跳ねる【棒アイドル】(毎週ショートショートnote)
ぼくをこの世界に留めておく必要はあるのだろうか。
どうしておまえは。どうしてできない。
そんな言葉を呪詛のように一日中デスクで聞いていると床も天井も歪んで落ちていく。
辞めるか。
そのあとは?
受け入れてくれる場所の保証などない。
仕事帰り、通りかかったグラウンドにひとの姿。
黙々とストレッチをし、ジャージの上着を脱ぎ捨てる。長いパンツも脱ぐと片足が棒のようだった。
あれは。
真っ黒い影のようにも見える棒はよくしなり、走り出した女性を地面から押し出しているように見える。
その棒のような足は跳ねるようにぼくのところへ彼女を連れてきた。
彼女は珍しい?と言って笑った。
この足はね、親友なの。
あなたは走れるのに走らないのね。
そんなふうにみえる。
一緒に走ってみない?
彼女は先に立って弾むように走り出す。
ぼくも革靴で走り出す。
汗が出てくる。
彼女の棒の足はどんな人間よりも軽々と地面を蹴ってぼくをいざなう。
ぼくは泣いた。
そして走り続けた。
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