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チョークとダンボール

ある貧しい家に生まれた少年が、幼い頃から夢見ていたのは、画家になることだった。

彼は、毎日のように自宅近くの公園で、 樹木や花々、そして人々の表情などを熱心に観察し、そのありのままの姿を、自分なりにスケッチしていた。だが彼は、自分が描いた絵を見る度に、達成感と同時に、まだまだ足りない何かを感じていた。

そんな中、彼はある日、図書館で借りた美術書で観た巨匠たちの作品に、深い感銘を受け、自分もいつかこんな絵を描きたいと強く願うようになった。

しかし彼の家はとても貧しく、画材を買う余裕がなかった。それでも彼は諦めず、ダンボールを切り取って、キャンバス代わりにしたり、先生に頼んで学校から持ち帰った短くなったチョークで描いたりしていた。

彼の作品は実に素朴であったが、それでも彼が描き出す世界には、何か特別なものがあった。彼の描く風景や人物は、独特の色彩感覚と大胆なタッチによって、鮮明で美しく描かれていた。

人々は彼の作品を見ると、その純粋な感性と情熱に感動した。 彼の類稀(たぐいまれ)な芸術的才能の噂は街中に広がり、ついには美大の講師や、画商たちの目にとまるようになった。

そしてとうとう、彼は念願の美術大学に推薦入学することができた。そこで磨かれた絵の技術はますます洗練され、 たくさんの人々の目を楽しませ、心を癒すことができるようになったのである。

彼は、自分が生まれた貧しい家に感謝しながら、 自分しか生み出すことのできない創造的世界を、惜しみなく人々に分け与え続けたのであった。

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