ちゃんと言うよ
最寄り駅が三つある。それぞれをABCと呼ぶとして。
これまでの人生のほとんどで徒歩20分強のA駅を利用してきた。しかし、ここ一年は路線の関係でB駅を利用している。こちらは徒歩25分。
けれど、このGW明けに定期が切れるタイミングであったり、他にも様々な理由で、「C駅を利用できないか?」という考えが浮上した。
とはいえ、C駅にはほぼバスでしか行ったことなく、徒歩での所要時間は未知数だった。Google Mapでは徒歩25分とあるけれど、B駅は20分という検索結果からして私の足ではC駅へは30分はかかりそうだ。
そんなわけで、GWの二日目、Google Mapの経路を頼りにC駅まで歩いてみることにした。
まず歩きだして5分もしないうちに、「そんな道はない」という事態に陥った。どんなに地図と見比べてみてもそんな道はなく、行き止まり。獣道の名残りでもありそうな様子でもなく、ただ切り立った山というか森林というかがそこにはあり、もしかしたら大昔なら山伏とかがこの峠を越えた─なんてことはあったのかもしれないけど、とにかくそんな道はなかった。……確かにGoogleストリートビューはなかったけれど、実際には小径があるのかなと思っていた。けれど、なかった。
なので、とりあえずはその無き小径に沿った道を進んだ。結果、公園というかほぼ森のなかをひとりガシガシと山越えしなければならなかった。望んだことのない山ガールに一瞬だけちょっとなった。分岐道でも標識がない箇所もあり、やたら不安にもなった。幼い頃からよく訪れてはいた大規模自然公園ではあるのだけれど、高低差がハードめであまり足を伸ばさないゾーンだった。
そんなこんなで山を越え森を抜け、一般道へ出た。そこからは、しばらくまた上り坂が続いた。
この日はというと、カラッと晴れていて気温も高めで、帽子はまだしも日焼け止め目的のマスクはかなり息苦しくて反射光による紫外線の害から逃れる術はあきらめざるを得なかった。
えっちらおっちらと墓地の横を歩き続け、峠にあるお寺を過ぎればようやく下りになる。
やっと辿り着いた頂上付近では、お墓参りの人たちがたくさん出向いてきていた。ただし皆、自家用車、もしくはタクシーで。
見晴らし台のようなスポットからの景色はさすがに良く、しかし遠く空は霞んでいて晴れていたら拝めたであろう富士山が見えなかったのは残念だったけれど、それでも、この景観にまみえることができれば人は何度でも山を登るわなぁと合点がいった。
さて、いよいよ下りである。さんざん上ってきたので、下っても下ってもまだまだC駅は先のようだった。
ようやく結構下りてきたなぁ、というあたりで4〜5人の家族連れとすれ違った。雰囲気的にお寺へ向かっているっぽかった。息子とおぼしき中年男性が「まだ1㎞は先だよ」とスマホを見ながら後ろ向きな声で言っている。それを聞いた母親とおぼしきご高齢の女性は、大げさなと言わんばかりに「よく言うよ」と吐き捨てた。
いや正直、あのぐらいのご高齢女性が私が今下ってきたお寺からの道を上りきれる気がしなかった。この家族、なんで歩いてんのよ、タクシーでお行きなさいよ、息子は “よく言って” などいないよ、“ちゃんと言ってるよ“。そう振り返って彼らの行く先をひどく案じた。
それからまたすこし進むと、道の先に、C駅直結のデパートの看板は急に見えた。やった! と思った。家を出てから52分が経っていた。このルートは、なしだ。
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