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頁7「誰にも言ってないんですけど」

「学生証、失くしちゃったんですよねぇ」
その日初めて会った社会人大学院生とそんな会話の流れになった。

映画観るときとか困らない? と訊ねてから、ああ、映画館とか行かないか……と質問を取り下げるように言うと、

「昨日観に行きましたよ。あまりにも暇で」

暇で映画館……すごいな。
暇って感覚が私にはないぞい。
そう感心していると、

「『◯◯』観ました。あ、違う。『◯◯』は飛行機の中で観たんだった」

結構観るのね映画。ますます感心してから、ふと疑問が。

飛行機の中で一本映画観ることができたってことは、それなりに遠くへ行った?

「行きました(笑)。誰にも言ってないんですけど、グアム」

や、まぁ、誰にも言わずに海外旅行へ行くことって全くなくもないと思うんだけど、そう言うってことは、本来なら当然言う関係の周囲の人々がいるのにもかかわらず……ってことなんだろうね。

だとして、なぜそれを私に?

初対面だから言いやすかった?
ただ、言う流れになったから?

にしても、「誰にも言ってない」ことを、じぶんだけに、とか、最初にじぶんに、言ったとなると……

しかも、わざわざ「誰にも言ってない」と言及された日にゃ……

なんかそこに、あるのかな?

なんて思っちゃうじゃんかね。
特別ななにか、がね? あるんか? とかね?

で、私もこれ一応誰にも言わないほうがいいんでしょう?

……え?

“秘密の共有=恋の始まり”……?

!!!!!

あれ? 恋始まってた!?

たははーーッ! なわけあるかいッ。


すごいなぁ。私なんて、日々ほぼ誰とも話していないから「誰にも言ってない」ことばかりなんですけど。

でも──もしか、もしかしたら。彼もそうかもしれない。なんてことは?
「誰にも言ってない」ことばかりの人かもしれない。なんてことは??

そんな、誰にも言ってないことばかり同士で、おたがいにちょっとずつ“言って”いきながら、恋とか、そんなことみたいのが、できたら。そんなの、いいなぁ。

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