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往来堂書店のDX大作戦!

仕事とは、情報の流れを整理することではないか。事務仕事でも小売業でも。そう思う時がよくある。

テレビCMで、インボイス制度が始まって課長が取引先から届いた電子請求書を紙に印刷してファイルに閉じたらイエローカード、というのがあったが、あれは情報の整理の仕方が時代に合わなくなってきているということだろう。

ものを売る場合は、一方に様々なものを欲しいと思っている様々な人がいて、もう一方に様々な品物がある。それをうまく繋げてあげれば、店は世の中に存在を許される(つまり売れる)。
本屋の場合は、例えばある新刊が出る(出た)という情報が生まれる。それを欲しい人にタイミングよく届ける。同時に決済と運搬の方法を整える。そうすると売れる。

当たり前のようだけど、これができている本屋はすくない。なぜか。

まず本の種類が極端に多い。だから週に一度新聞に入ってくる近所のスーパーみたいに売りたいものを選んで一枚のチラシにまとめたりできない。情報を発信したとしても、扱う品のごくごく一部のみ。

次に欲しがる人の種類というか個性も数えきれない。普通の本屋は「こんなお客さんに来て欲しいな」とはあまり考えない。いろんな事情でエロ本は置かないとか、オフの気分で来る人が多いのでビジネス書はあまり置かないとかはあるかもしれないが、基本的には来る者を拒まずである。つまりマーケティングの第一歩であるところの「ターゲット」がない。あるのは店の規模の大小だけだ(本当はなんか「謎」っぽいターゲットはあるにはあるのだが。後述)。

さらに、本というものは、刊行予定情報でも現物でもよいが、それが目の前に現たあとに、その人の中に読みたい気持ちが生まれる場合も多い。さきに「それ」を読みたいということが決まっているのではなくて、たくさんの本を目の前にして、その中から「これ読んでみたいかも」とあとから自分の気持ちを発見する。

では町のスーパーマーケットのチラシのようなものが作られない「本」という商品の情報発信は誰がやるのか。メーカーである出版社がそれぞれにやる。

新聞広告、テレビ宣伝、そして様々なウェブ媒体。加えてメーカーの人ではない一般人によるSNS。それを買う側の人々がそれぞれアンテナを張ってキャッチする。それがどこに行けばすぐに買えるのかはわからない。なぜなら売り手が発信した情報ではないから。だったらほとんどの本が揃っていると評判の大きな店か、あるいは無限に在庫を持っていそうに見える(見えるだけなのだが)ネット書店で買うか、となる。この先小さな店には存在価値はない、と20年以上前に言われたことを忘れない。

そこで往来堂書店もスーパーのチラシを作ろうというわけである。
(そこで? 論理の飛躍・・・↑ここから往来堂が目を付けた新刊本のリストをご覧ください)

毎週日曜日に、【先週手配したこれから出る本リスト】と【今週これから入荷する予定の本】のリストをウェブ上で公開する。もともと日々の仕事の中で、さまざまな新刊の情報をつかんで事前に注文している。FAXを戻したり、郵送されてきた新刊案内に返事したり、BOOKSPROで情報をつかんで電話を掛けたりして自店のお客様に向けて品ぞろえをする。いまどき取次に任せきりなんて本屋はない。閉店した本屋は取次任せだからダメだったとか、取次が悪者だとか、そんな20年以上も前と同じようなことを言ったり書いたりしているのをたまに見かけるが、あんなコタツ記事ははっきり言って嘘だ。志半ばで本屋から去らざるをえなかった仲間に失礼だろうが!ん?話がそれた。自分の仕事をどうするかだった。俺は忙しいんだよ!

注文の控えはFAXを送ったあとの紙だったり、電話を掛けたことを記録したノートだったりするのだが、店の中で一元管理できていないから、いざというとき「あれ、手配したっけ?」となる。それをスプレッドシートに全部まとめて刊行予定・手配状況が一覧できるようにする。

さらにそれを社内にとどめておくよりも、お客様にも見ていただいて、そこから注文できるようにする。(なんか公開書店営業とおんなじ思考パターンな気が・・・)ワンクリックしてメールアドレスと名前を記入し、送信ボタンを押すと、往来堂の在庫を取り置きできる。あるいは新刊の予約注文ができる。安売りはできないから、ポイントカードを使うと結構安く買えることをお知らせする。

決済と運搬の方法と書いた。そこは、お客様にレジまで来ていただくことで解決する。通販は別の枠組みを用意しているが、トートバッグなどのオリジナル商品やごく一部の超オススメ本などを販売する。

往来堂書店は何かの専門書店ではないから、チラシ的リストには漫画もあれば小説もある、学術書もある。しかし全ての本を置いているわけではない。では例えば同じ小説というジャンルなのに、この本は置いてあってあの本がないのはなぜか。そこにはっきりした基準はない。ただこの本は「千駄木のお客さんが好きそうだから」という私の経験でしかない。それを地域性の反映といえばそうだけど、その中身を具体的に説明することはできない。このような謎の上に本屋は成立している。

近頃話題となる「独立系書店」を営んでいる方は、何らかの方針を決め、それに沿った仕入れをして、それを情報発信している。「普通」の本屋とはそこが異なる。でも専門性や趣味性あるいは店主のキャラクター性を強めればお客様を選ぶことになるから、より広い範囲つまり遠くからもお客様にきていただかなくては採算が取れない。だから情報発信は必須だし、そもそも情報発信したい人が本屋を始めたという側面もあるように思う。

「本屋は町の情報発信基地」というレトロな標語があったが、今現在はまったくいただけない。本を店に並べるだけで情報を発信している気になっているのならば、大きな間違いである。

情報の通り道はますますスマートフォン(とパソコン)である。これはもう止めようがない。人々に何か伝えたいと思ったらスマホで見てもらう必要がある。レッツDX!

【余談】売れている本『事務に踊る人々』阿部公彦 講談社 面倒くさい、複雑、抑圧的……時に文豪を苦しめ、戦争を阻止し、巨額の損失を生み、ついには死の世界を垣間見せる 事務の営みから人間のあり方を再考する、画期的エッセイ!(帯より)
近いうちに読みたいと思っています。

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