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「由井 薩埵嶺」−広重のテンション0・100法–『東海道五十三次』

卒論の関係で秋に関西の方に行く必要が出てきました。
卒論のための調査がメインなので一人旅になるわけですが、これまで中部以西へ行ったことがないので非常に楽しみです。
ご飯が楽しみなのはもちろん、向こうで限定的に開催している展示会に行くこともできるなと想像しています。

それまでにお金を貯めないといけないのでバイトのお昼休憩も家で作るおにぎりとバナナ生活です、、。

そんな節約必須な今日も広重。今回は『東海道五十三次』「由井 薩埵嶺」です。

◼️ファーストインプレッション

こちらでは富士山が描かれていますね。
前回の蒲原では富士山が描かれない雪景色だったので富士山が見られない位置にあるのかと思っていましたが、まだまだしっかり見られるようですね。
左側の崖から覗くように白い富士山がくっきり描かれています。
蒲原から季節感はそのまま冬なのでしょう、木々も絶妙に枯れていますね。

画面左上に向かって崖や富士山、手前の崖の松が伸びていて、見応えのある一枚です。
これもまた画面の対角線を区切る斜め構造かもしれませんね。

左の崖に3人の人間が描かれていますね。
上の人はこちらを少し見ているかのような色味。
その下の人は下に俯いています。
もう一人下の人は手を上げて何かに祈っているようにも見えます。崖の先にある日本の松が信仰の対象であったとか?
3人がいる崖のような場所は道はきっとここまでで、その先に落ちたらさよならになってしまうような危険な場所なのかもしれません。
修験道のような修行僧たちでしょうか?

今日はここの場所と3人の正体を見ていきたいと思います。

◼️薩埵嶺

薩埵嶺(さったれい)は初めて聞きました。

名前からして霊験あらたかな印象を受けますね。

赤ピンが薩埵嶺の絵が描かれたところに当たるみたいです。
嶺というと、山の頂のことを指すみたいなので山頂はこの辺り?
そのもう少し南に行った海岸沿いに薩埵峠があります。峠だから海岸なのは納得ですが、結構範囲が広いのですね。

前回の蒲原からの距離感もよくわかります。

静岡県静岡市清水区 (しみずく) 由比 (ゆい) 地区と清水区興津 (おきつ) 地区との間にある峠。薩埵山(244メートル)の山地が急傾斜で駿河 (するが) 湾に面する岫崎 (くきがさき) とよばれる地点を越える峠で、東海道の難所であるとともに名勝地でもあった。ここを通過するルートは、上道、中道、下道などとよばれ、峠道と磯道 (いそみち) との変遷があった。波打ち際を通っていた道は、明暦 (めいれき) 年間(1655~1658)の朝鮮からの使節来訪の際に峠道が整備されて移動したが、1854年(安政1)の大地震によって海岸が隆起したあとは海岸道に移っている。現在も東海道本線、国道1号、東名高速道路がほぼ並行して通過する。1568年(永禄11)の武田信玄 (しんげん) と今川氏真 (うじざね) との合戦をはじめとする古戦場としても知られる。峠名は、付近の漁師の網にかかった菩提 (ぼだい) 薩埵(菩薩)を祀 (まつ) ったことによる。由比駅から徒歩1時間。展望台や休憩所を備えたハイキングコースがつくられている。

日本大百科全書

やはりここは難所だったのですね。
しかも薩埵嶺とされていますが、この絵の場所も薩埵峠としていいそう。
確かに嶺のような山頂ではなく、峠ですもんね。


◼️杣人と旅人

ここの崖にいる3人は杣人と旅人とい二極化した人物であるらしい。
旅人は下の二人。崖のギリギリまで行って海を臨んでいます。

海と富士山の絶景を称賛し、もっと下まで、もっと広く見に行こうとしているように見えますね。

一方で一番上にいるこちらを見ているような人は杣人という人。らしい。

杣木を切り倒したり運び出したり造材したりすることを職業とする人。きこり。杣師。杣大工。そまだくみ。樵夫(しょうふ)。そまうど。そま。

日本国語大辞典
ちっちゃ、、笑

きこりということは、この近くに居を構えているということ。しかもこの道を普段から使ってるということですね。
となると、毎日のように眺めるこの景色も正直見飽きたといったところ。
しかも重い荷物を抱えて登って降ってをしないといけないのでやはり憂鬱なものなのでしょう。

この杣人と旅人のテンションの対比はわざと広重が作り上げたものだと参考書に指摘があります。
こうした旅人が称賛するだけが名勝の本来の姿ではないという観点で、非常に写実的。そして名勝を歩いているのも旅人だけではないという視点は他の絵師も描いている作品はありますが、場所の特色を第一に描きがちです。
例えば北斎『富嶽三十六景』では職人たちの生活の様子を富士山の名所とともに描く作品がいくつかありますが、それはそこに生きる人々に焦点を当てたものですね。
しかし広重は、名所に集まる人々がそこに訪れるのを楽しみに期待し、やっと訪れることができた高揚感を表現します。そこに名所で生きる日常の人々を交差させることで本来の風景を描いているのですね。

参考書に
「広重はしばしば、旅人と地元の人を対比的に描きました。同じ風景を見ても、その土地に住まう人とよそ者では、当然感じ方に差があります。」
とありました。

この文言を読んで非常に納得。
よそ者は非常に感情を揺さぶられますが、地元の人は誇りに思うというよりも、、、ですね。
例えば私が非常に魅力を感じた静岡県の三島は水が綺麗で、緑がそこに混ざって感動した記憶がありますが、地元の人からしたら「まあ、こんな大変なところもあるし、あんな不便もあるよ〜、、笑」なんて思ったりするのかななんて想像します笑。

今日は広重の風景を見る意識を見ることができた気がします。
今日はここまで!
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