらえているような気持ちになってきた。

捨てられないゴミのような記憶も、私たちは鮮やかにコラージュして纏うことができる……
ゴミをテーマにしたお洋服から、そんな強さをもらったような気がするのだった。

ところで鳥居さんの言う「なりたい自分」って、どんな人物像なのだろうか。機会があったら聞いてみたい。


取材・文・写真(提供写真を除く):大石蘭

(提供:ToriM)



《ToriM 1st Collection [Trash] 》

全アイテムを観覧でき、試着も可能な予約会が、
2023年11月10日〜12日の東京を皮切りに、長野、名古屋、オンラインでも開催される。なお、今コレクションは全て受注生産の予定。
詳しくは Instagram へ。

■ToriMについてのお問い合わせ
info@pays-des-fees.com




記事・執筆活動への応援サポートをよろしくお願いします。 今後もより良い執筆に役立てていきたいと思います!