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頁13「なんですか、それ」

勝手にしてきた失恋はいくらでもある。
じぶん勝手に好感を抱き、なにかのタイミングであっという間に打ち砕かれる。
寄せては返す波のように、失恋をしてきた(しすぎ)。

いつも絶妙においしい差し入れをしてくれる大きなひとがいた。
「僕もうこれじゃないとダメで」と、聞いたこともないヨーロッパのチョコレートの詰め合わせだったり。じぶんではきっと一生買わなかったろうなという、渋い黒糖かりんとうドーナツ棒(?)みたいなものだったり。

そしてあるときに、「コート忘れましたっ」と戻ってきて、「Shake Shack 食べてて思い出しました」と言うのを聞いたときに、波は寄せて来た。この人、食べるのが好きなんだろうな、という好感の波だ。

それで、ひさしぶり会えたときに、「プルドポーク、知ってますか?」と、切り出してみた。すこし前に知って、憧れていた肉料理だ。

アメリカ人がやたらと熱狂している印象のバーベーキュー料理・プルドポーク。ホロホロのあのお肉を食べてみたい……そうずっと思っていたところに、先日ついに食べられる機会を得て、おいしく大満足しつつ、「大きな人もプルドポークを当然知ってるのだろうな。このお店、教えてあげたいな、いや知ってるかな」などと思っていたところだった。

だから訊いてみた。「プルドポーク、知ってますか?」と。


「なんですか、それ」


波が引いた。
ずあーーん。


プルドポーク、知らなかっ……た。意外。

勝手に抱いた好感と、勝手に期待していたプルドポーク熱で繋がるふたりの未来は、あはれ藻屑となった。

「◯◯さん(別の部署の女性)なら知ってるんじゃないかな」

……いや、そういうことじゃないんだ!


情報交換をしたいんじゃない。
こころを交わし合いたいんだ。


でもどうか大きいひと、いつかまたどこかで、今度こそプルドポークに出会ったら、思い出してはくれまいか。昔、急にプルドポークの話をしてきたやつがいたことを。

や、こうなったら思い出さなくていい。ぜひただプルドポークのおいしさに出会ってほしい。おいしいから、プルドポーク。絶対に気に入るはずなのよ。

そして全人類よ聞いてくれ。急にプルドポークの話をしてくるやつがいたら、それはもちろんプルドポークのおいしさを共有したいのもそうだけど……おまへが好きなんだ! そんで間違っても他の女性の名前を出したりしないであげてほしい。頼むっす。

そしてもしもだけど、もしもおまへもほんの少しでもそいつに好意があれば、一緒に食べに行ってみてはくれまいか。おまへを好きなやつはイイやつで、プルドポークはおいしいから。

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