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地域で楽しく過ごすためのゼミ 9月 1/2

2020年9月28日、地域で楽しく過ごすためのゼミが開かれました。

今回の課題図書は『観光立国の正体』(著:山田桂一郎 藻谷浩介 2016年 新潮社)です。担当は菅野、守岡です。
この文章では、実際にゼミで使った要約文章を掲載します。

─<以下要約(菅野分)>─

① 本の選定理由

近年、日本は観光立国を目指しているが、その施策の現状が知りたいと思った。観光業において日本が抱える課題とその対策について学びたいと思った。

② 本の主な主題

本書の主題は日本の観光立国における問題点を具体的に考える事である。日本の観光には大きく分けて二つの問題点がある。マーケティングの思想が欠けていることと、「地域全体が豊かにならないと観光地として長続きしない」という視点が欠けているということである。二人の著者が、実例を交えながら日本の観光における課題を指摘している。また、その課題に対して彼らが考える方策を提示している。

③ 章立て

本書は二部構成になっている。第一部は観光のあるべき姿について山田氏がスイスと日本での経験をもとに論じている。第二部では山田氏と藻谷氏が第一部の考え方を踏まえて実例を交えながら「地域創生」と「観光振興」について対談している。
I. 観光立国のあるべき姿
第1章 ロールモデルとしての観光立国スイス
第2章 地域全体の価値向上を目指せ
第3章 観光地を再生する−弟子屈町、飛騨市古川、富山県の実例から
第4章 観光地再生の処方箋
II. 「観光立国」の裏側(対談)
第5章 エゴと利害が地域をダメにする 
第6章 「本当の金持ち」は日本に来られない
第7章 「おもてなし」は日本人の都合の押し付けである

④ 各章の要約

I. 観光立国のあるべき姿

第1章 ロールモデルとしての観光立国スイス

・「非日常」よりも「異日常」を

スイスのツェルマットは地理的に不利な条件に立地するにも関わらず、観光地として成功している。その理由は住民の満足度を満たす地域作りにある。

・リピーターを獲得せよ

観光地の持続的な運営にはリピーターの獲得が必要である。

・常に生き残るために必死な国

歴史的な背景からスイスは常に生き残るために必死な国である。そのため、自力で生き残る方法を考え実践し成功してきている。スイスでは外部からの補助に頼らず、地域内の経済を自立させ、継続的に利益を生み出す仕組みができている。

・英国富裕層によって「発見」されたアルプスの山々

スイスが観光大国になったのは19世紀半ばにイギリスの富裕層の間で「登山」が流行したからである。アルプスの住人たちは自分たちの「日常」がイギリス人には「異日常」であることを発見し、そこに付加価値をつけた。
地元で調達できるものは地元で調達し、住民がお互いを支え合う。

・国そのものをブランド化

「スイス=高品質」という印象を醸成し、値段が高くても売れるようにした。
あらゆる業種が観光産業と連携してマーケティングを行なっている。

・日本の観光地がダメになった理由

観光ビジネスに携わる人々の危機感の薄さ
お客が減った理由を景気のせいにしている。お客の満足度やリピーター確保の努力を怠った。

・頭の硬いエライ人

・「観光でまちおこし」の勘違い

そこに住む人々の豊かな暮らしが実現しない限り「強い観光地」はできない。「やっていて楽しい」が長続きのポイントである。

・「人手がかる産業」=「観光産業」を大事にせよ

第2章 地域全体の価値向上を目指せ

● ツェルマットの例

・客単価を上げて収益性を向上している

・ブルガーゲマインデ:住民自治経営組織
住民主体で地域経営を機能させている。地域全体の利益・利潤の最大化を行い地域住民の幸せと社会の豊かさを目指している。「地域内」でお金を回す。地域全体でお金を稼ぐ。

・観光局:自主財源を持った独立組織
ブルガーゲマインデ決めた方針に基づいて具体的なマーケティングとブランディングを手がける。

・環境(昔からエコツーリズムに力を入れている)
景観保護のための建物の規制。徹底した自然環境への配慮。

・馬車と電気自動車
村内のメーカーが電気自動車を製造している。

・「時間消費」を促す=「地域内消費額」アップ
体験プログラムやツアー、アクティビティなど地域をじっくり楽しんでもらえるソフト面を充実させる。

・ガイド・インストラクターは憧れの職業
ヨーロッパではガイドやインストラクターのステータスが確立されており、高収入なガイドが多い。プロのガイドやインストラクターがお客様の満足度を高める。

● 最も重要なのは人財
お客様を満足させるのは「人」との関わりによるもの(接遇)が含まれている。地域を豊かにするのは人であり、豊かな地域には豊かな人財が集まり次世代を育んでいく。

 第3章 観光地を再生する−弟子屈町、飛騨市古川、富山県の実例から

(1)弟子屈町「てしかがえこまち推進協議会(えこまち)」

町内のあらゆる事業を「住民主体、行政参加」の組織に集約し効率化。ブルガーゲマインデのような活動理念を定め、「誰もが自慢し、誰もが誇れる町」を地域の目標とした。住民主体で旅行会社を設立し、自分たちのアイディアで企画した旅行商品を販売することで、地域の本質的な価値を提供できている。

(2) 飛騨市古川「(株)美ら地球」
外国人に大人気の「里山体験」=「その地でなくては手に入らないもの、体験できないもの」地域の「日常」を商品化。えこまちを手本に「まちづくり協議会」を運営。

(3) 富山県「とやま観光未来創造塾」
富山県が実施している人材育成事業。地域全体で観光関連産業に携わる人材育成を行う。参加者がレベルやスキル、フィールドを選ぶことができる。育てた人財が「富山らしい、富山ならでは」の商品やサービスを生み出している。

第4章 観光地再生の処方箋

・ピラミッド型のマーケットを構築せよ

客単価を上げて富裕層のお客様を積極的に取り入れ、トップエンドを引き上げることによって、裾野を広げた市場を形成する。富裕層からのシャワー効果が鍵となる。
※シャワー効果:上位マーケットの恩恵が末広がりに波及して全体の売り上げが向上する。

・日本の観光地は富裕層を取りはぐれている。富裕層にとっては、高額でも「その場所でしか体験できないこと」に価値がある。

・格安ホテルチェーンが地域を壊す。
いつでも、どこでも、誰にでも ❌
今だけ、ここだけ、あなただけ ⭕

・近隣のライバルと協力した方が儲かる。

・休日分散化

・社会全体に「観光」を位置付ける重要性・・・訪日外国人旅行客だけでなく、国民の旅行参加率を上昇させなければ経済活性化はあり得ない。

 ・「地産地消」より「地消地産」=「地」元で「消」費するものは「地」元で生「産」する。

・ 高付加価値商品

・サービスで地域に落ちるお金を増やす。

・明確な将来像を描け
訪日するための明確な理由や必然性を明らかにする。
例)「健康寿命」「観光を通じて平和な社会を構築していく」
日本が観光立国となるためには、そのビジョンは世界中から尊敬されるような品格のあるものでなければならない。

II. 「観光立国の裏側」二人の著者が議論を展開

第5章 エゴと利害が地域をダメにする 

・地域ゾンビ
地域を牛耳って自己利益を図る人物。観光協会等の組織で役員の老齢化が進んでいる。

・間違った首長が選ばれ続けている
行政と地域住民がうまく連携できない。

・行政が手がける「劣化版コピー事業」
住民主体の重要性

・補助金の正しい使い方
補助金依存の危険性。補助金は一時的な補助エンジン

・ボランティアガイド=ストーカー
質の低いボランティアガイドは相手の望むことを確かめず自分の知識を上から目線でしゃべり続けて観光客につきまとっているだけ。プロのガイドを育成する必要がある。通訳案内士の活用。

・観光業界のアンシャンレジーム(旧体制)
観光とは:お客様を受け入れる側が地域全体で稼ぐことである。
マーケティングとは:顧客が求める商品やサービスを作り、その情報を届け、顧客がその商品を効果的に得られるようにする活動の全て」

● マーケットイン的な発想が重要である。

・観光庁の構造的問題
PDCAサイクルが回らない・・・顧客データベースがないので顧客フィードッバックがない。CとAが欠けている。

第6章「本当の金持ち」は日本に来られない

・アラブの大富豪が泊まれるような高級リゾートが日本にはない。

・ポジショニングを理解せよ
ボジショニングがある商品=客から見て買う必然がある商品
今だけ、ここだけ、あなただけの重要性
B to B (企業間取引)・・・旅行代理店だけがもうかってしまう
B to C (企業対消費者取引)・・・お客様からの直接のフィードバックが重要

第7章「おもてなし」は日本人の都合の押し付けである

・あるものを出す ×
日本の「おもてなし」は「相手が何を望んでいるか」をマーケティングしたものではない。宿泊施設やレストランの客観的評価基準がない。多言語表示や多言語放送の質など課題が多数ある。

⑤ 本全体の要約

スイスをロールモデルとすれば、日本の観光業が抱える課題を解決できるはずだ。日本の観光産業は明確な戦略がなくプロダクトアウトの思考に偏っている。旅行者も住民も幸せを感じることができる豊かな地域=「感幸地」の創造には「住民主体の地域経営」と「地域の価値向上」が重要であり、そのためにはその地域でしか提供できない商品やサービスを売り込んでいくべきだ。

⑥ 感想・批判

前半は観光立国スイスの長所が多数あげられ、日本はそれを見習うべきであると述べられている。しかし、果たしてスイスは観光立国として完璧なのかという疑問がある。見習うべきところは見習い、スイスの観光業において失敗があるのなら、そこから学ぶこともあるのではないだろうか。訪日外国人旅行客だけでなく、国民の旅行参加率を上昇させなければ経済活性化はあり得ないと述べているが、国内の旅行参加率向上に対する施策があまり論じられていないように感じた。
 後半は実例が多く、日本の観光業の現状が想像しやすかった。著者たちは基本的に日本の観光業の批判を展開するので、悲観的な気持ちになった。今後の観光業に希望を持ちたい。

─<以上要約(菅野分)>─

次の記事に続く

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