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いまあいにいきます(番外編)旅とは。

5時に起きられやしないだろうということはわかっていたので10分ごとにアラームを設定していた。
なんだかんだベッドから這い出てきたのは5時半を少しまわっていた。
余裕を見なくてはいけない。
6時20分には家を出る予定だった。
顔を洗い寝癖を湿らせてオイルをつけ、手櫛でおさえる。
顔に導入化粧水、化粧水、乳液、荒れた唇にはワセリンリップ。


トーストが焼ける間にコーヒーを淹れる。
寒い寒いと散々予報で聞いていたので極暖ババシャツを着込む。
コートを羽織りブーツを履き、グレーのお気に入りのストールを巻く。
いつもの出勤より1時間早い薄闇がピンクとオレンジに色がついていくのを見ながら歩く。
電車も運良く座れた。
出勤時の混雑は目指す駅に向かうごとにひどくなっていく。



お土産を買わないと。
わたしは抹茶味の甘い小さな個装のお菓子を手に取りレジに向かった。
頭の半分はまだ睡眠中だ。
レジの女性にこれで払うと言って無意識に見せたもの。
それをカードの差し込み口に入れたのだがうんともすんとも言わない。レジの女性が怪訝そうにタッチしてくださいと冷たく言う。
これと言って見せていたのはクレカではなくSuicaだった。



新幹線で約1時間。
無事に長野に到着。
さあ、少し待つことになるからと先ほど買っておいたルイボスティーとバウムクーヘン。
それを早く食べたいとJRの改札口へ。
そこにはSuicaのタッチするところがない。
あれ?そんなわけない。
またわたしがボケているのだ。 
あるべきはずのところに何度かSuicaを当てていると駅の方が窓口から顔を出してすまなそうに言った。すいません、こちらにまわって切符を買っていただいてからご入場ください。
わたしは切符の挿入口に懸命にSuicaをタッチしていたのだった。


松本に着いた。
Googleマップでは目指すギャラリーまで11分もしくは12分とある。
これを見ていけば間違いない。
わたしは初めて降り立った松本駅を堂々と歩き出した。
スマホを見やるとすぐに経路となっているはずの線から外れていることに気がついた。
あれ?どうして目指す場所から離れていくのだろう。
いや、でもこの道まっすぐ行けば遠回りでも結局着くからそのまま進む。
5分くらいオーバーしたがなんとか到着した。
やればできる。



ギャラリーを出る時に松本から乗る電車の時刻を確かめてみた。
17時34分。
なんだかんだ帰る時には挨拶やらハグやらお土産やらをいただき、手を振りながら階段でコケそうになったりとギャラリーを後にした時、すでに5分をまわっていた。
いや、でも来た道を引き返せばいいだけだ。
わたしは意気揚々と駅に向かって歩き出した。
とりあえずGoogleマップを確認してみる。


また歩いている方向と違う方に案内されている。
いや、違う。
案内されている方向と違う方を歩いている。


わたしは足が速い。
その昔、どうしてそんなに早く歩くのかと聞かれたことがあった。
生き急いでいるからと答えたことがある。


止まりたくないがしぶしぶ一度止まってマップを確認する。結構離れたところに来てしまった気がする。
行けども行けども松本駅がみえない、わからない。
完全に狭い生活道路に入り込み、マンションや駐車場などしかない。


そしてふと見るとスマホの残量が赤い線一本になっていた。


充電器を持ってこなかった。
これは生命線だ。
これを今失うわけにはいかない。
絶対に守らなければならないものがあるのだ。
昔、母がわたしに言った言葉を思い出す。



あんたは耳も目も口もちゃんとあるだろう。
よくまわりを見て、わからなかったら人に尋ねるんだよ。そして答えをよく聞くこと。


もうGoogleマップには頼らない。
人海戦術だ。


もうなりふり構わず、手当たり次第
松本駅はどちらですか?と帰り道を急ぐサラリーマンに聞き回った。


皆親切だ。
向こうにずっと行けばありますよ。
Googleマップを手にしながら人に道を尋ねているわたしは愚かに見えただろうか。


旅に必要なのは時間のゆとり、ちょっとした準備、間違ったらすぐに引き返す勇気だ。






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