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俗に眠剤と呼ばれる薬と違う働きをする睡眠薬(ロゼレム、ベルソムラ)

最近、調剤や監査を行っていると「ラメルテオン(ロゼレム錠®)」、「スボレキサント(ベルソムラ錠®)」の新規処方が増えているような感覚を感じました。

院外処方量の推移

そこで、厚生労働省が公開しているNDBオープンデータベースを用いてH26年度(第1回)からH29年度(第4回)までの院外処方量の推移をみてみることにしました。

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 ロゼレムの発売が2012年(H24年)7月、ベルソムラの発売が2014年(H26年)11月です。
 厚生労働省のデータベースがH29年度までしか現在ないためそこまでの処方量となりますが、ロゼレムに関しては発売日から間もないH26年度においてもかなりの処方量があり、その後も伸びています。
 ベルソムラに関しても、発売当初はそれほどでもありませんでしたが、その後大きな伸びをみせています。
 このグラフをみると、H30年~令和2年にかけても更に伸びていることが予想できます。

なぜ処方量の伸びが気になったのか?

 処方量が増えていることはデータからもわかりました。ではなぜ今回処方量の伸びが気になったのか?

 それは、「ラメルテオン(ロゼレム錠®)」、「スボレキサント(ベルソムラ錠®)」は代謝にCYPが関与しているのにも関わらず、お薬手帳などで併用薬の確認をしていると比較的併用注意に該当する薬が含まれていることが多いためです(自分だけの感覚かもしれませんが)。

 これが何故起こるかは不明ですが、新規機序の薬剤であること、従来のベンゾジアゼピン系とは違い「眠剤」という概念が薄いなどが挙げられるのかもしれません。
 そこで、あらためて薬を振り返るという意味でも、大雑把な作用の概要と注意点に加えて、薬物相互作用について考えてみたいと思います。

ロゼレムの作用

 「メラトニン」は、体内時計を調節するホルモンで松果体から分泌されるホルモンですが、昼間は非常に少なく夜間に多く、睡眠はこの夜間の内因性メラトニン分泌の増加と関連しています
 「ラメルテオン(ロゼレム錠®)」は、メラトニンが作用するメラトニン受容体を刺激して自然な眠りを誘います(MT1受容体:睡眠を誘発、MT2受容体:睡眠-覚醒リズムなどの概日リズムを調整)
 夜型の生活などで睡眠リズムがくるい夜間のメラトニンが上手く分泌されなくなっている人に有効です。

<用量に関連する使用上の注意>の項目で、効果発現時期に関すること、食事の影響に関することが書かれています。
・本剤の投与開始2週間後を目処に入眠困難に対する有効性を評価する
・食後の服用では空腹時に比べて血中濃度が低下することがある

効果については、以下の文献の中でも触れられていて
日薬理誌,131,16~21(2008)

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1週間あたりから有意差をもって睡眠状態を改善していることがわかります。頓服で服用して効果があるというよりも、定期的に服用してはじめて効果がある薬という感じです。

ベルソムラの作用

 「オレキシン」は、起きている状態を保ち、安定化させる(覚醒を維持する)脳内の物質です。 オレキシン受容体拮抗薬である「スボレキサント(ベルソムラ錠®)は、その「オレキシン」の働きを弱めることによって眠りを促す働きをしています。

 従来の眠剤は、脳の興奮を抑える神経伝達物質(GABA)の働きを促すことによって作用しますが、この薬は覚醒の方を抑えることで作用します。
 そう考えると、両者の併用によって、相乗効果が得られそうな雰囲気はありますね。(注意:他の不眠症治療薬と併用したときの有効性及び安全性は
確立されていない。と添付文書には記載があります)

無題

              覚醒時のイメージ

<用量に関連する使用上の注意>の項目で、服用のタイミングに関すること、食事の影響に関すること、相互作用に関することが書かれています。
・就寝の直前に服用すること
・入眠効果の発現が遅れるおそれがあるため、食後の服用は避けること
・CYP3Aを阻害する薬剤との併用により、スボレキサントの血中濃度が上昇し、傾眠、疲労、入眠時麻痺、睡眠時随伴症、夢遊症等の副作用が増強されるおそれがある

 やはり注意書きにも出てくるくらいスボレキサント(ベルソムラ®)に関しては特に飲み合わせに注意が必要そうです。

相互作用(のみあわせ)について

ここからは、スボレキサント(ベルソムラ®)の代謝に関与している「CYP3A」について考えていきたいと思います。

CYP3Aで代謝を受ける薬剤が注意すべき薬は、”代謝を阻害する薬”または”代謝を誘導する薬”の2つに分けられます。

今回は併用禁忌にも該当する”代謝を阻害する薬”についてみていきます。

「医薬品開発と適正な情報提供のための薬物相互作用ガイドライン」(平成26年7月8日厚生労働省医薬食品局審査管理課 事務連絡より」 CYP3A部分を抜粋してみると

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 スボレキサントと併用する場合、強い阻害薬併用禁忌中等度の阻害薬は、スボレキサントを10mgに減量して使用を考慮(併用注意)、弱い阻害薬は併用しても問題ないとされています。

 特に抗菌薬などは臨時薬としても処方されやすい薬なので注意が必要ですね。

併用禁忌を未然に防いだ1例(プレアボイド)

他病院内科にてピロリ菌陽性となり、ラベキュア800が処方された。同日に定期薬をもらうために当薬局を受診した。定期薬には、ベルソムラ錠20mgが含まれていた。

Rp1 ベルソムラ錠20mg 1錠
     1日1回 就寝直前
Rp2 ラベキュア800 1シート 
    (ラベプラゾール、アモキシシリン、クラリスロマイシン)
     1日2回 朝夕食後

医師からは特に指示を受けていなかったため、医師に併用禁忌であることを伝えラベキュア800服用中はベルソムラ錠の服用を中止することとなった。

ここでのPointは!

1)AUCが5倍以上となる報告があるため、併用禁忌となっていること

2)クラリスロマイシンは代謝依存的な阻害(MBI:mechanism-based inhibition)薬物と呼ばれ、阻害作用が不可逆的であるため、阻害薬が体内から消失した後も持続的に阻害効果が認められること

の2点があげられる。
特に、2つ目は忘れられがちですが、阻害作用の強い薬剤では軽視できない内容となってきます。

TDM研究 ,Vol.30, No.1,p16-17,2013の中の「クラリスロマイシンによるCYP3A活性の阻害と阻害からの回復」の部分で以下の2つの内容が記載されています。

健常成人男性 2 名、女性 1 名を対象とし、クラリスロマイシン200 mgを1日2回(10:00、22:00)、5 日間経口服用し、CYP3A活性を服用開始前日、服用期間中、服用終了後に評価しました。男性被験者のCLm(6β)は、服用前日(2.49±0.37 mL/min)と比較して、服用期間中の平均値は1.99±0.35 mL/minであり、服用前からの低下率は約20%でした。服用終了 2 日目には服用前の値に戻り、その後はやや高めの値となりました。一方、女性被験者の服用前日のCLm(6β)は1.23±0.31 mL/minであり、この値は、この被験者が以前に実施した、40日間のCLm(6β)値よりもかなり低い値でありました。服用中の平均値は1.87±0.54 mL/minであり、服用前の値を基準とすると、ほとんど阻害を受けていません。
もう一人の健常成人男性 1 名のクラリスロマイシンを服用時のCYP3A活性は、3.47 mL/min(服用前)から、服用により1.46 mL/minとなり、約60%の低下が認められました(Fig. 2 )1)。この低下率が、上述の 2 名の被験者と比較して大きかったのは、CYP3A活性が高い被験者ではニトロソアル
カン複合体を形成する中間代謝物が多く生成し、阻害効果(mechanism-based inhibition)を受けやすいためといえます。しかし、CYP3A活性が低い被験者では、CYP3Aによる代謝中間体の生成が少なく、不可逆的阻害の程度が低かったと考えられます。また、阻害からの回復には、阻害の大きさに依存して個人差があり、2~5 日程度を要するものと考えられました。

この2つから言えることは、ベルソムラ錠の再開は、クラリスロマイシン服用終了直後ではなく、中止後2~5日後からの再開が望ましいということです。

さいごに

これからも、ベンゾジアゼピン系薬剤の併用などでさらに処方頻度は増えていく可能性はありますが、代謝酵素による相互作用があるということを念頭において調剤、処方監査を実施していただければ幸いです。

さいごまでお読みいただきありがとうございました<(_ _)>


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