【音楽×小説】青春のリグレット
「ちょっとお母さん!
この隣に写ってる男の人、誰!?」
夕食後、部屋に篭っていたかと思えば突然バタバタと出てきた娘の手にあったのは、私の若い頃の写真だった。
「………あんた、こんな昔の写真どこから引っ張り出してきたの」
「部屋で探し物してたら押し入れから出てきた!
それより誰この人!?超イケメンじゃん!」
「………お母さんが昔お付き合いしてた人」
しまった私でさえどこにあるのか、いや、しまっていたことさえも忘れていたような代物を、どうしてよりにもよってこの子が見つけてしまったのか。
気恥ずかしさから思わずボソボソと答えると、娘はきゃあっと黄色い声を上げる。
「え、お父さんよりこの人の方がイケメンじゃん!なんでこの人と別れちゃったの!?」
「うーん……
お母さんもね、この人のことが嫌いになって別れたわけじゃないのよ。
ただ、当時はどうしようもなかったっていうか……」
もちろん今となってはいい思い出だけどね、と付け足すと、娘はいやにキラキラとした目でこちらを見る。
………嫌な予感がする。
「聞かせて。続き」
はあっと盛大に溜め息が漏れた。
こんな表情をされては、無下にすることもできない。
「………しょうがないなぁ」
やったあ、と嬉しそうな娘に、私は思わず苦笑いする。
———どうやら、最後に交わした言葉の通り、笑って話せる日がきてしまったようだ。
苦笑いではあるけれど。
***
「一緒にアメリカについてきてほしい」
彼にそう言われた瞬間、とてつもない嬉しさと哀しさが同時に押し寄せた。
———彼には2つの夢があった。
叶えるために血が滲むような努力をしていたことも、時には心が折れそうになりながらも自分を奮い立たせて走り続けていたことも、そばで見ていたからよく知っていた。
そんな彼の奮闘が、ようやく実を結んだのだ。
嬉しくないはずがない。
………だけど。
海外で仕事をする、その夢が叶ってしまえば、その瞬間にもう1つの夢は儚く崩れてしまうのだ。
彼のもう1つの夢は、「幸せな家庭を築くこと」。
彼が私との結婚を考えてくれていたことは勘づいていたし、私も彼となら、と思っていた。
それでも。
自分の仕事を諦めることができない、日本での生活を捨てられない私では、彼の夢を実現させることはできなかったのだ。
***
「………本当はお母さんもその人のこと大好きだったのに、別れなきゃいけなかったってこと?」
話を聞く前はキャッキャとはしゃいでいた娘は、それが嘘のように泣きそうな表情をしている。
「………残酷なことを言うようだけど。
大人になればなるほど、好きって気持ちだけではどうにもならない恋もたくさんあるのよ」
だから、あんたも今のうちにめいっぱい恋愛を謳歌しなさい。
そう付け足すと、娘は泣きそうな表情のままくしゃりと笑ってみせた。
***
松任谷由実さんの「青春のリグレット」を基に小説を書いてみました!
母が運転する車でいつも流れていたユーミンの曲は、私にとって小さな頃からとても身近な存在。
久々に聴きたくなって電車で聴いていたら、ふと浮かんだお話でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました✨
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