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“KSAC アントレプレナーズ“ キックオフシンポジウム

いま、高校生を対象にした「アントレプレナーシップ教育(起業家教育)」の重要性が高まっていることをご存知でしょうか。
 
2023年6月24日に眼鏡ブランド『JINS』でお馴染みの株式会社ジンズホールディングス代表取締役CEO田中 仁氏や、教育現場に携わる先生方をお招きし『KSAC アントレプレナーズ キックオフシンポジウム』を開催しました。
 
田中氏の講演では「これからの時代を生き抜くために必要な教育とは」というテーマのもと、日本の教育における問題点や、アントレプレナーシップを若い世代から養う大切さが語られました。
「令和の教育をどう進めていけばいいのか悩んでいる」という教職員の方々や、「将来の夢や希望がなく、自分に自信がない」という学生の皆さんに向け、ビジネスと教育の側面から田中氏の想いを語っていただきました。

KSAC アントレプレナーズ キックオフシンポジウム

利益や雇用を増やすだけが、起業家の役割ではない

まずは、起業家教育推進大使であり、株式会社ジンズホールディングス代表取締役CEO田中氏に、アントレプレナーシップ教育の活動を始めたきっかけや、取り組みをお話していただきました。
 
田中氏:
私がアントレプレナー教育に関心を持ったひとつのきっかけは、アメリカの会計監査法人が開いているアントレプレナーの世界大会で、日本代表に選ばれてモナコに行ったことでした。

EY Entrepreneur Of The Year at モナコ


それまで起業家というのは利益を出して税金を納め、雇用を増やすことで社会貢献するのが一番だと教えられてきました。
しかし、モナコで世界各国の起業家と交流したとき、お金やエネルギーを社会や地域に使っているという現実を目の当たりにしたんです。そこで、私も地域や社会に何らかの形で貢献したいと思い始めました。

地元・群馬県で高校生も参加できる起業家支援を始める

「地域や社会のために何ができるんだろう」と考えたとき、能力や資産、ネットワークなど何もなかった私のいまを作ったのはビジネスだ、と思い出したんです。会社を大きくするなかで、高学歴の方々をたくさん見てきました。しかし、彼らが得意だった学問を活かす場所は、社会や会社ではそんなに多くないんですよね。仕事ができる・できないは、学歴に関係ないということを実感したんです。
一方で、先生や親の期待に応えようと勉強をがんばった結果、消耗してしまって思い描いたものとは違う人生を送る生徒も、数多く存在していることも知りました。
 
そこで、子どもたちには「自分の好きな道を進んでもいいんだよ」ということを、私自身がロールモデルとなって始めたのが「群馬イノベーションアワード」です。初回は高校生からの応募者は3人だったんですが、今では約500件の応募が集まっており、盛り上がりを見せています。
 

群馬イノベーションアワード(GIA)

また、ビジネスに踏み出すハードルを下げるために「群馬イノベーションスクール」も始めました。これは、早稲田大学のビジネススクールの先生などが、毎月前橋に来て開講している無料のスクールで、毎年30人、累計300人の卒業生がいます。 群馬県は、開業率などの全国順位がかなり低かったのですが、群馬イノベーションアワードや群馬イノベーションスクールを始めてから、順位が上がってきて起業家がどんどん生まれているんです。 たとえば、群馬イノベーションスクール出身の方で、カレー屋やクラフトビールを作るために動いている人、また非常に繁盛している コーヒー店を作った人もいます。他にもパン屋を開業したり、パティスリーを始めたり、本当にたくさんのビジネスが生まれています。

日本と海外の教育スタイルの違いが仕事にも現れている

私は、起業家というのは「人と違うことを考えられる人」「アイデアを出せる人」だと思っています。しかしそういう人は、学校で優秀といわれてこなかった人が多い気がしていて。

そこが、日本の教育における問題点だと感じています。同一化からはみ出る人たちが、個性を発揮できる社会にするにはどうするべきか、ということがいま一番問われていると思うんです。 私の会社では海外のスタッフが増えているんですが、仕事を楽しもうとしている人が日本人スタッフよりも多いんですよね。さらに、仕事ができる人も海外の方のほうが多い気がしていて。 子ども時代の過ごし方を聞いてみると、勉強より遊ぶことに熱中していたらしいんです。海外では、中学生・高校生になるなかで自分の好きなことに気づき、専門性や個性を伸ばしていく教育スタイルで育っているんですよね。そのため、日本の教育も少しずつ変わらないと厳しいと体感しています。

株式会社ジンズホールディングス代表取締役CEO田中 仁氏

高校生の起業家教育には“ロールモデル”が必要

高校生のアントレプレナーシップでは何が必要なのかいうと、やはりロールモデルになる人が身近にいる、あるいは定期的に学校に来て話をしてくれるという機会があること。そして、学校内でビジネスがどういうものなのかということを教えたり、環境を作ったりすることです。
誰もが起業家になるわけではないので、生徒たち自身で「何が向いているのか」という生き方を模索するきっかけになるのが、アントレプレナー教育だと思っています。
高校生は非常に多感な時期であり、人生の進路を考える期間でもあるので、先生方の教育で子どもたちが大きく変わることを期待していきたいですね。

いま教育現場が抱えている問題点とは

パネリストのみなさま

講演の後は、教育現場に携わる先生方をお招きし「これからの時代を生き抜くために必要な教育とは」をテーマにパネルディスカッションをを開催しました。

鹿野氏:
私は過去に高校教育に携わった経験があり、本日ご登壇いただく、林先生、永田先生、田代先生の3名は現在も教育現場で活躍されている方々です。本日は先生方に教育現場の課題についてお話をお聞きしていきます。
 
まずは、林先生からお話を伺えますでしょうか?

神戸大学附属中等教育学校 数学科 教諭 林 兵馬 氏

林氏:
これからの時代を生き抜くための教育の問題点としては「アウトプット思考型の教育機会が少ない」ということが挙げられます。いままでは「ここがテストに出るから覚えましょう」という教育スタイルだったと思うんです。教師が示唆して学ばせることも大切なのですが、生徒自身が「この知識とスキルが必要なんだ」と理解してから身につけていくことが、この先重要になると考えています。また「ここで使えるから、もっと勉強しよう」というような、身につけた知識が役に立つ場面を増やしていく必要があると思います。

 鹿野氏:
――ありがとうございました。生徒にアウトプットできる機会や学習する目的を与えるということですね。続いて、永田先生お願いいたします。

大阪府立淀商業高等学校 商業科 教諭 永田 良子 氏

永田氏:
教育現場には、大きく2つの問題点があると考えています。
1つ目は「学びの場を校内にとどめようとしてしまうこと」です。
学校では、教科書どおりの授業をしてしまっていることが非常に多くて。実際に社会に出たときって結局、教科書で習ったこととは違う体験をすることが多いですよね。もちろん教科書で勉強しなければいけないと思うんですが、変化の激しい時代に適応できる人を育てていく必要があるので、教科書の内容だけを教えていると「時代についていけないのではないか」と考えてしまいます。「学校教育は学校で行うもの」という当たり前を壊して、視野を広げていくことが大切だと思いますね。
2つ目は、新しい取り組みを始めようとすると、同じ教員から理解を得にくいということです。
「生徒を外部に出すのは恥ずかしい」「基礎基本もできていないのに、発展学習はできないだろう」といった声が無限に出てくるんですよね。教員の心理的ハードルが高いことも、やりづらいと思っている点です。

 鹿野氏:
――ありがとうございます。生徒が学ぶ舞台としては、学校の中だけでは狭いということですね。
続いて田代先生、お話をお伺いできますでしょうか?

常翔学園中学校・高等学校 校長 田代 浩和 氏

田代氏:
日本の子どもたちって、読み書きなどの能力においてはすごく優秀だと思うんですが、自己肯定感については世界のなかでもダントツで低いことがわかっているんです。日本財団が日本・中国・韓国・アメリカ・インド・イギリスの6ヵ国の生徒を対象に行った調査によると、たとえば「多少のリスクが伴っていても、新しいことにたくさん挑戦したい」という質問では、トップのインドは約90%が、はい。と回答していますが、日本はなんと約50%と低い数値が出ています。このように、子どもたちの自己肯定感が低いことや、将来の夢がないことをなんとかしたいと思っています。ほかにも、英語を用いたコミュニケーション能力や論理的なディベート力も育っていないため、これらの問題に対処できる仕組みや教育を考える必要はありそうです。

アントレプレナーシップ教育には“自主性”と“お手本”が必要

鹿野氏:
――ありがとうございました。挙げていただいた問題点に対して、いま行っている具体的な取り組みを先生方にお話いただきます。では、林先生からお願いできますでしょうか?

林氏:
中学・高校でデータサイエンス教育を進めたり、課題研修を推進したりなどの取り組みを行っています。
アントレプレナーシップ教育=急激な社会の変容に新たな価値を生み出していく精神、だと私は考えており、生徒だけでなく教員も姿勢を見せることが重要だと思うのです。
そのため、たとえば私自身も、中学生・高校生データサイエンスコンテストを企画するなどして、生徒たちに少しでもアントレプレナーシップを持って欲しいと思い、がんばって活動しております。

田代氏:
私が校長を務めている常翔学園という高校では、キャリア教育に力を入れています。「ガリレオプラン」という科学探求の授業を行うグループと、キャリア教育をするグループの2つに分かれるんですね。
ガリレオプランでは1年生で科学探求の基礎を学び、2年生で物理や科学、情報などの8つのゼミに分かれて、自分が研究したいテーマでグループを作ります。そのグループで好きな研究テーマを1年間研究したあと、3年生で論文を書くんです。最近では、書いた論文を使って国公立受験の推薦入試を受ける子が増えたという結果も出ています。
またキャリア教育では1年生で企業探求を行い、2年生になると大阪市旭区と連携して行政問題を考えるプログラムをしたり、大学の教授に授業をしてもらったりしています。
ほかにも、生徒に自分の将来を考えてもらうために「キャリアセミナー」を開催。たとえば、時計ブランドのG-SHOCK(ジーショック)をつくった方や、富士通で指紋認証を開発された方など、ロールモデルになるような方々に講演をしてもらい、生徒が刺激される機会を作っています。
常翔学園では生徒が自分の興味を追求して、自分の人生を考えられるような取り組みを行っています。

鹿野氏:
――ありがとうございました。3名のお話から共通点としては「挑戦する機会を作る」「失敗を許容すること」「外部の人と触れ合っていくということ」の3点が大切だとわかりました。
ぜひ教職員の方々は生徒の背中を押してあげて、一緒にチャレンジしていく姿勢を見せてあげてください。
本日はご登壇いただきありがとうございます。

 登壇者・パネリストのご紹介


田中 仁 氏(Hitoshi Tanaka)
株式会社ジンズホールディングス代表取締役CEO 一般財団法人田中仁財団代表理事 1963年群馬県生まれ 1988年有限会社ジェイアイエヌ(現:株式会社ジンズホールディングス)を設立し、2001年アイウエア事業「JINS」を開始。 2013年東京証券取引所第一部に上場(2022年4月から東京証券取引所プライム市場)。 2014年群馬県の地域活性化支援のため「田中仁財団」を設立し、起業家支援プロジェクト「群馬イノベーションアワード」
「群馬イノベーションスクール」を開始。現在は前橋市中心街の活性化にも携わる。


鹿野 利春 氏(Toshiharu Kano)
一般社団法人 デジタル人材共創連盟代表理事/京都精華大学メディア表現学部教授 石川県の公立高校教員(理科・情報)、教育委員会を経て、情報科担当教科調査官として文部科学省で学習指導要領改訂など教育施策に携わる。現在は、(一社)デジタル人材共創連盟代表理事、京都精華大学メディア表現学部教授として中高生のデジタル活動支援、教員研修、教員養成、高校情報科教科書・教材作成などに携わる。2023年度は文部科学省で、視学委員(STEAM教育)、情報活用能力調査委員、学校DX戦略アドバイザーを担当。


田代 浩和 氏(Hirokazu Tashiro)
常翔学園中学校・高等学校 校長 同志社大学文学部英文学科を卒業後、大阪工業大学高等学校(当時)英語科教諭に。 2000年に進路指導部長に就き、高校3年間のキャリア教育プログラム「常翔キャリアアップ・チャレンジ」を構築し、 キャリア教育を常翔学園の教育の中心にすえた。その後教育イノベーションセンターを立ち上げ、1人1台のiPadによるICT教育、科学探究授業ガリレオプラン、グローバル教育などを推進。教頭を経て2022年4月から同校校長に就任。学校の将来像を「進学校」から「教育先進校」へと変え、生徒が主体となる教育を推進。また、英語教育、キャリア教育、メタバース等で幅広く他校の先生方と交流し、関西や日本の教育に貢献している。
永田 良子 氏(Ryoko Nagata)
大阪府立淀商業高等学校/教諭/商業科 10年前から高等学校でアントレプレナー教育を実践している大阪府立淀商業高等学校・商業科の教諭。淀商業高等学校では「アントレプレナーチャレンジ」という授業を開講し、授業の中で「淀翔モール」という地域に愛される販売実習イベントを実施しており、2年間に渡り淀商モール長を務めています。
林 兵馬 氏(Hayashi Hyoma)
神戸大学附属中等教育学校 数学科 教諭 / 神戸大学数理・データサイエンスセンター 客員研究員 大阪大学情報科学研究科修士課程を修了後,公立高校に4年勤務。 2017年4月神戸大学附属中等教育学校に赴任、現在に至る。 勤務校では、数学教育、データサイエンス教育、生徒の課題探究を推進。2020年4月より神戸大学数理・データサイエンスセンター客員研究員を務め、データサイエンスにおける高大連携を担当。 神戸大学数理・データサイエンスセンター主催中学生・高校生データサイエンスコンテスト、高等学校教員向け統計研修会などを企画。2021年指導した生徒がISLP国際統計ポスターコンテストで1stPrizeを受賞。2022年078KOBE EDUイベントに登壇。2022年日本統計学会統計教育賞を受賞。


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