仲直り【ビール傘】(毎週ショートショートnote)

今朝も彼女は口をきかない。
機嫌が悪くなるといつもこう。
気を遣って話しかけてもむすっとしている。
返事も冷たい。
おれ、何かした？
もしかして気が利かないとか？
理想のラインに達してないとか？
好きなのは変わらない。
変わらないけど、こんな態度取るのってどうよ。

前も言ったけど、もう少しこれからのこと考えてほしい。自分1人なら好きにしてもいいけど。
気が利かないみたいに責める目してる。
言い方も冷たい。
以前は優しかったのに。
好きなのは変わらない。
変わらないけど、こんなふうになるなら、わたしどうしたらいいの。

駅に着いたら雨が降っていた。
黒い傘をポンと広げておれは歩き始める。
蒸し暑いからビールでも買って帰ろうか。
傘で前が見えなかったから、目の前に立っていた人にぶつかりそうになった。
あ、すいません！
見ると、透明のビニール傘の下で俯いた彼女が缶ビールを突き出していた。

ビール傘で相合傘も悪くない。
おれは自分のを閉じて、その傘の中に入った。