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開拓者たち

 波佐見に住んでいる私に限らず、焼きものと言ったら一般的に器のことを指すだろう。10年ほど前だろうか。私は「トーキマン」という自分で焼き上げた陶製の鎧を纏ったスーパーヒーローに出会った。
 

トーキマンの正体は及川みのる。当時、東京芸術大学大学院で陶芸を学ぶ学生だった。この人の生き方はおもしろい!と、異色の作品を見た私は、興味が尽きなかった。


 そして今。


 茨城に身を置く彼が生み出す作品は、親しみ深いが妙だ。土着の妖精のような、はてまた生き別れの妹のような。不死身のような、はてまた今にも永眠するような、不可解で安らかな表情をまとう「人に似た何か」だからだ。
 

九死に一生を得なくても、生きててよかったとホッとする瞬間を得たいが為に、彼は孤独へ立ち向かう。一度手から離れ窯へ委ねる「陶」を素材に使うのも、個とは真逆の大きな流れにお伺いを立てる儀式が必要だからかもしれない。
 

芸術家というのは、生き方に対しての呼称なのだと思う。          「生きる」こととは何なのか、真摯にひもとく姿勢はまさに、重く割れやすい陶製の鎧を着けた「トーキマン」だ。

スズキジュンコ (現代美術家)

2011年1月16日 長崎新聞(アートの未来 開拓者たちより)

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