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食のまちストーリーズ vol.04「こだわりと愛が詰まる食のまちスイーツ」

鹿児島県のいちき串木野市で取り組んでいる「食のまちづくり」に関連する情報を紹介します。「食」を通じて、いろんなことを楽しむ、いろんなことをやってみる。人がいきいきと輝き、まちが元気になる。それが「いちき串木野市 食のまちづくり宣言」です。いちき串木野市は、海の味、山の味、こだわりの珈琲から蔵元の焼酎まで、心がほっとするおいしいものが身近にある、豊かな食文化を誇るまちです。この食文化をおいしく、楽しく味わいながら、人がいきいきと輝くまちをみんなで育てていきましょう。


こだわりと愛が詰まる食のまちスイーツ

 鹿児島では毎年だいたいおはら祭りが終わった11月初旬〜中旬くらいから段々と気温が下がってきます。
 鹿児島に移住してすぐの春、「11月まで暖かいから」と周りから言われ「いやいや11月なんてマフラー必須ですよ!」なんて返事をしながら『鹿児島の人たちはみんな僕を騙しているに違いない』と疑っていた8ヶ月後、本当に暖かく、驚愕することになろうとは、あの時の僕はまだ知りませんでした。
 そうして冬が近づいてくると、まちの灯りにはだんだんとイルミネーションが増え、気付けば赤と緑の配色が目立つようになり、1年の終わりを感じるようになります。

 そんな鹿児島初心者だった頃、気候の暖かさと同じく、衝撃を受けた思い出があります。
 いちき串木野市では4月の終わりに〈串木野浜競馬大会〉という、競走馬、農耕馬、ポニーたちが照島海岸の砂浜を走る、全国でもとても珍しいイベントが開催されるのですが、その年一回の浜競馬の時にしか販売されない幻のふくれ菓子「ばふ〜ん饅頭(まんじゅう)」というものがあります。その名の通り馬糞を模したお菓子で、意外とリアリティのあるテクスチャをしています。
 海岸ではお馬さんたちが颯爽と駆けている、そのすぐ横で売られているばふ〜ん饅頭を手に取り、「このまちはなんてところだ!このまちのこの場所で、今日という日にしか出会えない、オンリーワンがここにある!」と興奮して鳥肌が立ちました。すぐさま封を開け、鼻から味わうその場の空気も一緒にいただいたのは言うまでもありません。見た目のインパクトだけでなく、味も絶品でした。
 ばふ〜ん饅頭は2002年に当時の地元菓子組合と観光協会が開発したもので、名称は外国語で道化師を意味する「buffoon (バフーン)」から名付けたといいます。道化師という意味以外にも「ばかげた面白いことをする人」という意味もあるので、当時の人たちのノリが伝わってきます。 

 ばふ〜ん饅頭を筆頭に、老舗の醤油屋がつくる「醤油ソフトクリーム」や、港町いちき串木野らしい「まぐろソフトクリーム」「しらす塩バニラソフトクリーム」など、『ここにしかないもの』を目指して試行錯誤を繰り返し、こだわりの逸品を生み出しているように思います。
 いちき串木野の旬の果物や地元の卵を使用したり、地名を入れてその土地をイメージしたりと、手法はさまざま、個性が爆発しています。そして自然と地元を PRする活動になっていて、いちき串木野市を訪れる人にも特産を印象付けることができる「なんて地元愛に溢れているのだ!」と、驚きの連続です。 

 ちなみに、いちき串木野市の特産である「つけあげ」、英語では「flied fish cake」と言うらしく、実は甘く見てはいけないスイーツのまちかもしれません。


 以下では、数あるいちき串木野のスイーツたちから、愛がいっぱいでこぼれ落ちそうなお店を紹介したいと思います


「地元の食材を使いこなす、魔法使いのようなお店」
〈有限会社 菓子処 菊屋〉

 店内に入るとカラフルなお菓子たちがまるで3D映像のように目に飛び込んできます。並べられているお菓子たちをよくよく見てみると「冠」「羽島」など聞き慣れた文字が並んでいます。これらは鹿児島の、特にいちき串木野市の地をイメージしてつくられたお菓子なのだとか。また、使用されている素材も「サワーポメロ」などいちき串木野市を代表する食材が多いです。鹿児島の代表的な銘菓「軽羹」にサワーポメロピールを乗せた「極み軽羹」は甘味の中に爽やかな柑橘の香りを纏った新しい軽羹といった感じです。個人的には極み軽羹に餡子が入っていないのがシンプルで美味しいと感じました。少しだけ手土産にと思っていたのに、ついついたくさん買ってしまうことは、あるあるです。


「旬の柑橘とパティシエの強力なタッグスイーツ」
〈モン・シェリー松下〉

photo:Masahiko Kukiyama

 冬が近付き、鹿児島のお店にはたくさんの柑橘系の果物が並びます。そのビタミンカラーを見ているだけでも元気が出てくるのですが、そのエネルギーを後押しするような、「薩摩ポンダリン」というお菓子があります。柑橘の中でも市来エリアで昔から地域ブランドとして確立されている「大里ポンカン」を使用して、地元の方々が小さい種まで丁寧に取り除き、何日もシロップに漬けて甘さを調整し、セミドライの状態まで持っていき、仕上げに面積の半分くらいチョコをつけて完成です。ポンカンの自然の甘さも残しつつ、ほんのりした皮の苦み、別角度からのチョコの甘み、全てがバランスよく絡み合い食べ切るのが勿体無いスイーツです。冬の逸品をぜひ味わってみてください。※販売時期などは店舗にご確認ください。


「安心と優しさとサイケデリックが交差する」
〈YANO CAKE TEN MOKU〉

 こぢんまりとしていて、可愛くておしゃれなテイクアウト専門のケーキ屋さん。ファンも多く遠方からわざわざ訪れる人も多いです。ショウケースに定番ミントブラウニーの姿を見つけるとテンション上がります。僕がいちき串木野市に来たときには今のテイクアウト専門の形態になっていたのですが、以前はカフェスペースもあって素敵な雰囲気の中ゆっくりとしたカフェタイムが過ごせたそうです。その時に提供していたコーヒーは店主自ら焙煎した豆で淹れていたとのことで、もう少し早く鹿児島に来ていればと悔やみます。そんな自家焙煎コーヒーとのペアリングを考えてつくられた「コーヒーケーキ」なるものがあり、今でもたまに店頭に並ぶとか。未だ食べたことのないコーヒーケーキを求めて、またMOKUの扉を開けてしまいます。

text:Fumikazu Kobayashi
photo:Fumikazu KobayashiMasahiko Kukiyama


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