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レインシューズでタップダンスを #シロクマ文芸部

舞うイチゴ。
可愛いなぁと思ってそのレインシューズを買った。娘は可愛いものが好きだ。
レインシューズはベージュ色。そして全体に赤くて大きなイチゴがたくさん踊るように描かれている。
見ているだけでスキップしたくなる。
我知らず、口元がほころんでいた。


雨が降らなくても履くと言って駄々をこねるかもしれない。
でもいいわ。
娘はイチゴが大好きだから、好きなだけ履かせてあげよう。
そうだ、スキップを教えてあげようか。
ちゃんと覚えられるかしら。でもそんなのどうだっていい。
好きなように駆け回るのが一番だ。
あの子は1秒だってじっとしてる子じゃなかった。ちょっと目を離すと、もうそこにはいない。


家に帰り、紙袋から箱を取り出す。
箱を開けるとイチゴが散りばめられたレインシューズは薄紙に包まれていた。
その覆いからそっと片足づつ出してみる。
ことんと音を立てて床の上に置かれたそれは誰かに履かれるのを待っているみたいだ。
わたしにはとても履けないから手を入れてみる。
真新しいゴムの感触が伝わる。


スキップさせてみる。
意外と難しいもの。特に両手を入れたレインシューズをスキップさせるのは。
娘も出来なかった。
あの子はすぐに駆け出してしまうから。
だからわたしはタップを踏むように小刻みに揺らす。
イチゴのレインシューズが不器用な下手くそなタップダンスを踏む。


マーマ。
わたしを呼ぶ声がした。
じょーずー。
写真の娘が笑っている。
くまのぬいぐるみやお花に囲まれている娘はしあわせそうに微笑んでいて、わたしをじっと見つめている。
やめてほしくないのね。



たたん。
たたん。
ステップを踏む。
娘はきっと出来ない。
わたしの手があの子の足になったように、いつまでもタップを踏む。
見てる?見えてる?


#シロクマ文芸部
#舞うイチゴ



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