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南アルプスを目指して

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南アルプスの仙丈ヶ岳を目指して、砂丘で出会った友人と一緒に山を登る
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静かな夜明け、それは音さえ眠ったままの世界【2012.08 仙丈ヶ岳】

それはそれは静かな夜明けだった。地上の音は宇宙から贈られた真空のベールをかぶり、安らかな眠りについているかのよう。手の届く距離に宇宙があるような、そんな場所に人は立ち、音が宙に吸われていく様を見届ける。どう足掻いても真空空間には決して届かない音たちを尻目に、太陽の光はすべてを突き抜けていく。大地を色鮮やかに染め上げ、朝を告げて回るのだ。いつしか真空のベールは舞い上がり、静寂の住人である星たちは、誰にも悟られることなくひっそりと姿を消していく。風は轟々と騒ぎ立て、雲は踊り囃し立

南アルプス前哨戦で距離感覚が崩壊する【2012.05 伊吹山】

いよいよ南アルプス前哨戦、伊吹山登山。滋賀と岐阜の県境に聳える名山。米原・大垣間を電車で通るとき、いやが応にも目に入る存在感のある山である。伊吹おろしとして知られる風の通り道上にあり、冬期は日本海気候に似た積雪の多さに見舞われる。風の落とし物はすべて伊吹山で見つかるだろうというくらい、日本海からの贈り物が伊吹山で感じられる。地理的条件の生んだ風の軌跡は、伊吹山に花の名山というもう一つの顔を生み出し、豊かな生態系の躍進に一役買っている。 これまでポンポン山、能勢妙見山、金剛山

砂漠の民と海の民、それぞれの自然【2012.04 青葉山】

砂丘と行く初の日本海遠征。春休み期間にどこか縁遠かった地域に遠征をしようという話は二人でしていて、日本海に臨む若狭富士、青葉山に行き先を決めた。初めての日本海地域、海の見える山、知らない土地の山。 秀麗なかたちをした青葉山は、実は双耳峰をもつ独立峰。どこからでも目立つ地域の雄ともいえる山であるが、富士山のような三角錐に見える角度は限られている。いわば限定富士。遙か昔に停止した青葉山の火山活動は、富士山のごとく美しいシンメトリーを残すことはできなかった。それもまた自然の妙であ

人の目の次元、鳥の目の次元【2012.03 金剛山】

引き続き砂丘(何回も登場するので、もう砂丘と略す)と一緒に南アルプスを目指す話。今回はマイナールートより金剛山を目指した。標高1,000mほどの大阪・奈良の県境にある山で、冬期に樹氷が見られることで有名だ。メインルートである千早赤坂道には、ある間隔ごとに人生の訓示みたいなありがたい言葉が書かれた看板とお地蔵様が現れるので、歩いているとなんだか叱られている気分になってくる。 今回は地図読みにテーマを絞ってルートを選んだ。石ぶて尾根という聞いたこともない日本語。ぶてって何やろ。

北極星信仰の聖地と知ったのは8年後【2012.02 能勢妙見山】

引き続き南アルプスを目指して、砂丘の友人との登山第二弾。阪急電車と接続している能勢電鉄に乗って気軽に行ける里山地域。能勢電鉄の上手なPR等もあり、人の絶えない人気の山である。 今回は行動時間を増やすこと、負荷を上げること、そして小さい規模ながら縦走気分を味わえるルートを計画した。青貝山からはじまり、天台山、光明山、妙見山、高代寺山と4つの山頂を通るルートである。4つ目の山頂に向かう頃には二人とも膝が笑ってすっころがりまくっていた。 登山はじめの頃に、どうしてこう縦走にこだ

南アルプスの女王への旅路をポンポン山から始める【2012.02 ポンポン山】

またいつかいつか、そう想っているだけでは何も起きないことに気づいた大学の冬。教室に行けば先生がいて何かを教えてくれ、グラウンドに出れば練習ができる、その場に行けば誰かが施しをしてくれる環境にはもう戻れない。そうやって南アルプスの女王、仙丈ヶ岳を目指すことにした。 森林限界を超えて、稜線を縦走する。甲斐駒ヶ岳や鳳凰三山を横目に見ながら、太古の氷河の痕跡、藪沢カールを目指す。アルプスを表現する言葉には日常離れした言葉が連なる。言葉との距離はそのまま日常との距離であり、その言葉を