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よし、全員道連れにしよう。

最近びっくりするほど物忘れが激しくなっている父が、わたしが新しく出した歯ブラシを使ってしまった。

我が家の洗面台は、鏡に歯ブラシを引っかけておくフックがついていて、それぞれの歯ブラシの定位置も決まっている。
父が左、母が真ん中、わたしが右だ。
それを、何を血迷ったのか、右側の自分の場所に引っかけておいた歯ブラシを父が使ってしまったのである。

これは一大事だ。いろんな意味で。

わたしと母は驚くと同時にドン引いた。
そして、使われた歯ブラシは父に譲り、こんな惨事が二度と起こらないようにと、もう一度新しく出したわたしの歯ブラシに名前を書くことにした。

かくして、わたしは油性ペンを持ち出すと、歯ブラシの持ち手の部分にひらがなで名前を書いた。
これでもうあんな間違いは起こらないだろう。名前を書いた歯ブラシを持って、お風呂に入ろうとした。
そして、ふと考えた。

……自分だけ名前が書かれた歯ブラシ使うの、なんか恥ずかしくない?
25歳にもなって。幼稚園児じゃあるまいし。

———そうだ、父と母の歯ブラシにも名前を書けばいいんだ。
そうすれば、確実に自分の歯ブラシがどれか区別がつくし、一人だけ恥ずかしい思いをすることもない。

わたしはもう一度油性ペンを取りに戻ると、父と母の歯ブラシにもひらがなで名前を書いた。
ふふふ、これで全員道連れだ。

全員分名前が書かれた歯ブラシを見た母は、面白いじゃんと笑っていた。
次に自分の歯ブラシを見た父がどんな顔をするか、今から楽しみである。

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