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カリウムのくすり

 カリウム(K)の異常には、カリウムが高くなる「高K血症」とカリウムが低くなる「低K血症」がありますが、今回は「高K血症」に関連した話になります。

 高K血症をきたす原因としては、腎臓に起因するものとそうでないものがありますが、今回は主に腎臓からのK排泄低下に伴う高K血症に用いられる薬についてみていきたいと思います。


高カリウム血症の治療

 心電図異常や臨床症状のある・なしによってその治療薬の選択は異なってきます。

【参考資料:調剤と情報,臨時増刊号,Vol.21,No.10,p.1353,2015】


<心電図異常や臨床症状なし>
・K摂取制限
・イオン交換樹脂製剤内服
・炭酸水素ナトリウム内服(アシドーシスがある場合)


<心電図異常や臨床症状あり>
・イオン交換樹脂注腸(主にケイキサレート®使用)
・グルコース・インスリン(GI)療法【ブドウ糖+速攻型インスリン】
ほか、グルコン酸カルシウム静注、炭酸水素Na静注、ループ利尿薬静注

 これらの内、今回はイオン交換樹脂製剤についてのお話です。

新規有効成分の高K血症治療薬

 そもそもなぜ高K血症について書こうと思ったのか?それは、高K血症改善薬『ロケルマ懸濁用分包5g・10g』(成分名:ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)が発売されたからです。

2020年5月20日薬価収載の新医薬品

 使用方法としては、ローディングドーズ(負荷投与量)があるような使い方となっており、


非透析患者
 1~2日もしくは3日 10g×3、その後維持量 5g×1 最大15g
透析患者
 5g×1 非透析日、 最大15g
※45mLの水に懸濁して服用する。

 非透析患者への使用方法は、K値に応じて又は他剤からの変更などで、維持量(5g×1)からの開始も可能だという話も聞いています(ローディングドーズは必須ではないかもしれない)。
 また、低K血症などが懸念される場合には、隔日投与などの選択肢もあると思うので、使用方法によっては活用の幅が広がりそうです。

 水に懸濁して用いる時点で、飲み方が煩雑な気もしますが、1日1回の服用方法はアドヒアランスを考えるといいですね。粉のまま水で服用したらどんな感じなんでしょうか(基本は無味無臭のはず)。

製剤見本 味見です。

まず今回は袋の開け方が独特すぎて開けれませんでした。ここはしっかりメーカーさんに開け方を聞きたいところです。

粉を開けると結構な量でした。粉は手に取るとサラサラしていて片栗粉のようでした。

粉のまま飲めたら便利だなと思いましたが、粉がパフパフしすぎてこの量をそのまま飲むのは難しそうです。袋オブラートなら包めるくらいかな?

溶かすとまさに懸濁液です。服用するとやはりザラザラ感は感じます。

オブラートがベストかな。

※2021年10月現在
袋の開封方法が若干改善されていました。

いいですね😊

「製品情報概要」で宣伝されているロケルマの特徴
1.カリウム選択性
2.効果の発現(投与後24時間で63.3%、48時間で89.1%が正常化)
3.効果の持続(維持量5mgで4.8mmol/L,10mgで4.4mmmol/L)
4.透析患者への有効性
5.安全性

薬 価

 ネット上をみていると、” 薬価が高い ”というワードがよくでてくるので、他の薬と比較してみると(当薬局在庫医薬品のみ掲載)

 これ確かにどう考えても高いですね。維持量最低用量でも倍以上の価格差がついてしまっています。
 他の高カリウム血症治療薬無効の場合のセカンドラインの治療と考えればそれなりに適正な価格としてもとらえることができるのかもしれません。

 それではK値を低下させる効果としてはどうなのでしょうか?

K低下作用

 陽イオン交換樹脂には、Na型のポリスチレンスルホン酸ナトリウム(ケイキサレート®)とCa型のポリスチレンスルホン酸カルシウム(カリメート®、アーガメイト®)の2種類がありました。これに今回新たに、非ポリマー無機陽イオン交換化合物(ロケルマ®)が加わっています。

 陽イオン交換樹脂製剤のメカニズムは、消化管でKイオン等の陽イオンと結合し、糞便として排泄されることで血清K値を低下させます。

樹脂の各種陽イオンとの親和性については、
Ca > Cu > Zn > Mg > K > Na
となっており、理論上はCa型のものより、Na型の方がKイオンとの交換能に優れていると考えられています。(NaはKよりも親和性が低いので交換しやすい)

“第4章  イオン交換平衡とイオン交換速度”イオン交換樹脂-基礎と応用-東京, 金原出版, 44-72, 1962 

カリウム交換容量

◇ポリスチレンスルホン酸Na(ケイキサレート®):
 1gあたり 2.81~3.45mEq(in vitro)
 1gあたり 1mEq(生体内)

◇ポリスチレンスルホン酸Ca(カリメート®、アーガメイト®):
 1gあたり 1.36~1.82mEq(in vitro)

上記内容はインタビューフォームより抜粋

Characterization of Structure and Function of ZS-9, a K+ Selective Ion Trap,PLoS One,9(12),2014(PMID:25531770)

ZS-9:ジルコニウムシクロケイ酸Na

SPS:ポリスチレンスルホン酸Na

 ジルコニウムシクロケイ酸Na(ロケルマ)のインタビューフォームにはK交換容量の記載はありませんでしたが、ポリスチレンスルホン酸Naとの比較では高いK交換容量を示しており、Caイオン、Mgイオン、Kイオンが入った溶液での交換能の比較でもK選択性が高いことがわかります。

副作用 

各薬剤のインタビューフォームの主な副作用の項目で比較すると以下のようになっています。

 Naタイプ(ケイキサレート®、ロケルマ®)には交換イオンとしてNaが含まれているため、浮腫や血圧上昇といった副作用が目立ちます。


【Na含量】
ケイキサレート:1gあたり100mg(4.4mEq)
 ⇒1日量15~30g中 1.5~3g
ロケルマ:1gあたり80mg(3.5mEq)
 ⇒1日量5~15g中 0.4g~1.2g

1日量でみると結構な量のNaが含まれていることがわかります。

便秘の副作用については、ロケルマはその構造的に少ないと言われています。

カリウム値はその変動により自覚症状がわかりにくいものではありますが、低カリウム血症の症状については確認しておく必要があると思います(主な症状としてはだるさ)。

低カリウム血症:
手足のだるさ、脱力感、筋肉のこわばり、呼吸のしにくさ、夜間排尿

文献検索

Pubmedで「Sodium zirconium cyclosilicate」で検索してヒットしてくるのはわずか7件(2015年~2019年、臨床試験4件、レビュー3件)。

そのうち気になるものがあったので少し載せておきます。

Systematic Review and Meta-Analysis of Patiromer and Sodium Zirconium Cyclosilicate: A New Armamentarium for the Treatment of Hyperkalemia,Pharmacotherapy,37(4):401-411,2017(PMID: 28122118

パチロマーとジルコニウムシクロケイ酸Naの系統的レビューとメタ分析

アブストラクトをみると、8研究(2つの第II相臨床試験と4つの第III相臨床試験、2つのサブグループ解析)を質的解析に、6研究(2つの第II相臨床試験と4つの第III相臨床試験)をメタ解析に用いたと記載されています。

パチロマー
4週間後のカリウム値:-0.70mEq/L(95%信頼区間[CI]-0.48~-0.91mEq/L)投与3日目のカリウムの変化:-0.36 mEq/L(標準偏差0.07~0.30の範囲)
ジルコニウムシクロケイ酸Na
48時間後のカリウム変化:-0.67 mEq/L(95%CI -0.45~-0.89 mEq/L)
投与1時間後までのカリウム変化:-0.17mEq/L(95%CI -0.05~-0.30)

ジルコニウムシクロケイ酸Naは、ローディングドーズとしての2日間10mg 1日3回の用法を含んでいることが短期間でのカリウム変化につながっていると思います。
どちらの薬剤も最終的にK値をよく低下させています。

副作用の報告の部分では、ジルコニウムシクロケイ酸Na(ZS-9)の低K血症や浮腫の報告が思いのほか少ないのが気になりますが、パチロマーの副作用は多めだなという印象もあります。

Patiromerは、下の記事にあるようにゼリア新薬が日本での開発を目論んでいる「ナトリウムを含まない陽イオン結合非吸着性ポリマー」です。

現在臨床試験がすすんでいるのかはわかりませんが、「iyakuserch」で検索すると

2019年10月に登録された
ZG-801 第II相試験 - 高カリウム血症患者を対象とした有効性及び安全性の探索的な検討及び 長期安全性試験 -
の第Ⅱ相試験の概要がヒットし、2021年2月に終了しています。結果は投稿されていなかったので不明ですが、今後期待される薬剤の一つです。

さいごに

 高いK値を下げるための薬は勿論大切ですが、薬に頼らずK値を下げることが本当は一番良いと思っています
 薬局で高カリウム血症治療薬が処方されている人に、管理栄養士さんが食事内容の聞き取りを行い、Kを多く含む食品の話とその摂取方法についての説明をする(介入する)だけでも、次回来局時に高カリウム血症治療薬の減量が可能だったという患者さんを多くみます。

 まずは食事内容の見直しが大切ですね。

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