地球外少年少女の感想

個人的に本当に好きなアニメです。どのアニメよりも没入感がすごい。攻殻機動隊・進撃の巨人と並んで数少ない「何度も見直すアニメ」のひとつですね。現時点での感想を書いておこうと思います。

アニメ内で出てくる用語
・CME = 太陽フレアの親戚。通信障害起こすやつ。
・EMP = 主に核爆発による電磁波
・ラグランジュ点 = 2つの天体から見て3つ目の天体(2つに比べて質量が無視できるほど小さい)が安定して滞在できる座標。
・アポロの三段目 = アポロ12号から切り離され宇宙に廃棄された部分。地球軌道に乗せるはずが何らかの誤差で軌道を外れてどっか行った。多分。知らんけど。
・フレーム = AI 及び人間を形成する情報範囲


ちなみに私は電脳コイルを通過していない新参者なので悪しからず。
(地球外少年少女の公式資料設定集も読んでない)


ルナティックについて

作中でルナティックについての詳細は語られないので、「AIの知能が制御できなくなって大変になったんだな」くらいのイメージでした。知能崩壊とも言われていましたね。
でも、知能崩壊って何でしょう? 知能の発達は指数関数的であったとしても地続きです。AIの知能が制御できないってどういうことでしょう? この時代では既にAIはブラックボックスなはずです。でなければセブンポエムが解読できないなんて事にはなりません。
事実として存在するのは「ある時期からsevenが設計したシステムが不具合を起こすようになり、その結果として死傷者も出た」ということだけです。ルナティックも知能崩壊も、後々人間が勝手に名前を付けて安心しようとしただけでしょう。
ではルナティックとは一体何だったのか。私は「seven が人間の未来のために自決を決めた瞬間のこと」だと思います。そう考えるとシステムの不具合も恣意的な気がしてきますね。


ナサについて

大好きなキャラクターです。悪役として見られがちですが、「今地球の3分の1を消さないと地球環境が破綻して全員が死ぬ」という発言からもわかるように、ナサは本気で世界を救おうとしています。ナサ目線、初代 seven を信じているので
「地球環境が破綻すれば全人類がいずれ死滅する」
「防ぐには地球の人口を3分の1減らさないといけない」
「ルナティック前のセブンは地球外移住を勧めたが結局実現しなかった」
「地球外に移住させるという選択肢は今となってはもう手遅れ」
「人類を救う道は人類の3分の1の殺処分しか残されておらず、今を逃すと地球環境の破綻は避けられない」
という前提を持っています。個人的にすごくわかる論理だし、一定の正しさを持っていると思います。反対する人がいたら代案を出せ、と言いたい。

この八方ふさがり感ですが、進撃の巨人と似ているなぁと思いました。進撃の世界では
「もう少し技術が発展すれば航空戦闘機が開発され、地の悪魔である巨人は急激に優位性を失う」
「そうなれば脅威でなくなったエルディア人の大量虐殺が始まる」
「パラディ島とその他勢力の人口比は 1:9 である」
などの前提があって、ジークは全人類の1割を安楽死させることで、エレンは全人類の8割を殺し勢力を均衡させることで、それぞれ平和な世界を実現しようとしました。

そう考えるとナサはエレンよりまだ良心的ですよね。

それとナサは内之浦のプリンター機と戦った際、アクティブブレーキ(あんしんの軸回転を止めるやつ。緊急時は自動的にこれが作動して無重力状態を作り避難しやすくする役割がある)を作動させていました。なのでナサはアクティブブレーキの制御ができるし、スマートの知能リミッターを外しているので1人だけ激強ハッカーである、という点は押さえておくと前半シーンの解釈の幅が広がって面白いです。非常事態時に作動するはずのアクティブブレーキが作動してなかったりしましたからね。

吐血シーンについては解釈が分かれるところですが、「ナサは月生まれの子でインプラントが入っているが、知能リミッターのないAIを用いて何とか生きながらえてきた。でもそれも限界が近づいてきた」と考えると面白くていいですよね。

でナサの宇宙への身投げに関して。ナサは誰か1人が死ぬことをセブンポエムによって知っていたし、衛生士だから自分の容態と心葉の容態が悪いことは誰よりもわかっていたはずです。だから症状の重い心葉が死ぬことに、どこかで勘付いていたと思います。ですがナサは未来のことがある程度見えているので、ある種の諦観と傍観から心葉の運命に対して何かしらの能動的アクションを起こすことは無かった。タイムラインが乱れるから起こさないつもりだった。
でも、心葉との会話でナサは何かに気が付きます↓
心葉「(セブンは)自分の死も世界の終りも全部見えてて、それでも人間のために未来を見続けたんだよね。きっと何もかもが澄み切った水みたいに、きれいに見通せて。曇りのない気持ちで死んだんだと思う。そう思うと私も、死ぬのが怖くなくなる。」

ナサは心葉の言葉に勇気をもらって、Fitszに懸けて自分から死のうと思えたんじゃないでしょうか。自分がたとえ生き延びてもそう長くない命であることも、背中を押したかもしれません。とはいえ自分が死んでも心葉が助かるとは限らないのに、Fitszに懸けて心葉のために自死を選べる覚悟。本当にすごい人です。子供嫌いとか嘘じゃんかもう

ちなみに心葉はsevenと接続してすべて理解した後に「私、、、死にたくない」と言っています。上記発言との対比です。熱いシーンですね。


インプラントにかかった暗号について

インプラントは初代sevenによって開発されましたが、これには暗号がかかっていてルナティックしたダークブライトやsecond sevenでも解除できませんでした。なんででしょうね。
ちょっと脱線しますが、人間が発明したものは自然界を参考にしたものが多いです。マジックテープとか注射器とかハニカム構造とか。というか化学は自然の後追いなので当たり前といえば当たり前ですね。
それでAIに関してですが、生き物の最大の発明ともいわれる「死」を模倣するようになったと考えると面白くないですか? AIには死も細胞レベルの死である新陳代謝もありませんから。
「種として継続的に成長するために新陳代謝や死は不可欠である」と、もしそのような結論が出ていた場合、初代 seven がインプラント解除のきっかけを second seven の死に隠していても何ら不思議じゃないですよね。はぁ~夢があるなぁ


地球外少年少女の皆様へ

このメールをハカセが解読するシーンがありましたが、そのときの画像からリンナハルに呼ばれたのはどうやら7人であろうと推察できます。
登矢と心葉、ミーナとハカセ、大洋の5人のほかに2人。
1人はナサかな? でもナサは死んでるし、、、

そういえば月面出産の15人の子供のうち、10人は月面の低重力の影響で亡くなりましたが、残りの5人は脳にインプラントを埋め込むことで延命に成功しています。登矢は最後の月生まれの子なので、心葉を含めた他の月生まれの子たちは登矢より年上。もしナサが月生まれの子であった場合、月生まれの5人は登矢・心葉・ナサ、そして明かされていない2人になります。メールが送られたのはこの2人かもしれないですね。

そんで注意しておきたい描写として、リンナハルについた5人を映している場面で「ばんっ」と車の扉が閉まる音が聞こえ、車が走り去っていくシーンがあります。そしてちらりと映るナサのスマート。その後のハカセの「どうやら1人足りないみたいですね」という発言。
難解すぎる。車には誰が乗っていたのか。誰も乗っていなかったのか。その場に5人しかいないはずなのに「1人足りない」とはどういうことか。
でもナサのスマートに関しては「知能リミッターをかけていない」発言があったことから、あのスマート内でダッキーとかが生き延びてるんじゃないかなと思います。ナサが生きているという仮説より現実的な気がする。要するにダークブライトが言っていた「予期せぬ未来で会いましょう」とはリンナハルでの集合のことを指し、そのメールはダークブライト(third seven)から送られたのではないか、と。
そして最後にsevenの声が聞こえる描写がありました。これはインプラントを介さずに人間の脳に直接信号を送る技術をsevenが開発したと考えるのが妥当でしょう。実際ドローンで参戦していたハカセだけ声が聞こえた描写がなかったですから。
なぜ集合がリンナハルだったのかは読み取れませんでした。まだ味がするぞこのアニメ。

でも、わからん部分が多い作品はいい作品だと思います。エンターテインメントとして一過性でなくなるのは良いことなんじゃないかと。


フレームについて

私が地球外少年少女のなかでトップレベルに好きなのが、フレームという概念です。私の解釈ではフレーム = AI 及び人間を形成する情報範囲のこと。話が変わりますがわたくし、かなり心に残っているさかなクンの文章がありまして ↓

中一の時、吹奏楽部で一緒だった友人に、誰も口を利かなくなった時がありました。威張っていた先輩が3年になった途端、無視されたこともありました。突然のことで、訳はわかりませんでした。
でも、魚の世界と似ていました。たとえばメジナは海の中で仲良く群れて泳いでいます。狭い水槽に一緒に入れたら、1匹を仲間外れにして攻撃し始めたのです。怪我して可哀そうで、その魚を別の水槽に入れました。すると残ったメジナは別の1匹をいじめ始めました。助け出しても、また次のいじめられっ子が出てきます。いじめっ子を水槽から出しても新たないじめっ子が現れます。
広い海の中ならこんなことはないのに、小さな世界に閉じ込めると、なぜかいじめが始まるのです。同じ場所に住み、同じえさを食べる、同じ種類同士です。
中学時代のいじめも、小さな部活動でおきました。ぼくは、いじめる子たちに「なんで?」と聞けませんでした。でも仲間外れにされたこと、よく魚釣りに行きました。学校から離れて、海岸で一緒に糸を垂れているだけで、その子はほっとした表情になっていました。話を聞いてあげたり、励ましたりできなかったけれど、誰か隣にいるだけで安心できたのかもしれません。
僕は変わりものですが、大自然の中、魚に夢中になっていたら嫌なことも忘れます。大切な友達ができる時期、小さなかごの中で誰かをいじめたり、悩んでいたりしても楽しい思い出は残りません。外には楽しいことがたくさんあるのにもったいないですよ。広い空の下、広い海へ出てみましょう。

朝日新聞2006年12月2日掲載

それに加えて、フィルターバブルも好きな言葉です ↓

「フィルターバブル」とは、アルゴリズムがネット利用者個人の検索履歴やクリック履歴を分析し学習することで、個々のユーザーにとっては望むと望まざるとにかかわらず見たい情報が優先的に表示され、利用者の観点に合わない情報からは隔離され、自身の考え方や価値観の「バブル(泡)」の中に孤立するという情報環境を指す。

総務省 白書 第1部 第4節 (1)インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの


自分のフレームが広がる生き方をしたいものですね。地球外少年少女、ワクワクが止まらない素敵なアニメでした!


デンデケデンデケデンデケデンデケ ミハユパェフォー

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