真砂さんと木のスプーン
真砂さんは私より一ヶ月あとに同じ部署にやってきた派遣さんだ。
マスクをしていても美人さんであることは明白で、ハツラツとしていて、それでいて控えめで、ちょっと天然さんでもある。
真砂さんとは、机が遠いのであまり絡むことはないけれど、お昼にレンジでご飯を温める仲間だ。
私からくらべてずいぶんと真砂さんは少食っぽい。
「ピスタチオクリームにハマっているんです(笑)」
と冷蔵庫からたぶんピスタチオクリームを塗ってきた食パンサンドを取り出すところを二度は見た。食パン2枚を挟んで半分にカットしてきたものだ。
それで足りるのかな? 私には到底足りない……。
真砂さんがハマっているピスタチオクリームのおいしさより、そのことがいつも気になった。
そんな真砂さんが、電子レンジの前で小ぶりな木のスプーンを両手で持ち、レンジをひしと見つめながら加熱時間が終わるのを待っていた。
「なんですかその可愛い……」
ひまわりの種を抱えたリスのような、ホタテ貝を抱えたラッコのような、木のスプーンを持った真砂さんの可愛い様子に思わず驚嘆の声が漏れてしまった。
すると真砂さんは、
「いえ、あの。私、食器とかがカチャンって鳴る音が苦手で。家の食器ほとんどが木のなんです」
……え? 理解するのに一瞬時間が必要だった。
そして、再び真砂さんの可愛いが押し寄せてきた。
いや、そうじゃなくて真砂さん。
私は真砂さんのその木のスプーンが可愛いだなんて言ってるんじゃなくて。そんな風にスプーン抱えて電子レンジを見つめている真砂さんの可愛い姿に驚いてるんです。
(家じゅうの食器が木ってのも、それはそれで可愛いけれどもね。)
真砂さんは、控えめにひかえめに、それはそれは謙遜しながら、笑っていた。
ああ真砂さん。ただでさえ可愛いのに、可愛いって言われてじぶんのことだなんて微塵も思わずに木のスプーンについて説明してくれちゃうなんて。
私もその技、盗めるものなら盗みたい。
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