映画『ぶあいそうな手紙』感想

この文章はネタバレを含みます。敬称略

監督:アナ・ルイーザ・アゼヴェード、脚本:ジョルジ・フルタート、脚本協力:セネル・パス

 ブラジル、ポルトアレグレ。80歳に近いエルネスト(ホルヘ・ベラーニ)は息子のラミロ(ジュリオ・アンドラーヂ)から、一人暮らしのアパートを引き払ってサンパウロで同居をと促されるが、頑なに拒否する。そんな折、ルシアから彼女の夫が死去したという手紙が届く。エルネストにとっては二人ともウルグアイ時代からの旧友であり、ルシアとはかつて関係を持ったこともある。老化で目がほとんど見えないエルネストはビア(ガブリエラ・ポエステル)という23歳の女性に手紙の代読を頼んだのだが、彼女はDV元カレに借金を返済するためエルネストの金に手を出してしまう。エルネストは罪を告白したビアを不問にし、引き続き手紙の代読と代筆を依頼する。ビアは元女優で代読が上手く、手紙からルシアの秘めたる感情を読み取る鋭敏な感性と文学的資質があった。

 ビアに促されてエルネストの返信はより情熱的なものになり、エルネスト自身も若やいでくる。若者達の詩の朗読会に飛び入りしたりレコードで踊ったりビアのDV元カレをオモチャの銃で追い返したり。「親子愛も兄弟愛も恋人の愛も知らない」という天涯孤独なビアもエルネストに信頼を寄せ、アパートに転がり込んでくる。しかし祖父と孫ほど歳の離れた男女の同居というのはどうにも不自然だ。隣人で友人のハビエル(ホルヘ・デリア)から「ビアは若く未来がある」と諭され、ビアからも「出ていく」と告げられたエルネストは、ある覚悟を持って「最後の手紙」の代筆をビアに頼む。その手紙の宛先はここでは書かないが、貧困、死、親と子、などシリアスなテーマに目を配りつつ、老人の孤独と愛をユーモアと優しさをもって描いた、じつに豊かな映画であった。

(8/11、シネ・リーブル神戸にて鑑賞)

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