わたくしの父親についてーー屈折15年、現在に至るまでの他愛ない回想録ーー
父の年齢が分からない。
60そこそこかと思う。
もともと酒浸りで引きこもりがちの父だったが
2ヶ月くらい前から
家から1歩もでなくなった。
風呂に入らなくなった。
歯も磨いているか分からない。
酒を飲み、タバコを吸い
とにかく一日中スヤスヤと眠っている。
部屋を出てくるのはトイレの時くらいである。
酒はイ◯ンのネットスーパーで届き
タバコは家族の誰かに頼む
呂律が回っていないが
丁寧な喋り口で
意外と会話は成り立っている
全く歩いていないから
足腰が立たず
段差につまづいてコケたりするのだが
自分で起き上がる筋力がない
ひっくりかえったカブトムシさながら
手足をばたばたさせている
腰を支えて誰かに「うんしょ」と抱えられないと
立てないのである
この前祖父の葬式だったのだが
到底1人で歩くことができないので
「迷惑がかかるから」という本人の意思で欠席した
このことで母と私が
不毛すぎる言い争いをした
悲しかった難しかった
あれよあれよと体力を落としていき
気づいたら見た目が90歳ぐらいになっていた
人って転げ落ちるように一気に老け込む
日本最大手の非鉄金属メーカーに勤めていた父は
15年ほど前から会社を休みがちになった
精神を病み、長いこと休職していた
その頃から酒はずっと飲みっぱなしで
焼酎のパックがゴロゴロ部屋に転がっていた
風呂に入っているスキをみて
パックの中身を捨て、全て水に変えたりもした
暴力こそ振るう父ではなかったが
奇行や心無い言葉は良く浴びせられた
チェーンをかけられ家に入れなかったこともある
金を持っているのは父であるため
いつ学費を払わないとか、生活費を渡さないとか
言いかねないヒヤヒヤな時期が長らく続いた
そんな父が
まる3年間、酒を飲まなかった時期がある
通勤の道中、車で人を引いたのである
幸いお相手の命に別状は無かったが、大事故だった
マ◯ダ(多分)まっしろい、かっちょいいスポーツカーが廃車になった
当の本人は無傷でケロッとしていた
(まじなんなんよ)
アルコールは検出されなかったものの
車内には酒の匂いが立ち込めており
お酒が引き金になったのは一目瞭然
そのまま警察にご厄介になり、その日から酒をきっぱりと飲まなくなった
このまま一生やめるのだと、すっかり信じ込んでいたのだが
3年たったある日、再び酒を飲みだしたのである
理由は簡単で「3年間は謝罪のため飲まないと決めていた」そうだ
聞いて呆れた
なんかもう、どうでもよくなった
退職してからは楽しそうに
好きなだけ寝て好きなだけ酒を飲み
自分の好きなものを
自分の好きなタイミングで食べる
会社勤めのストレスから開放されたのか
有難いことに奇行も少しずつではあるが減っていった。
なんか元気そうならそれでいいか
そんな感じでずっと適正距離を保ってきた
しかし、気づいたら
なぜか、父が家から1歩も出なくなっていた
スヤスヤとコンコンと眠り続けている
生きてはいる
ただ、体力が落ち、気力がおち、心が折れ、自信をなくし
自分では何もできなくなっていたのである
人ってこのループにハマってしまうと
なかなか抜け出せないようなのだ
たぶん、底についたんだと思う
われわれ(母、私、妹)とさすがに
ちょっと今までとは何か違うぞ
由々しき事態だぞと、焦り始めた
求められることに手を貸すだけでは
事態は変わりそうにないので
ちょっと強めにこちらから
アプローチをかけ始めたのだが
なんか
拍子抜けするくらい
素直なのである
リンゴを差し出せば食べる
漢方を渡せばのむ
近頃は夕食を少し分けてもっていくと
綺麗に食べるようになっていた
え、食べるんかい
今までの拒否はなんじゃったん
嬉々として私の作ったものを
運ぶ母を見ていると
正直なんかモヤあっとする
母と妹ために日々食事をつくっているが
父のためにはつくっていない
心狭いが、まだそこのバランスが追いついていない
ちゃんと週に1度
焼酎のニリットルパックが2本届く
くそったれ、と思う
でも、そんなこんなで
屈折15年、我が家のバランスは静かに
でも確かに今までとは違う流れ中に進み始めている。
微風ではあるが変化の風がふいている。
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