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高温・多湿に弱い生菌

 およそ10年以上前、2009年1月の日経DIクイズに掲載されたある記事から騒動がはじまりました。

 内容は、「ラックビー微粒Nは分包や他剤との混合で生菌数が減少するため、混合調剤に適さない」というものでした。

 ちょうど病院薬剤師から保険薬局薬剤師へ転身した時期でしたが、そんな話をその時まで意識したことがなかったので、ただただびっくりしました。そして、転職先の保険薬局でも、「酸化マグネシウム+ラックビー微粒N」「酸化マグネシウム+ラックビー微粒N+ベリチーム顆粒」といった混合処方を多く目にしていたので、そこから対策がはじまりました。

 まずは患者さんに、混合により生菌数が減る可能性があるということを説明し、別包をお願いしていきました。どうしてもかなりアドヒアランスが悪く別包だと確実に飲み忘れるという高齢の方には、乾燥剤を添付して保管方法など説明(空き缶に入れて保管密閉袋に入れて保管など)しお渡しすることもありました。

一包化調剤後の酸化マグネシウム錠の保管に対する乾燥剤の有無が安定性に与える影響,YAKUGAKU ZASSHI,Vol.138,No.11,2018
 乾燥剤を入れたチャック付ポリ薬袋(保管法 1)と乾燥剤を入れないチャック付ポリ薬袋(保管法 2)にそれぞれ入れ一包化した酸化マグネシウムの錠剤を入れ12週間の経過をみたものです(25℃、75%湿度)。
乾燥剤なしの(保管法 2)では酸化マグネシウム錠の硬度は低下、重量は増加、崩壊時間は全錠剤とも崩壊試験規格内であったが延長したとされており、湿度の影響を大きく受けています。このことからも乾燥剤の果たす役割は大きいと考えられます。

 なかなか大変な作業でしたが、およそ11年前に起こった記憶に残る出来事の一つです。
 これから暑い夏を迎えるにあたってあらためてこの生菌数の減少についてまとめておきたいと思います。

まずはじめに:よく処方される生菌の種類と内容

 ヒトの腸内に存在する様々な種類の菌が単独または合剤で配合された製剤で、整腸作用を促す作用があります。国内では、ビフィズス菌やラクトミン、耐性乳酸菌、酪酸菌などを有効成分とする医療用医薬品が販売されています。

 生菌製剤の働きは、悪玉菌の増殖を抑制することにあります。そのような菌は、酸性条件で増殖が抑制されるため、生菌製剤は、乳酸や酢酸、酪酸などを産生し、腸管内のpHを下げることで整腸効果を発揮します。

■ビフィズス菌
【ラックビー微粒N、ビオフェルミン錠剤】

 ビフィズス菌はヒトの腸内で最も多い菌と言われています(乳酸菌はビフィズス菌の 1/10000~1/100)。ビフィズス菌は乳酸だけでなく、酢酸を含む揮発酸も産生し腸内pHを低下させ、有害細菌が増殖し難い環境をつくるため整腸効果が高いとされています。

■ラクトミン(乳酸菌)+糖化菌
【ビオフェルミン配合散】

 糖化菌は乳酸菌と共生関係にあり、乳酸菌単独と比較して増殖速度が10倍上昇すると言われています。

■耐性乳酸菌
【ラックビーR散、ビオフェルミンR散】

 抗菌薬存在下においても増殖する。ニューキノロン系に対しては耐性を示さない。

■酪酸菌
【ミヤBM】

 整腸作用以外に様々な効果があり、芽胞形成による各種刺激への高い抵抗性が知られています。また酪酸は腸管粘膜のエネルギー源として利用され、水分吸収促進、腸管上皮細胞の増殖促進、抗炎症、抗潰瘍作用を有することも報告されています。

「芽胞」とは、一部の細菌が形づくる極めて耐久性の高い細胞構造で、酪酸菌を各種抗生物質と同時に投与した場合にも腸管内において発芽、増殖することが確認されています。耐性乳酸菌製剤が耐性をもたない抗生剤には、ミヤ BM が有効である可能性もあります。

 ほか、酪酸菌配合剤としてビオスリー(ラクトミン+酪酸菌+糖化菌)があります。

ラックビー微粒Nの配合変化試験結果

それでは本題に戻りたいと思いますが、今回の件はラックビー微粒Nのインタビューフォームに記載のある社内実施試験の内容がもとになっています。

無題

ⅩⅢ.備考 その他の関連資料の項目に上記のような試験結果が掲載されています。高温多湿環境下では、ベリチーム、酸化マグネシウムとの混合で4週間後には、1/4、1/2程度に生菌数が減少していることがわかります。

単独なら生菌数は減少しないのか?

【参考資料】
ビフィズス菌製剤の生菌を死滅させる要因,病院薬学,Vol.6,No.1,p50-54,1980

 1980年なので、ラックビー(LacB)が微粒Nになる前のものだと思います。ラックビーに対して「温度、湿度」を変えて試験を行い生菌数の変動をみたものになります。資料の中ではラックビー以外のビフィズス菌以外の生菌数の変動もみています。

相対湿度
ここから湿度の数値が結構出てくるので、目安として主要都市の相対湿度について気象庁のホームページで検索してます。

1981~2010年の30年間の平均相対湿度(6~9月)
・北海道(札幌):71~76%
・東京:73~77%
・福岡:72~75%

 だいたい夏の期間だと70%付近におさまっています。年間を通してみても60%程度と高めに維持されます。

■ 湿度の影響

無題1

 湿度が40%を超えてくるあたりから急速に生菌数が減少し、50~60%湿度ではほぼ検出限界以下になってしまっています。

■ 温度の影響

無題2

LacBを4℃で1gあたり54mg(5.4%)吸湿させたものを各温度で保存しています。4℃は冷蔵庫程度の温度を想定していると思いますが、吸湿していても10日間後も生菌数は保たれています。逆に夏の気温程度の温度(27℃)での保管では10日間でかなり生菌数が減少していることがわかります。

吸湿していても低温を保てば生菌数が保たれ、逆に高温でも吸湿しない条件であればある程度の期間生菌数が保たれるということが言えます。

他の乳酸菌製剤は大丈夫なのか?

無題3

 乾燥させた各生菌製剤をガラス製の容器に入れ、27℃各湿度で2週間保存した結果です。
 ラクトミンはビフィズス菌よりは吸湿に強いものの湿度60%以上ではやはりある程度の生菌数の減少はみられています

 このことからも、他の生菌製剤についても保管条件には十分注意する必要があることがわかります。

 ただし、芽胞につつまれている酪酸菌【ミヤBM】はちょっと違うようで、外的環境につよく、高温・多湿でも生菌数が保たれるという結果がでています。(インタービューフォーム)

無題4

市販包装形態より製剤を取り出し、20gずつシャーレに保管したものを各条件下で試験したものです。
3か月まではほぼ生菌数が保たれており、6か月においてもある程度生菌数が保たれていることがわかります。

さいごに

これからじめじめと暑くなるシーズンが続くため、薬の保管には十分気をつける必要があります。

【参考資料】
各種インタービューフォーム、添付文書
一包化調剤後の酸化マグネシウム錠の保管に対する乾燥剤の有無が安定性に与える影響,YAKUGAKU ZASSHI,Vol.138,No.11,2018
ビフィズス菌製剤の生菌を死滅させる要因,病院薬学,Vol.6,No.1,p50-54,1980
日経DIクイズ,2009年1月
松本康弘の「極める!小児の服薬指導,日経DIonline,2018年4月23日
笹嶋勝の「クスリの鉄則」,日経DIonline,2012年11月20日

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