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おしゃれができない子

私はおしゃれができなかった。
金銭的ではなく、心の問題だった。

小学4年の時、友人のさっちゃんと近所の雑貨屋に行った。
私はいつものようにかわいい鉛筆やメモ帳を探していると、さっちゃんが「お揃いで買おうよ!」とリップグロスを指差した。
衝撃的だった。
大人の使うものだという認識で、かわいいけど自分にはまだ早いと思っていた憧れの化粧品を、さっちゃんは何のためらいもなく買おうと言うのだからだ。
さっちゃんがとても眩しく見え、自分も買っていい年頃になっていたんだとウキウキして色を選んだのを覚えている。

それからおしゃれに興味を持った私は、今まで母親に服を買ってきてもらっていたが、自分で選びたいと言うようになった。
それなら妹も連れて一緒に見に行こうと近所のお店に行った。
ここが全ての始まりだった。

スカートが履けない

子ども服がたくさん売っているお店は、今までとは打って変わってキラキラして見えた。
その中から好きな服を選んでいいと言われテンションが上がった。
服をあさっているとあるスカートが目に止まった。
「お母さん、これがいい」
そのスカートを持って母親の前に行くと、横から妹が割り込んで言った。
「おねーちゃん、スカートはくの?ぜっっったい似合わないし(笑)(笑)(笑)」
私は「みんなはいているもん!」と言い返したが
「ぜっっったいむり(笑)」「むりむり(笑)おねーちゃんはこっちのダサいのでじゅーぶん(笑)」「私の方がぜっっったい似合うし?おかーさん、これ私が着る!」
と、クソ生意気に笑いながら私をdisり始めたのだった。
今思えばこいつ相当性格悪いよな・・・。

お店で泣くのは恥ずかしくて、早くこの場所から立ち去りたい私は必死に涙をこらえた。
一番早く帰れる方法を考え、出てきた言葉は
「やっぱりいらない」
だった。
母は妹を止めることもなく、急にテンションの下がった子どもの扱いに困ったのだろう、そのまま妹が自分で選んだ服と、母が選んだ私の服を買って帰路に着いた。
その日を境に妹は私を馬鹿にすることを楽しみ始め、私は自分で決めることがたまらなく恥ずかしくなった。

タイツデビュー

あの日から、私は母の買ってきたTシャツと欲しいと頼んだジャージのズボン(これは妹から何も言われなかった)で思春期を送った。
幸い、中学は制服だったため人に何か言われる事もなく服装に無頓着でも問題なかった。

時が経ち高校入学時、またしても衝撃を受ける出来事が起きた。
クラスにモデル級のかわいい子がいたのだ。
しかも私の後ろの席。公開処刑かよ。
ひっそりとファンとなり、季節も冬に向かっていたある日、その子がタイツを履いてきた。
ストライクゾーンど真ん中だった。
輝いて見えた。
その時、いつしか蓋をしたおしゃれをしてみたい気持ちの蓋が開いた。
その子になれるわけでもないが、人は憧れる人の真似をしてみたくなるものらしい。

おしゃれする言い訳探し

蓋が開いたからといってすぐにおしゃれできたら苦労はしない。
5年ほど続いた妹の姉disりと凝り固まった低い自己肯定感ではなかなか行動に移せない。
その頃の私の口癖は”どうせ私なんか”だった。
同居家族に言われ続けたらそりゃこうなるわな。
だが、そこからそろそろ脱出したいとも思っていた私は、何か気持ち的に許せるようにならないか解決方法を探し続けた。
そして悩むこと1年。高校2年の冬、やっと自分の心が納得のいく方法を見つけた。それが"正当そうな言い訳"を作ることだった。

「お母さん、私も年取ってきたのかな〜、そろそろスカートと靴下だと冷えちゃって。タイツだと暖かいらしいし、ムダ毛処理サボれて楽って友達に勧められたからタイツほしい」

言い訳内容はさておき、数年振りにほしいと言えた瞬間だった。
ちょっとふざけた理由にして恥ずかしさを紛らわしたつもりだけど、息がとても苦しかった。冷や汗だらだらで手も声も震えていたと思う。けど自分にとっては大きな一歩だった。
しばらくしてタイツを買ってもらい履いてみた。
先手を取らないとまたメンタル死ぬと思ったので自ら妹の前に行ってこう言った。

「見てみて〜!!もう若くないっぽくて脚冷えるからタイツにしたの!横から見るとすね毛はみ出て見えるっしょ(笑)ちくちくするけど触ってみる?(笑)」

自虐スタイル。
それが功を成したのか?、妹は「ほんとだ〜ウケる(笑)」くらいでそれ以上は馬鹿にして来なかった。
こうして私はタイツ(おしゃれ)デビューしたのだった。

ラジオのお悩み相談の子

時は経ち、最低限のおしゃれができるようになった私は車でラジオを聞いていた。
その時、とあるお悩みコーナーで「恥ずかしくてタイツがはけない」というJKの話が取り上げられた。
あ!あの時の私だ!
とっさに思った。
「なんで恥ずかしいんだろ?」とパーソナリティの人はよくわかっていないようだった。私のような経験がないとわからないものなのかもしれない。
結局ふわっとした回答で終わらされていたのを未だに忘れずにいる。

なぜ恥ずかしいのか?
その理由は人によって違うのだろうけど、私みたいに周りの環境によるのもあるのだと思う。
その解決策も十人十色だけど、その一つとして私のような方法もあるよ、というのを伝えたい。
でも自虐はやりすぎるとウザがられるし、自己肯定感が低いままになってしまうから、どうしてもという時のみ使った方がいいと思う。

今悩んでいる誰かに届いて、少しでも前に進められたらいいな。
私は今、次のステップで、日常的にイヤリングをつけられるようになる事を目指しています。
正当そうな言い訳、ないんだよねぇ。

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