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m_oonote
光る種 #シロクマ文芸部
手渡されたのは光る種だった。
誰に渡されたのだろう、覚えていない。
もう長いことわたしのポケットの中にそれはあった。
不思議なことにその種はわたしにしか見えない。ポケットの中にあっても薄ぼんやりと光っているのがわかる。まるで蛍のようだ。
ポケットの中にそっと手をやり、その小さな固い石のような種に触れる。
気づいたらわたしの癖になっていた。
放課後の教室は静かだ。
自宅の部屋よりもこっちのほうが落ち着く。
不機嫌なママの顔は見たくない。
八つ当たりの言葉は聞きたくない。
黙々と絵を描きながら、わたしはママよりも大人にならなければならないことに憤る。
わたしが絵を描くとパパを思い出すからママは怒る。わたしの絵と2人が別れたことは関係ないのに。
おまえ、いつもポケットに手を入れてるな。
振り返ると、いつのまにかクラスメイトの男の子が側に立っていた。
わたしは慌ててスケッチブックを閉じる。
そのポケットになに入ってるの?
近づいてくる男の子に見せたくない。
わたしはとっさに種を飲み込んだ。
薄暗くなっていた教室にホタルが飛ぶ。
こんな季節外れに。
ぼくは彼女の光る胸を指さした。
そこ。光ってる。
彼女が視線を落とす。点滅をしている淡い光が彼女の俯いた頬を照らす。
今度、ぼくに絵を教えてよ。
もうポケットの中のこと聞かないからさ。
彼女の胸がカチカチと笑うように光った。
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