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醤油ラーメンしか食べられなくなった話。


ラーメンは好きですか?

私は大好きです。
お腹が弱いので食べた後は必ずトイレへ直行ですが、
トイレへ行くことを覚悟して食べに行くくらいには
ラーメンが好きです。
私の地元は煮干し醤油のラーメンが主流(?)でして、
ギリッとしょっぱい濃いめの味付けから、
お出汁が香るあっさりめの味付けまで、
魅力的なお店がたっくさんあります。

時代が変わるにつれ豚骨醤油やつけ麺など
バラエティに富むようになりましたが、
子どもの頃はそれこそ醤油ラーメン、味噌ラーメン、塩ラーメンとベーシックなラインナップのお店が多かったものです。


以前、こちらで私が長女であるとお話ししました。


子どもの頃は、5人家族でよくラーメン屋さんに行ったものです。
うちはみんなご飯を食べることが大好き!
食べ盛りが3人もいれば食費はかさみます。
当時の家計を子どもながらになんとなく察していた私は
なんだか遠慮してしまって、
ベーシックな醤油ラーメンを頼むことがほとんどでした。(もちろん好きでしたが)
その時の気持ちを正確に表すのは難しいのですが、
妹や弟が、
「ぼく味噌ラーメン!」
「わたしはチャーシュー麺にする〜!」
「餃子も食べたい〜!」
と遠慮なくやっているのを見ながら頭の中で勝手に合計料金が計算されていき、父や母がメニューを決める頃には、私は1番お手頃な醤油ラーメンとしか頼めなくなっていたのです。
お金がなくなっちゃう!と心配になっていたのです。
父や母は私たちみんなに好きなのを頼めばいいと言ってくれていたのに、長女だからと謎の使命感を負っていたような気もします。
親の立場からすると可愛げのない子どもだったかもしれませんね。

大学に進学するにあたり親元を離れた私は、
仕送りはなく、バイト代+月5〜7万の奨学金で暮らしていました。
バイトを頑張れば頑張るほど自由にできるお金が増えることが分かり、私は初めて自分のお金で自分の好きなものを買うという経験をしました。
初めて自分に買ったもの、それは美味しい食事でした。

1人での外食は元々あまり抵抗はなかったこともあり、
いざ大好きなラーメンを食べに入店。
券売機を見ると美味しそうなラインナップ、
一押し!と書いてあるのは、味玉海苔チャーシュー全部乗せの豚骨醤油ラーメン。
しかし、スッと押せないそのボタン。
何も乗っていないベーシックで1番安価な醤油ラーメンから目が離せないのです。


謎の使命感で醤油ラーメンを18年間頼み続けたが故に、


なんと、私はラーメン屋さんに行くとそのお店の定番(1番お手頃価格)のラーメンしか選べなくなっていたのです!



そんなバカなことがあるかとお思いでしょう。
これはある種の呪いのようなものかもしれません。
或いは枷、或いは使命。
しかし私はこれをなんとかしたい、
好きなものが食べたい、
自分の稼いだお金で欲望のままに食べたい。
少しの葛藤の後にふっと息を吐き、
勢いで全部乗せラーメンのボタンを押しました。

やった、やったぞ。


反してめっちゃすごい勢いで押し寄せる背徳感。
変な汗をかき、しこたま水を飲んでラーメンを待つ私。
異様だったでしょうね。
正直、着丼した時の感動は覚えていますが味は殆ど覚えていません。
自分の好きなものを遠慮なく頼むということに慣れなさすぎて「いけないことをしてしまった」みたいな感情に支配されていたんです。
ようは背徳感なんですが、それが強すぎて早く無かったことにしたくなって本当にすごい勢いで啜りました。


食べ切って「ごちそうさまでした!」と言い、
そそくさと店外へ出た私は、背徳感と後悔のようなものと達成感を全部感じながら家に帰って行きました。


私の大学の費用を含め家計が火の車だったこともあり、
「私だけ美味しいものを食べてごめん。」
と、家族に申し訳ないような気持ちがしながらその日は眠りにつきました。


大人になった今もずっと覚えているあの感覚。
昔ほどではありませんが、今も外食の度に心の隅っこでそんな気持ちがもぞもぞしているのを自覚しています。
同じような気持ちになったことがある人はいるのでしょうか?
家族に対しては、特に苦労させてしまったのでその分恩返しというかなんというか、美味しいお土産を買って帰ったり、ご飯の時はかっこつけて奢ってみたり、そんなことをしていますが、実は、今は少しずつごはんが楽しめるようになってきました。
それというのも、兄弟や両親は私が気にしたりしなくてもそれぞれ何かしら美味しいものを食べているということが分かったからです。当たり前なんですけどね。

私にかかったお呪い(おまじない)のようなものは、まだまだ綺麗さっぱりとはいきませんが、誰かと美味しいものを食べる度に少しずつ薄れていくようなそんな気がしています。
何かを気にして醤油ラーメンばかり食べても別に良い、でも食べなくても良いのです。
好きなものを食べたところで誰かがしぬわけではありませんから。
それが分かっただけでも十分です。


結局なんの話?(笑)

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