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【音楽×小説】モラルの葬式
「だから、【モラル】は殺されたんだよ」
———私の隣に座った【プライド】は、耳を疑うような言葉を放った。
「………殺されたって、誰に……?」
「決まってるだろ。
………この世の中に、だよ」
***
【モラル】が亡くなった。
この世界が回る上で必要不可欠だった彼の死は大きな波紋を呼び、彼を弔うために開かれた葬式には、最後の別れを告げようと多くの人々が訪れた。
呆然とした様子で前列に座る【愛】や、その隣で煙草をふかしながら物思いに耽る【哲学】。
手を伸ばし、一生懸命に棺に白いバラを投げ込む幼い【無垢】と、バラを入れられるように彼女を抱き上げる【知恵】。
仲間たちの様子を見ながら、私は彼が亡くなる直前のことを思い返した。
———ネットでの誹謗中傷や、世の中で需要が高まっている物の転売。
された人の気持ちを一切省みず、それを悪びれることさえ無いような行動。
時代の流れと共に増殖し、複雑化していく数多の悪意。
【モラル】はきっと、それらに疲弊してしまったのだ。
………もしかしたら、彼の仲間だった私たちでさえ、知らず知らずのうちに彼を傷つけることがあったかもしれない。
私は、いつも相手の気持ちを考えた行動が出来ていただろうか?
「———それでは最後に、私【理性】から一言述べたいと思います」
考え込んでいた私は、彼の母親の声ではっと我に返った。
………もう、それほどまでに時間が進んでいたのか。
「………私は、息子の凛とした声やまっすぐな眼差しを一生忘れません。
息子は、姿は見えなくなってしまいましたが、きっと今でも灯台のように私たちを照らしているのだと私は信じています」
「迷った時やはぐれた時、道が見えない時。
善と悪の節目に、あなたの心の中に、そっと彼は生き続けることでしょう」
涙を流しながら頷く人に、割れんばかりの拍手を送る人。
会場にいた誰もが【理性】の言葉に共鳴している様だった。
———その時、誰かが立ち上がる音がした。
驚いて振り向くと、【真実】が【理性】を見つめている。
そして彼女はこう言った。
「………私も息子がいたの。
【希望】がいなくなっても、彼は今でも皆の中で生きている。 私も、そう信じているわ」
***
アンジェラ・アキの「モラルの葬式」を基に小説を書いてみました!
テーマ的にとても複雑で難しいし、アンジェラ・アキの曲は曲そのものが1つの物語として完成しているものが多く、この曲も然りなので書きながらとても悩みました。
………何とか形にしてみたものの、曲そのままになってしまったなと自分でも思います。
それでも、今書くべきだと思ったので、思い切って書いてみました。
……ちなみに、この曲が「誰」の目線で書かれているのか、その答えは歌詞の中にあります。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
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